10年間で検挙数2倍超 「スマホ盗撮」激増の裏側
相変わらずスマホによる盗撮事件が後を絶たない。
3月2日には、愛知県警の前捜査四課長がJR東海道線金山―南大高間を走行中の列車内で、女子高生を盗撮していたとして県迷惑防止条例違反で逮捕された。前課長は約2年前から盗撮を繰り返していたとみられ、停職3か月の懲戒処分となっていたが、4月28日付けで依願退職した。
2021年の盗撮行為の検挙件数は過去最多に
現在(2022年)、全国の15歳〜79歳男女のスマホの普及率は94%(NTTドコモ モバイル社会研究所調べ)。つまり国民のほとんどがスマホを所持している中で、スマホ盗撮事件は激増している。
4月13日配信の毎日新聞によれば、2021年の盗撮行為の検挙件数は5019件で過去最多。11年に1930件だった検挙件数は10年間で2倍超になったと言う。
盗撮事件で加害者の弁護経験もある品川菜津美弁護士はこう話す。
「盗撮事件は、確かに増えているようです。肌感覚ですが、事務所で取り扱っている刑事事件全体のだいたい3〜4割程度という割合は変わっていないのですが、最近は問合せの母数が増えているように感じます」
「盗撮」機材の最新トレンドとは?
増加の背景には、スマホの普及に加え、盗撮に悪用できてしまう超小型カメラの普及も関係しているようだ。夕刊紙記者は〝機材〟の最新トレンドについて語る。
「ライターやボールペン、サングラス、目覚まし時計、火災報知器風の装置などに仕込まれた直径1ミリほどの穴から撮影する仕組みの隠しカメラが『防犯グッズ』の名目で、秋葉原や通販サイトで普通に売られています。映像はWi-Fiで飛ばすので、外見からは全くわかりません。
2015年に某アイドルグループの着替えやトイレを盗撮した映像が出回ったときも、この手のライターやボールペンなどを使用したと報じられました。さらにGoProなどの小型カメラやドライブレコーダーを悪用する例もあります。スマホを含め、その気になれば、いつでも誰でも簡単に盗撮ができてしまう機器が身近にある時代なんです」
しかし、もちろん盗撮行為は犯罪。各都道府県が制定する「迷惑防止条例」によって罰せられ、東京都の場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金(常習の場合は、2年以下の懲役または100万円以下の罰金)」となる。前出の品川弁護士が続ける。
「のぞき見などで、『軽犯罪法違反』の場合、拘留(1日以上~30日未満の身柄拘束)または科料(1000円以上~1万円未満)となりますし、『迷惑防止条例』には、軽犯罪法より重たい懲役刑や罰金刑が定められています。
盗撮の際に住居に侵入し、住居侵入罪が成立すれば、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金となります(刑法130条)。名古屋では、地下鉄の駅に〈痴漢や盗撮は犯罪です〉といった内容が書かれた愛知県警のポスターが貼られており、啓発活動にも力を入れているようです」
その愛知県警の前捜査課長が盗撮でお縄となったのもなんとも皮肉だ。
盗撮で一生に棒を振る可能性も・・・
品川弁護士は加害者、そして被害者の印象についてこう続ける。
「個人的な感想ですが、加害者の傾向として、まじめで普通の人、きっちりした会社にお勤めされているという印象の方も多くびっくりさせられます。特殊な性癖で犯罪を行うというものだけではなく、〝日常のストレス発散のため〟盗撮する例が多くなった印象もあります。
その背景には、スマホをはじめ、小さくても簡易かつ鮮明に撮影できるツールが開発され、一線を踏み外してしまうハードルが低くなったこともあるかと思います」
一方、被害者は若い女性が多いという。また、名古屋で言えば、人の集まりやすい主要な駅のエスカレーター等での被害が見られるというが、被害者や盗撮場所もさまざまなようだ。逮捕された場合の示談交渉について品川弁護士はこう話す。
「やはり被害者に誠意を尽くして謝罪をし、反省の気持ちを伝えることが重要であると考えています。また、安心していただくために、加害者に、盗撮した場所や駅に今後立ち入らせないように約束させるなどの対応を取ることもあります。
示談金をお支払いするというご提案をすることも多いです。もちろん、そういった示談交渉が難航するケースもありますし、被害者自身や、被害者が未成年の場合、親権者が感情的に許せないケースもあるでしょう。加害者の想像以上に強い処罰感情を持っている場合も多いですね」
ちょっとしたイタズラ心を起こしたら、一生を棒に振るのが盗撮だ。
「報道などで名前が出てしまうと、職場や学校などの人間関係に影響を与えることもあり、会社員の方は解雇問題にまで発展することや、学生であれば就職活動に悪影響が及ぶことも考えられるでしょう。軽い気持ちで一線を踏み越えてしまうと、加害者の想像以上に大変な事態に陥ってしまうという犯罪の類型といえるかもしれません」(品川弁護士)
盗撮は犯罪。「つい出来心で…」なんて言い訳は通用しないのだ。
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