「会社の不正を正したい」が制度を「信用できない」約4割の実状…報復回避して告発するための3つの肝【弁護士解説】
会社が不正を行っている…。かつての日本企業なら、一心同体でだんまりを決め込む社員も多かったかもしれない。だが昨今、企業不祥事は完全なる「悪」との認識が高まっている。隠ぺい・もみ消し等が発覚すれば、企業は計り知れないダメージを負うことになる。
内部通報制度(公益通報制度)は、会社の不正リスクの発見を容易にするために、上司を通じた”通常ルート”とは異なる報告ルートを設ける制度だ。2022年6月に改正「公益通報者保護法」が施行され、 従業員301人以上の事業者にその整備が義務付けられた。
調査で浮き彫りになった運用を阻害する5つの問題
では実際に内部通報制度がどれだけ機能し、企業の不正検知につながっているのか。管轄の消費者庁が調査し、3月にその結果を公表している。それによると、活用状況は芳しくなく、実効的な運用を阻害する5つの問題が浮かび上がっている。
② 内部通報窓口の問題
③ 内部通報制度に対する認識の欠如
④ 内部通報を妨げる心理的要因
⑤ 内部通報後の不適切な対応
①は、企業に不正がまん延する典型的な状況といえるものだ。具体的には品質不正があった企業の事例があがっている。
通報は「”そういうもの”として前任者から引き継いでいるため、誰かが声を上げることもなく長期間にわたり不適正行為が継続してしまったのではないか」や、「事業に染まっていない者でないと通報は困難」との指摘は末期的症状ともいえる。こうしたことから、通報以前に規範意識がまひしてしまったのではないだろうか。
②は、そもそも、内部通報窓口が、「まずは上司に相談してください」だったり、グループ会社には直接内部通報を行う制度は設置されていないなどの問題があげられている。
③は制度の存在を認識していない、趣旨の誤解、④は通報者が不利益を被る、不正の関与者などが内部通報に対応しており、そもそも実効的な調査実施への懸念がある。⑤は通報を受けた側が大事を避ける目的で適切な対応をとらないといったケースだ。
アンケートで鮮明になった制度の無関心度
これらの問題をなくすための制度でもあるはずだが、さらに調査からは、制度が十分に浸透していない結果が浮き彫りになっている。端的にそれを象徴しているのが、15~79歳の就業者1万人に実施したアンケート結果だ。
「内部通報制度の存在を知っているか」の質問に対し、「よく知っている」、「ある程度知っている」を合わせ、理解度は38.6%にとどまっている。制度が義務付けられている従業員5000人超の会社員でも、「名前は聞いたことがある」「知らない」を合わせて47.7%となっており、”無関心”ぶりが色濃い。
また、勤務先に内部通報窓口が設置されていることを知っている人では62.1%が「信用している」と回答している一方で、37.9%が「信用していない」としており、内部通報制度の存在意義が問われかねない実状となっている。
実際に内部通報した人が受けた仕打ち
弁護士JPニュース編集部にも、果敢に内部通報にトライした人からの投稿が寄せられた。投稿者によると、会社はかなり悪質な不正をはたらいており、勇気を出して内部通報したという。
ところが、通報が受け入れられ不正をただすどころか、投稿者に対する嫌がらせが始まり、メンタル不調に陥ってしまったという。さらに追い打ちをかけるように、体調回復後の復職希望も拒否され、退職に追い込まれたという。
投稿者は「日本はいまだ会社相手に立ち向かうこと自体がまだタブーな風潮が強いと痛感しています」とコメントを寄せてくれたが、それでも会社相手に訴訟を起こし、戦っているという。
報復回避で内部通報を実現する3つの肝
制度の趣旨は「会社に不正があれば内部から浄化を」だ。制度が機能しづらい職場環境・体質がまん延しているなら、社員は屈するしかないのか…。企業案件でも多数の実績がある辻󠄀本奈保弁護士に、報復を回避しつつ、内部告発を実現する際のポイントを聞いた。
「制度は通報者を保護するものです。とはいえ、通報窓口が結局は上司を経由するようになっていたり、社内にしか設置されていなかったりする場合はどうしても気になると思います。弁護士や第三者機関といった外部にも設置されていないのかは確認しておいたほうがいいでしょう」
その上で辻󠄀本弁護士は次のように助言する。「内部通報後、社内で通報に関するやり取りがあった際は内容を証拠として残しておくことです。通報後に万が一、会社側と争いになった場合、証拠が重要になります。証拠といっても、具体的にどのような証拠が必要かは状況次第ですので、どんなものが証拠になり得るかも弁護士に相談した方が無難です」
投稿者のように、勇気を出して、会社の不正を告発しても踏みにじられることがある。そのことを考慮すれば、相手が会社となるだけに、万一に備え、法律の専門家の力を借りることも選択肢の一つとしておいた方がよさそうだ。
辻󠄀本弁護士が補足する。「会社の悪い部分を告発するわけですから、うまくいったとしてもその後、居心地が悪くなることもあるかもしれません。なかなか難しいことかもしれませんが、会社を良くするために制度を活用したのですからその点は気にせず、むしろ堂々としていればいいと思います。ただ、公益通報者保護法に基づき通報者として保護されるためにはいくつか要件があります。そのひとつに通報内容が特定の法律に違反していることがあります。そうした点はきちんと確認しておいた方がいいでしょう。また、制度に基づき通報し、その報復として解雇通告されても、もちろんそれは無効です」
会社への忠誠心より、正義感が勝ったときに通報する。そうだとしても勢いだけでは難しい側面もあり、そうしたことも内部通報制度の活用を妨げる背景にありそうだ。
ちなみに米国では勤務先の法令違反行為に関する重要な情報提供を行った通報者に、行政機関が一定の報奨金を支払う制度が導入されている。通報者保護に偏重した日本とは、企業の不正に対する捉え方が異なる一側面といえそうだ。
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