ロマンス・投資詐欺「40~60代」被害“激増”… 警察も手を焼く悪組織「トクリュウ」“感情のジェットコースター”手口とは
コロナ以降、特殊詐欺の認知件数が右肩上がりで増えているが、これほど連日のように詐欺被害がニュースになっているのに、まだだまされる人がいるものだと不思議に思う。
警察庁は今月、「特殊詐欺連合捜査班」を発足させ、特殊詐欺等を広域的に敢行する集団「匿名流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の取り締まり強化に乗り出した。トクリュウとは、従来の暴力団や準暴力団などに分類できない新たな犯罪グループであるが、彼らはここ最近、特殊詐欺だけでなく、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺でも暗躍していると見られる。
特殊詐欺の主な被害者である高齢者の場合、その被害を防ぐ難しさも理解できるが、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺の主な被害者は中高年(40~60代)だという。
投資ブームの火付け役「老後2000万円発言」
昨今の投資ブームを見ていて、思い出したことがある。2019年に金融庁の報告書を受けてなされた、当時の麻生太郎財務大臣の「老後2000万円発言」である。
金融庁の報告書によると、平均的な高齢夫婦の場合、公的年金などでは毎月約5万円の赤字が続き、退職後の30年間で2000万円が不足するとの例を示している。その上で、年金受取額の減少などを見据えて、若いうちから積み立て、分散、長期の投資などを奨励している。
これを受け、当時の麻生太郎財務大臣は、「100まで生きる前提で退職金で計算してみたことがあるか。普通の人はないよ。(中略)そういったようなことを考えて、きちんとしたものを今のうちから考えておかないといけないのですよ」(金融庁「麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要」より)と発言し、金融庁の報告書を肯定している。
若者は投資、高齢者はタンス預金で市場にカネが回らない
政治家なら「まあ、金融庁がそうした報告書を出したことは承知している。国民の皆さんは、老後の生活は心配しなくていい。わが国は、国民の老後を考えて、皆さんが100歳まで生きても健康で文化的な生活が営める政策を用意している」と、国民を安心させるべきである。麻生氏の発言を聞いて、筆者は当時「不安に拍車をかけてどうすんだよ」と思ったものだ。
案の定、投資だNISAだと老いも若きも投資を始めた。特に若年層の変化が著しい。25~29歳の場合、2021年は3年前に比べて11.3%増え17.9%となっている。30~39歳の増加も顕著で、5.6%増の19.1%になったとある(野村総合研究所 2021年12月15日)。余裕のある若い人が可処分所得を投資に回している。高齢者はせっせと貯金するものだから、世の中にカネが回らないことにもうなずける。
世間の風潮を巧みに利用し、感情のジェットコースターに乗せるトクリュウ
こうした社会の風潮を利用し悪事を考えるのがトクリュウである。特殊詐欺のうち「もうかります詐欺」は、被害者の「あわよくばもうかりたい」という下心に付け込み詐欺を働く。高齢者を狙った「オレオレ詐欺」とは性質が異なる詐欺形態である。
被害者学的にみると、「オレオレ詐欺被害者」の高齢者は“完全な被害者”といえるが、「もうかります詐欺被害者」は“誘発的被害者”なのかもしれない。もうかりたいという動機から、自らの意思で、多額の現金を見ず知らずの人間に託しているからだ。
なぜ、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺にだまされるのか不思議に思われる方も多いと思う。それは、筆者が特殊詐欺の元主犯格だった人から聞いたこと。すなわち、詐欺師は「感情のジェットコースター」を作るという手口であった。
最初は親切、意に反すると激高
投資に誘うトクリュウが生息しているのは、フェイスブックやインスタグラム、マッチングアプリ等である。以下では、筆者の「だまされたふり」実践例を抜粋してご紹介する。
【ケース1:筆者が経験した詐欺@マッチングアプリ】
女性「私、投資で生活してるの。いま、誰でもしていますよ。今度一緒にやりませんか。一から教えますから大丈夫ですよ」
筆者「へえ、投資やってんの。どのくらいもうかるのかな」
女性「まあ、日によって金額は違うけど、少なくとも1日100万円前後はいくよ」
(ここで、銀行残高の推移を示す写メを送ってくる)
筆者「すごいね。じゃ、機会があったら、リアルに会ってテクニックを教えてよ」
女性「うん、絶対やんなきゃ損だよ。教えてあげる」
(数日後)
女性「もうすぐ取引始まるから、一緒にやろう。ここにお金を預けて。私が教えるから、大丈夫」
筆者「いやいや、知らない人にお金を預けるってないでしょ」
女性「あなた! 一緒にやるって言ったじゃないの。だから、私は忙しいのに時間作ってんだよ(怒)」
筆者「事前に、リアルに会ってテクニック教えてとは言ったけど、投資をするとは言ってないよ。面識ない人に金を預けるのは、普通に考えておかしくない?」
【ケース2:筆者が経験したロマンス詐欺@フェイスブック】
女性「はじめまして。私は、国連の医師です。いま、中東のシリアに来ています。現地は、食料や薬が欠乏して悲惨な状況です。ここ数日、状況が悪くなりました。近いうちに、私も国外に脱出しなくてはいけませんが、荷物などが多いので心配です」
(数日後)
女性「今日、預けているお金を引き出しました。こちらは銀行が機能していませんから、荷物と一緒に輸送します。私は、日本人とのハーフですから、日本で病院を開業する予定です。そこで、お願いですが、私の荷物を預かってくれませんか。お礼は十分にします。ご迷惑はかけませんから、どうかお願いします」
筆者「そうですか。事情によってはお力にならないこともありません」
女性「あなたは本当に親切な人です。一刻の猶予もありません。住所を教えてください」
筆者「その前に、国連の身分証を写メでお送りいただけますか」
(数分後、国連職員〈UNHCR〉の顔写真付きIDが送られてきた)
筆者「いまからこのIDを、東京の南青山にある国連日本支部に確認します。確認が取れた上で、緊急避難的に荷物をお送りいただくか検討します」
女性「それは、止めてください。解雇されてしまう。あなたを信頼してお願いしているのよ! 一刻の猶予もないのが、分からないの(怒)」
筆者「そうなの。でも、荷物の中にご禁制の品が入ってたら、こっちがリスクじゃん。身元確認するか、荷物を断念するか、どっちか選んでね」
“オレオレ”から「SNS型投資詐欺」「ロマンス詐欺」にシフトしている可能性
警察庁によると、令和5年1月から12月の認知件数と被害額は、「SNS型投資詐欺」2271件、約277.9億円、「ロマンス詐欺」1575件、約177.3億円。合計被害額は約455.2億円となり、特殊詐欺被害額の約441.2億円を凌駕している(特殊詐欺とは、オレオレ、預貯金、詐欺盗、架空料金請求、還付金詐欺など)。
「SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺ともに昨年(編注:2023年)下半期の増加が顕著。1件当たりの平均被害額は1000万円超。被害者の年齢層は、男性が50歳代から60歳代、女性は40歳代から50歳代が多い。SNS型投資詐欺はもちろんロマンス詐欺の多くでも、投資が詐取の名目となっている」という(警察庁 捜査第二課、組織犯罪対策第二課「広報資料」)。
オレオレ詐欺の高齢被害者とは異なり、一般的に考えてだまされづらそうな年齢の方が被害に遭っていることは嘆かわしい。メディア報道に耳を傾け、詐欺犯罪を人ごとと捉えず日々警戒するとともに、トクリュウの犯罪は変幻自在であることを肝に銘じ、「面識ない他人にお金を預けない」ことを徹底してほしい。
余談だが、昔のエロチャット同様、スマホの向こうにいるのは「女性のフリをした男性」であろう。中高年男性諸氏は、見知らぬ「男性」に恋心をもてあそばれないよう、気を付けていただきたいものだ。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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