“家賃アップ”に悲鳴続々、有名女優は「15万円超増」に驚愕の声も…賃料の“恣意的な値上げ”起こりづらいワケ
この春、「賃料が値上げされた」という人も少なくないのではないだろうか。
消費者物価指数(CPI)で賃貸住宅の家賃を示す指数を確認すると、2023年は前年に比べて0.1%上昇しており、今月19日に公表された先月分の指数では、前年同月比0.2%の上昇となっている。賃料の物価指数がプラスとなったのは、実に25年ぶりだという。
先月には、女優の鈴木砂羽さんがXに「更新で家賃15万6千円上がるって言われたんだけど」と投稿し話題となった。法律上、賃料は貸主と借主の合意によって決まるため、提示された賃料に不服があった場合は交渉できる。場合によっては調停・訴訟によって解決することとなるが、果たして現実問題として、交渉などによって「家賃据え置き」とすることは可能なのだろうか。
「勝手に賃料変更できない」法的根拠は?
そもそも「契約」とは、「当事者双方の意思表示(考えを表すこと)が合致することによって成立するもの」(法務省 法教育リーフレット「18歳を迎える君へ」より)だ。不動産に詳しい石川賢樹弁護士は「貸主が賃料を一方的に変更できてしまうようであれば、契約そのものに法的拘束力が認められないということがあり得ます」と説明する。
「この他にも、民法第601条は賃貸借について『当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと(中略)を約することによって、その効力を生ずる』と定めています。また、賃料の増減額をめぐる紛争については、調停前置主義が採用されていることから(民事調停法24条の2第1項)、ここでもやはり、賃貸借契約は、お互いの合意を原則としている、いうことが表れています」(同前)
貸主による“恣意的な値上げ”は起こりづらい
貸主が賃料の変更を求めることができる条件は、借地借家法第32条1項が「土地建物に対する税金などの負担が増えたとき」「土地建物の価格上昇など経済事情の変動があったとき」「近隣の同じような物件の家賃よりも安すぎるとき」の3つをあげている。
石川弁護士は「賃料はさまざまな要素が絡み合って決まるため、上記の限りではない」としながらも、貸主による恣意(しい)的な値上げは起こりづらいと話す。
「まず近年は、恣意的な賃料値上げは認められにくいということを理解している貸主が増えてきていることがあると思います。
また、住居の賃料は生活の土台となるものなので、通常、利益率はそこまで高く設定されていません。さらに、貸主にとって『空室』は非常に大きなリスクです。近隣の同じような物件よりも賃料が高すぎれば誰も契約しませんし、反対に安すぎれば契約希望者が集中するかもしれませんが、貸主にとって利益率は非常に悪くなってしまいます。よって、エリア、築年数、広さなど同じような条件の物件は、マーケットに任せておくと、大体似たような近隣相場となっていくのです」
不動産の価格は「最後」に上がる
いわば、近隣の物件同士が“にらみ合い”をすることで抑えられてきた賃料だが、ここにきて値上げが相次いでいる背景には、昨今の物価上昇があるだろう。
「人々の賃金の上昇幅よりも賃料の上昇幅の方が大きければ、みんな住めなくなってしまいますから、不動産の価格は最後に上がっていく部類のものになります。そのタイミングが今、いよいよ来たということでしょう。
貸主としても、物件を維持するための修繕費や人件費、固定資産税、ローンなどを払っていかなければなりません。よほど大幅な値上げでない限り、上昇した費用を家賃に反映しないと苦しい状況であることがほとんどだと思います。調停や訴訟で争ったとしても、賃料を据え置きにすることは難しいのではないでしょうか。
一方で、あまりに急激な上昇だった場合、貸主は争いになったとしても借主に物件から出て行ってほしいと考えている可能性もあります。貸主から提示された値上げ幅が気になる方は、一度その理由について聞いてみてもよいかもしれません」(石川弁護士)
鈴木砂羽さんの「賃料15万円超アップ」も“あり得る”
ちなみに鈴木砂羽さんの「15万6千円アップ」については、「場合によっては妥当な値上げ幅としてあり得る」(石川弁護士)そうだ。
「たしかにインパクトのある数字ではありますが、たとえば低層高級マンションだった場合は戸数が少ないので、修繕積立金ひとつとっても一軒あたりの負担は増加します。
前述のように、賃料というのはある程度の相場が決まっているため、単純に何かひとつの理由によって上がるということは考えづらいです。もともとの賃料によっては、貸主が支払っているさまざまなコストが底上げされて、それをカバーするために15万円ほど上げなければならなかったという可能性は、ゼロではないのかなと思います」(同前)
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