「テレワーク」の過重労働で“初”労災認定 弁護士「脱法状態であるケースも少なくない」と指摘する“濫用実態”

弁護士JP編集部

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「テレワーク」の過重労働で“初”労災認定 弁護士「脱法状態であるケースも少なくない」と指摘する“濫用実態”
会見を開いた笠置祐亮弁護士(4月3日都内/弁護士JP編集部)

先月8日、関東地方で女性が発病した精神障害はテレワーク業務に起因するとして、横浜北労基署が労災認定を行った。テレワーク業務の過重労働で労災が認定されたのは、公表されているなかでは本件が初となる。

これを受け、女性の代理人弁護士らが3日、厚生労働省で記者会見を行った。

絶え間のない業務指示、過労死ラインを超える残業時間

労災が認められたのは横浜市に本社がある外資系の補聴器メーカー「スターキージャパン」に勤務する50代の女性。主にテレワークで業務を行っていた。

2021年の後半から女性の所属部門で社員の退職・新規入社が相次ぎ、負荷が増大。また、女性の上司は女性に対してチャットやメールを通じ、ときには数分単位で作業の確認や催促の指示を行っていた。さらに、上司は女性のミスをあげつらい、ミスを集計して部内で公表していたという。

また、上司は午後6時を過ぎてから翌朝が期限の作業を指示したり、金曜日や土曜日に週明けが期限の作業を指示していた。そのため女性は平日は午後10時まで業務を行い、加えて日曜日にも業務を行っていたものの、女性には「事業場外みなし労働制度」が適用されていたため、残業代は支払われなかった。

2022年3月、女性は適応障害を発病。直前2か月の残業時間は1か月あたり100時間を上回り、いわゆる「過労死ライン」を超えるものであった。

2024年2月、会社は労基署からの是正勧告に基づき、約94万円の未払い時間外手当を支払った(遅延損害金を含む)。

テレワークで発生する過重労働

女性の代理人である笠置裕亮弁護士と有野優太弁護士は会見で、テレワークにおける「事業場外みなし労働制度」の濫用やテレワーク労働者の過重労働の問題を訴えた。

「本件の最大の特徴は、被災者は事業場外みなし労働制度(労基法38条の2)の適用を受けながら、テレワークにて就労していたところ、テレワークでの労働が過重な労働であったとして、労災認定されたという点にある」(配布資料より)

厚生労働省は、企業がテレワーク労働者に対し事業場外みなし労働制度を適用するためには、以下の二点を満たす必要があるとしている(「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」記載)

1:情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと

2:随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

女性は勤務時間中に上司からチャットで絶え間なく指示を受け、常に短い期限での業務遂行を求められていた状況であった。業務用のPCから自分の意思で離れられる状況ではないため「1」は認められず、詳細な業務指示が存在していたことから「2」も認められなかった。

また、テレワークに限らず、「事業場外における労働時間が算定し難いこと」が、企業が事業場外みなし労働制度を適用するための条件となる。しかし、女性は常に上司の指示を受けており、指示に対応している間は業務を行っていることが明白であったため、労働時間の算定は容易であり、制度を適用するための条件は満たされていなかったという。

「事業場外みなし労働制度」が濫用される問題を訴える

労使協定で定める事業場外のみなし時間が8時間以下の場合には、事業場外みなし労働制度について労基署への届け出は不要とされている。

笠置弁護士は、事業場外みなし労働制度は会社にとって導入が容易なうえ、オフィス設備にかける費用や残業代を浮かすことができるため、会社側のメリットが大きな制度であることを指摘。

また、届け出も不要なことから、これまで労基署は事業場外みなし労働制度の監督や摘発をほとんど行っていなかったという。

しかし、たとえテレワークであっても労働者が使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っているなら、事業場外みなし労働制度の適用条件に違反する。「政府には濫用事案の取り締まりを速やかに、きちんと行っていただきたい」と笠置弁護士は訴えた。

また、通常の場合、PCでのテレワークは企業にとって労働時間の管理が容易になる。コロナ禍に伴いテレワークが浸透するにつれて事業場外みなし労働制度を導入する企業も増えたが、実際には「労働時間が算定し難い」という要件を満たさない脱法状態であるケースも少なくない、と代理人弁護士らは指摘。

「本件では、労基署が的確に事業場外みなし労働制度の濫用を見抜き、労災認定を行ったという点で評価できる。このような動きは、全国的に広がっていくべきであり、事業場外みなし労働制度の濫用が行われていないかどうかを精査していく必要がある」(配布資料より)

女性は会見には参加しなかったが、メッセージを記載した資料が配布された。

「この事件が世の中に周知されることにより、きっと、どこかにいる誰かの命を救うことができるような気がしています」

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