部下に「バカ」連発… パワハラ上司を訴えるも慰謝料が“5万円”だったワケとは
こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
今回お届けするのは、上司が部下に「バカ」を連発した事件です。メッセージのやりとりで連発しました。あと、頭をたたいたり足を蹴ったりの暴行も。
ーー 裁判所さん、鉄槌を。
裁判所
「暴行はアウトだけど・・・『バカ』の連発はセーフです」(大洋建設事件:東京地裁 R5.2.17)
なんで!?
以下、詳しく解説します。
※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
▼ 会社
一般建設や店舗内装工事などを行う会社
▼ Xさん
昭和49年生まれ
平成15年入社
▼ パワハラ上司
取締役
事件の概要
Xさんは1年ほどで退職しました(令和1年8月入社、令和2年8月退職)。在職中に受けたパワハラを見ていきましょう。
▼ 侮辱メッセージ vol.1
以下のようなメッセージのやりとりがありました。
パワハラ上司
「府中消防署で漏水発生」
「明日15時に現場に行けるようであれば予定してください」
Xさん
「お疲れさまです。了解いたしました」
パワハラ上司
「行けるようであればって文章理解できない? 何でもかんでも電話して聞くんじゃなくて少し自分の頭で考えろバカ!」
「今後あまりバカだと2度と連絡しません」
ヒートアップしてますね。バカなしでも文章を打てるのに。
▼ 侮辱メッセージ vol.2
パワハラ上司はXさんに以下のメッセージを送信しました。
パワハラ上司
「職人を使うようであれば予算は半人工(編注:はんにんく。建築用語で職人など作業員1人に対する1日あたりの人件費を1人工と言い、半日分の人件費を半人工と呼ぶ)、午後の仕事も考えること」
「自分で材料持っていってできるのでは?」
「よく考えろ」
「ジプトン(編注:天井材)2枚で職人使うのか?」
「決まり次第ではなく期日は明日の昼です」
「小修繕になったら自分でも作業すること多々あるんだよ」
「よく文面見ろバカ」
いつも一言多いですね...。
▼ 侮辱メッセージ vol.3
以下のようなメッセージのやりとりです。
パワハラ上司
「また黒板に予定書いてないけど今日の予定どうなってるんだ」
Xさん
「お疲れさまです。すみません、了解いたしました」
パワハラ上司
「了解しましたじゃなくて今日の予定どうなってるか聞いてんだバカ」
たしかにXさんは上司の質問に答えておらず、上司がイラつく気持ちも分かりますが「バカ」は余計ですよね。
▼ 暴行
侮辱メッセージだけじゃなくて、手も足も出しています。暴行は以下のとおりです。
・頭を10回くらいたたく
・ヘルメットの上から頭を5回くらい小突く
・説教をしながら足を5回くらい蹴飛ばす
ーー なんで頭をたたいたんですか?
パワハラ上司
「Xさんが居眠りをしていたのでヘルメット越しに小突きました」
▼ 提訴
Xさんは慰謝料100万円を求めて提訴。使用者責任があるとして会社を訴えています(なお別途残業代も請求しており、判決で約164万円が認められています。詳細は割愛)。
ジャッジ
裁判所
「会社は慰謝料5万円を払え」
順番に解説します。
▼ 侮辱メッセージ
裁判所
「これセーフです(Xさんの社会的名誉、名誉感情を害するとはいえない)」
ーー なぜですか! 「バカ」を連発されてるんですが!
裁判所
「たしかにパワハラ上司が送信したメッセージは、表現方法として適切さに欠け、不穏当であり、Xさんが不快に感じるものであったことは否定できないが..」
ーーが!?
裁判所
「その頻度、経緯に照らしても直ちに業務の範囲を超えているとはいえず、Xさんの社会的名誉、名誉感情を害する程度・内容とはいえない」
マジですか・・・。バカを連発する必要ありますかね。バカと呼ばなくても指導できるやん。
▼ 暴行
裁判所
「身体的暴行についてはアウトです。不法行為が成立します。慰謝料額は5万円とします」
パワハラ上司
「ちょっと待ってください! 小突いたことはあるんですが、それには理由があるんです」
裁判所
「どのような理由が?」
パワハラ上司
「Xさんが電話に対応しない、交通違反をした、給油時にガソリンを吹きこぼした、打ち合わせの時にメモをとらないなど、注意散漫なところがあったのです。だから小突いたのです」
裁判所
「小突かなくていいでしょ...(=これらの事情が有形力を用いて指導・注意するに足りる事情に該当するということはできない)。頭部・足部への有形力の行使については、本件全証拠を精査しても、業務における指導・注意の方法として是認しうるような具体的事情は認められない」
■ 雑感
「バカ」を連発してるのに裁判所がセーフ認定したことは意外でしたね。身体的暴行はアウト認定してくれましたが、たったの5万円・・・低いですね。説教しながら蹴る必要あります? こんなに慰謝料が低いならパワハラ抑止につながらないですね。
その表現が指導として必要か? 相当性があるか? については裁判官の価値判断ひとつなので、裁判は運もあります。パワハラに厳しい裁判官にあたれば「バカなんてゼッタイ使っちゃダメだろ!」となりますが、今回の裁判官は「バカって言った回数も少ないしそんなことを荒立てるなよ」と思ったのかもしれません。
最後に
今回はパワハラメールが証拠として提出されていました。裁判では証拠が命です。証拠がなければパワハラ上司は「そんなこと言ってない」と平気でシラを切るので、ゼッタイに証拠を確保しましょう!
■ 相談するところ
パワハラ上司や会社に損害賠償請求したい方がいれば、証拠を確保して労働局に申し入れてください(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士へ相談を。
今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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