被害拡大する「紅麹サプリメント」は“薬害”の可能性も!?  機能性食品学の専門家が「真犯人説」指摘

弁護士JP編集部

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被害拡大する「紅麹サプリメント」は“薬害”の可能性も!?  機能性食品学の専門家が「真犯人説」指摘
機能性食品の専門家は紅麹サプリメントそのものにリスクがあると指摘する(小林製薬HPより)

死者5人、入院者数は延べ212人(7日時点、厚労省発表)になるなど、関連が疑われる被害者数が増え続ける小林製薬の紅麴サプリメント被害。因果関係はいまだ不明だが、効能効果をパッケージに記載できる「機能性表示食品」がサプリメント市場を底上げ。完全とはいえない制度のままで利用者が増大し、結果的に被害を大きくしたとの見方もある。メーカーで医薬品の薬理安全性や機能性食品研究に従事した経験もあり、機能性食品学を専門分野とする芝浦工大・越阪部奈緒美教授に、制度の問題点や制度を活用した健康食品のリスクなどについて聞いた。

機能性が表示された「食品」として流通していた

これまでに多くの被害が報告されている小林製薬の紅麹サプリメント。被害との因果関係の解明が急がれるなか、「プベルル酸」原因説なども浮上しているが、越阪部教授は同社の”紅麹サプリメント”そのものに着目している。

「紅麹(ベニコウジ)は、厚労省の食薬区分では医薬品的効能効果を標榜しない限り、食品としての扱いになっています。ですから紅麹色素は食品と扱われます。ところが機能性表示食品である紅麹サプリの機能成分は『米紅麹ポリケチド』(モナコリンKなど)です。小林製薬のHPでは、モナコリンKは米国で承認されている高コレステロール血症治療薬ロバスタチンと同じ物質であることを認めています。加えて、同サプリの摂取目安量は2mg/日とされていますが、同薬の臨床用量2.5mg/日と極めて近いんです。医薬品的効果効能こそ標榜していませんが、これらのことから”医薬品原料”を製造するという意思のもとに商品設計されていると疑われても仕方がないでしょう」

より効果の期待できるサプリメントを小林製薬が製造しようとしたと捉えれば、聞こえはいいかもしれない。だが、機能性が表示された「食品」として流通する商品が、実は医薬品レベルの成分に近い薬理成分を有するとすればなにが起こるのか…。

「ロバスタチンの添付文書(医師向けの使用上の注意)には、特に20mg投与時においては腎機能に影響があらわれる恐れがあるため、月一回の検査が必要であると記載されています。一方、紅麹サプリメントの裏面表示には“筋肉痛・脱力感・尿の色が濃いなどの症状が出た場合は(すなわち腎障害が起きたら)、ご使用を中止し、医師にご相談ください”とあります。このことからも、当該製品を摂取すると腎障害が起こることはある程度予測されていたのではないかと思います。特に今回亡くなられた方はいずれも70歳以上ということですから、加齢で腎機能が弱まっていた可能性は極めて高いと推察されます。そうした高齢者が”食品”だからと、安心して摂取し被害に遭った。そうだとすれば、ある意味で今回の事件は”薬害”ともいえるのかもしれません」(越阪部教授)

なぜ医薬品レベルのサプリメントが生まれてしまったのか…

「この件は他の機能性食品と同列に考えてはいけない極めてレアなケース」としたうえで、越阪部教授は、こうした事態を招いた原因を次のように指摘する。

「食薬区分リストを定める厚労省がなぜ、当該原料を医薬品リストに収載しなかったのかは大変不思議です。ロバスタチンはもともと、青カビがエサとして米や麹を利用して増殖する過程で産生される物質として発見されました。また紅麹サプリも米や胚芽を原料にして、ロバスタチンを生産しています。このような最終製品が“食品である”という考え方には、とても違和感があります。また、商品中に青かびが生成するプベルル酸が検出されたとされていますが、食品工場ではHACCP(危害分析重要管理点)が導入されており、コンタミ(混入物)があるロットは市場には出荷できないはずです。もし青カビが混入してもすぐに検出でき、出荷が見合わせられます。今回はそれが見落とされたという点も疑義が残ります。」

紅麹サプリが機能性表示食品として記載が許されている文言は、「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」。これは疾患ではなく、状態に触れる表現にとどまっているので医薬品的効果効能にはあたらないぎりぎりのラインといえる。併せて、厳格なHACCPをすり抜け、「プベルル酸」が原因物質として浮上する不可思議。制度の隙間を縫い、システム上、確率的にかなり低いハズの”見落とし”も加わり、脱法的に医薬品レベルのサプリメントが製造されてしまった…。これが、機能性食品学の専門家による今回の事件の見立てだ。

信頼揺らぐ機能性表示食品制度の行く末は?

被害拡大が止まらない小林製薬の紅麹サプリメントは、3月26日および27日付で消費者庁に撤回届が提出され、事実上市場から”消滅”した。だが、2015年の制度スタートからの懸念を凝縮したような健康被害が残した爪痕は、社会に衝撃を与え、制度の存亡を揺るがしている。

食品と薬品には明確なラインがあるのだが(越阪部教授note「OsaLab」より」)

自見はな子消費者担当大臣は紅麹サプリメントの被害拡大を受け、市場に流通する約7000件(1693社)の機能性表示食品の総点検を緊急要請した。また、あらゆる可能性を排除せず、制度の見直しを検討することを明言。2日には、機能性表示食品制度の在り方ついて検討する対策チームの立ち上げを発表し、5月末をめどに制度の課題や在り方を、見直しも含めて踏み込んで議論するとしている。

越阪部教授は最後に、機能性食品学の専門家として次のように提言した。

「機能性食品の概念が生まれてから40年がたとうとしています。この間、機能性食品の認知度は高まり、大きな産業として成長してきました。しかしながら今回の事件で、それが崩れ去ろうとしています。

原因は一つのメーカーの瑕疵(かし)というだけでなく、行政やメディアなどそれらを取り巻く環境が招いた事態と思われます。また、食品機能性研究が、食品とは全く性質の異なる医薬品をお手本として行われてきたという背景が、さまざまな齟齬(そご)を生んできた原因なのではないかと思います。

ひとつの提案として、今後の食品機能性研究は、医薬品の背中を追いかけるのではなく、食品は医薬品とは異なるメカニズムで恒常性を維持し、私たちの健康を守ってくれていることを証明していくことが重要なのではないでしょうか? 本事例を教訓とし、 “機能性表示食品制度”の思い切った見直しを進めていただけるよう心から望みます」


越阪部奈緒美(おさかべなおみ)
芝浦工業大学システム理工学部生命科学科教授。某有名メーカー入社後、9年間医薬品の薬理安全性研究に携わる。その後同社において、15年間トクホを含む機能性食品研究開発業務に従事。現所属では、教育・研究活動を展開中。専門は食品機能学、特にポリフェノールの機能性を長年にわたって研究。日本ポリフェノール学会理事・日本酸化ストレス学会評議員・日本食品免疫学会評議員・日本栄養食糧学会参与
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