小林製薬「紅麹サプリ」健康被害“薬害”とは異なる? “機能性表示食品”賠償責任は「国ではなく企業」のワケ
小林製薬の「紅麴」の成分を含むサプリメントを摂取した人が健康被害を訴えている問題で、厚生労働省はこれまでに5人が死亡し、166人が腎臓の病気などを理由に入院していることを明らかにした(4月1日現在)。
連日ニュースを騒がせている「紅麹サプリ」をめぐる一連の問題について、薬機法に詳しい大山泰寛弁護士は「国は責任を負わない」と説明する。
さらに、「小林製薬は今後、消費者および遺族から賠償請求訴訟等が提起される可能性がある」という。
「薬害」には当たらないワケ
紅麹が含まれていた小林製薬のサプリメントは「保健機能食品」と呼ばれるもので、その名の通り「食品」だ。サプリメントなど薬のような形状をしていたとしても、「医薬品」とは異なるため、健康被害が起きても、国の責任が問われる「薬害」には認定されないと大山弁護士は説明する。
「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収をおだやかにする」など、健康の維持や増進に役立つ効果・機能性をパッケージなどに表示できる保健機能食品は、さらに細かく3種類に分類されている。
いわゆる「トクホ」と呼ばれる「特定保健用食品」、野菜ジュースなどに多い「栄養機能食品」、そして今回問題となっている紅麴の成分を含むサプリメントなどが当てはまる「機能性表示食品」だ。
このうち「特定保健用食品」として食品を販売するためには、表示されている効果や安全性について国の審査を受け、許可を得なければならないと法律で定められている(健康増進法第43条第1項)。
「栄養機能食品」は、特定の栄養成分が定められた上・下限値の範囲内含まれていれば、国に個別の許可申請をせずに、国が定めた表現によって機能性を表示できる(※)というもの。しかし、機能の表示が可能な栄養成分は「カルシウム」「鉄」「ビタミンC」など20種類に限られている。
※栄養成分の機能だけでなく注意喚起も同様に表示する必要がある(食品表示基準第7条及び第21条)。
今回問題となった「機能性表示食品」は、科学的根拠に基づいた機能性を表示したものであることは他の2つの保健機能食品と同様だ。販売前には、安全性や機能性の根拠を消費者庁長官に届け出る義務もある。しかし、国が個別に許可したものではないとして、大山弁護士は次のように注意を呼び掛ける。
「『機能性表示食品』に表示されている機能性や安全性は、販売事業者の調査資料によるものです。トクホ(特定保健用食品)では、人を対象にした臨床試験が必須ですが、機能性表示食品の場合はこれもありません。製造・販売企業が、科学的根拠となる“文献”を提出するだけの届け出制で、国(行政)が審査しているわけではないです。したがって、『機能性表示食品』で起きた事故の場合、国は責任を負わず、製造・販売企業のみの責任となるのです」
裁判に発展する可能性「ある」 争点は?
冒頭の通り、今後、小林製薬に対する訴訟が起こる可能性は「十分にある」という大山弁護士。
「紅麴サプリの摂取による体調悪化事案の続報や、摂取によると考えられる死亡事案の情報も入っていますので、場合によっては集団訴訟になることも考えられます。死亡事案であれば、請求金額も多額となることが予想されます」
その上で、小林製薬が提訴された場合の争点についてはこう話す。
「法的には紅麴サプリと死亡結果との因果関係が争点となるでしょう。先に述べた通り、『機能性表示食品』はそもそも臨床試験を経ていないものも多くありますので、まずは、紅麹サプリの成分が人体にどのような影響を与えるのか、科学的見地から考察・立証していく必要があるでしょう」
ちなみに現時点で、紅麴サプリに混入していた有害物質は「プベルル酸」ではないかと言われているが、まだ腎臓など人体への影響はわかっていない。
これまでに起きた「食品」での公害
これまでも食品に有害物質が混入し、消費者が被害を受けた「食品公害」は起きている。
森永乳業徳島工場で生産された育児用粉乳の中に、中毒を引き起こすヒ素化合物が混入していた「森永ヒ素ミルク中毒事件」(1955年)。カネミ倉庫社製のライスオイル(米ぬか油)の中に、有害物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入していた「カネミ油症事件」(1968年)。雪印乳業大阪工場で製造された低脂肪乳などに黄色ブドウ球菌が産生する毒素エンテロトキシンが含まれていた「雪印乳業食中毒事件」(2000年)などだ。
しかし、機能性表示食品で健康被害が公表され、メーカーによる自主回収にまで至ったケースは、制度開始の2015年以降初めてだという。
健康増進をうたう食品によって起きた健康被害。小林製薬には全力で実態解明を進めてほしいが、機能性表示食品としての食品に一定の「お墨付き」を与えていた国にも今一度、制度設計の見直しなど、手綱を引き締めることが求められるだろう。
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