「朝起きるのがつらい」は甘えか? 荻上チキが社会問題を“作り続ける”ワケ
朝早く起きるのがつらいと感じることはないだろうか。
モヤモヤした思いを抱えながらも、会社や学校で周りの人はそうしているからと、無理に早起きして体に負担をかけてしまっているかもしれない。
しかし、朝が苦手であることもひとつの「特性」として認めるべきだと語るのが、評論家の荻上チキさん。もし朝から活動できない人がいるならば、会社や学校がそうした人が適応できる仕組みをつくるべきだと提案する。
荻上さんはラジオ番組「荻上チキ・Session」をはじめ、テレビ、新聞、インターネット、書籍など、あらゆるメディアを横断して活動している。これまでにネット炎上、いじめ、宗教二世といった社会問題について情報発信してきたが、この度、書籍『社会問題のつくり方 困った世界を直すには?』(翔泳社)を刊行した。
同書は子どもでも読みやすい絵本形式で、人々が日々の生活で直面した困りごとを起点として、それを世の中に伝えて社会を変えていく重要性を伝えている。
朝起きられないのは「だらしがない」のか?
たとえば、冒頭の例のように、朝が苦手でどうしても起きられない人がいるとする。それは現代の日本社会では、「だらしがない」「甘えている」などと捉えられがちだ。
自分自身でもそう思って、自己嫌悪に陥ってしまうかもしれない。しかし、荻上さんはまた別の観点から考察する。
「たとえば私たちは、生まれながらにして、神経のレベルで朝型、昼型、夜型などがある程度決まっていて、それを変えるのはなかなか難しいとされます。他にも、多動傾向や感覚過敏など、さまざまな発達特性が指摘されていますね。このような状況を踏まえて、昨今、ニューロダイバーシティ(神経多様性)という言葉が普及しています。これを例に、今日は考えてみましょう」
人それぞれで力を発揮できる時間帯に違いがあるにもかかわらず、今の社会は朝から活動することが当然だとする「朝型社会」になっているという。確かに誰しも、人は朝から活動するべきだという考えが、無意識に染み付いているかもしれない。
「今のような朝型社会では、昼型・夜型の子どもたちは学校でどうしてもボーッとしてしまって、勉強に集中できません。すると周りからは努力不足・勉強不足だと言われてしまう。最終的には適応できずにつらくなって、学校に行けなくなってしまうこともあります」
では、一体昼型・夜型の人はどうしたらいいのだろう。荻上さんは、昼型や夜型の人も力を発揮できるよう「社会」を変えていくべきだという。
「意識」の変化が「制度」の変化につながる
そして、そのように社会をよりよい方向に変える時には、「社会意識を変えること」「社会制度を変えること」の二つの観点を持つべきと話す。
「この事例について言えば、まず神経多様性に対する認知が不十分なので、それを社会に向けて伝えていくことが大事でしょう。そして実際に昼型や夜型の人たちに合わせて制度を変えていく。そうするとシステムを柔軟にしたり、手厚くしていったりすることができます」
具体的には学校教育の現場において、次のような仕組みづくりを提案する。
「まずは授業にリモート参加やオンデマンド配信を取り入れたらいいですね。あるいは、始業時間の異なる昼型学校や夜型学校をつくっていく。通信教育や、家庭に先生が来てくれる『ホームエデュケーション』もひとつの手段です。そのような制度があることで、朝型社会に適応できない子どもたちは、学校に通う上での困りごとが減っていくはずです」
上記のような変革は一見、突飛で斬新すぎるアイデアだと感じる人もいるかもしれない。しかし荻上さんは、そのように自分たちの違和感や悩みごとを見つめ、社会問題を「つくる」ことにつなげる重要性を強調する。
常識となりつつある“ハラスメント”への対策もかつては…
「社会問題はすでに社会に存在するものだと考えられていますが、それが問題だという認識を社会で共有しないと、社会問題にならないんです。たとえば、ハラスメントは人類の歴史の中で昔から存在していました。しかし、それが問題視されて『改めよう』と声が上がるようになったのは、1960年代以降のさまざまな反差別運動(黒人差別・女性差別の反対運動など)がきっかけでした。そこで新たな概念が誕生して、改善しようという動きが生まれたんです」
差別やハラスメントはいけないという考えは、今を生きる私たちには常識となりつつある。しかし、その背景には被害者の権利を守るため邁進した人たちがいたのだった。だから今、自分自身が直面している悩みごとが些細なことのように思えても、それが未来の社会をよりよい方向に導くきっかけとなるかもしれない。
「社会問題をつくる動きが広まることで、人々が個々の能力を発揮できたり、個々の幸福を追求できるようになると思います。いろんな制度がつくられていくことで、社会に選択肢が増えていく。新たな選択肢の中で、能力を発揮できる人が増えていく。そんないい循環を生んでいくことができるはずです」
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