トコジラミフォビア(恐怖症)も発生…「目視・熱処理・殺虫剤」被害を防ぐ“3つの対策”
激しいかゆみを引き起こす「トコジラミ」の被害が高止まりしている。
昨年秋以降、日本同様に目撃情報が相次いでいる韓国では、トコジラミが発見されていない場所にいるにもかかわらず、不安を感じる「トコジラミフォビア(恐怖症)」を訴える人も増えているという。
有害生物に関する調査研究を行う公益社団法人日本ペストコントロール協会によれば、2022年度に寄せられたトコジラミの相談件数は683件に上った。
日本ペストコントロール協会の会員である大山克幸氏は「相談件数がどんどん増えています。まだ統計は出ていませんが、私の体感では23年が一番多かったと思います」と話す。
海外渡航者・訪日客の増加に合わせて被害が増えているという報道もあるが、大山氏は「もうそういうレベルではありません…」と声を落とす。
一体国内のどこで繁殖し、どのように広がっているのか。個人でできる対策方法などについて話を聞いた。
トコジラミは刺されても「かゆくない」?
トコジラミの繁殖実態・対策の前に、まずは生態から見ていこう。
江戸時代末期に外国船によって日本に持ち込まれたとされるトコジラミは、低温と飢餓に強く、北海道から沖縄まで全国に生息している。また、一度吸血されただけではかゆみが発生しないといい、3回ほど刺されてからさらに3週間ほど経ってようやく「激しいかゆみ」や「発赤」などのアレルギー反応が出る。そのため、かゆみが出てトコジラミの存在に人が気づいたころにはすでに繁殖しているというケースもあるようだ。
第2次世界大戦後から1960年代頃までは、都市部のアパートなどで発生していたが、生活環境の改善や殺虫剤の進化等により被害は減少。しかし、前出のグラフが示すように2010年頃から再び相談件数が増えている。
その要因は、日本人による海外旅行・出張や訪日外国人が増加し、荷物や衣服のすき間に付着した卵や幼虫、成虫が日本国内に持ち込まれたことだという。しかし前述の通り、日本ペストコントロール協会の大山氏は「すでに国内での繁殖が進んでいる」と指摘し、次のように説明する。
「海外に行かれた方が荷物に着けて持って帰ってきてしまう。これはずっと前からあったことで、今後もあると思います。しかし現状としては、海外旅行をしたわけでもないのに…という人のもとで被害が増えつつあるという実態があります。海外に行っていないから安全ということは、もうありません」
先月、電車の座席でトコジラミを発見したという人のSNS投稿が大きな話題を呼んだが、大山氏はこうした日常的なトコジラミの“発見”についても「今後増えると思います」と話す。
国内での繁殖の基点は大都市圏
国内では、一体どのような場所で繁殖しているのだろうか。
大山氏によれば、インターネットカフェ、宿泊施設の中でも「簡易宿泊所」、デイサービスセンターや病院など不特定多数の人が出入り・滞在する場所が基点になっているケースが多いという。実際に日本ペストコントロール協会の相談件数は東京、大阪、神奈川など人の流れの多い“大都市圏”に集中している。
そうした不特定多数の人が出入りする場所で、トコジラミが荷物や洋服に付着。気づかずにマンションや老人ホームなどの集合住宅に持ち込まれ繁殖するというケースがあるそうだ。
ちなみに集合住宅では、一室で繁殖し全体に広がった事例もあったというから恐ろしい。
家に持ち込まない・繁殖させないためには…?
こうした被害を防ぐための対策について、大山氏は「目視が基本」だと言う。
「外出からの帰宅時、衣類と手荷物をきちんと目で見てチェックするのが重要です。また、衣類は洗濯をして、乾燥機にかける。熱処理を30分以上するというのが一番効果的な“家に持ち込まない”対策だと思います」
さらに、海外旅行の後など荷物が多い場合は、ゴミ袋などの大きなビニール袋に、旅行かばんやキャリーケースを入れて密封し、ベランダなど日当たりのいいところに数日置いておく方法を勧める。
「夏などの暑い時期に有効な方法ですが、ビニール袋の中が熱くなるので、放っておけば虫が駆除できる仕組みです。お土産や機械など熱くなって困るものは取り出しておく必要がありますが、付着が一番心配な服や靴、かばんなどに潜むものは成虫・卵ともに駆除できます」(大山氏)
家でトコジラミ“目撃”したら?
その上で、万が一、家でトコジラミの姿を目撃してしまった場合はどうすればいいのか。よく効く殺虫剤について大山氏は二つの商品名を上げた。
「市販のものでトコジラミによく効果があるものは『マイティージャガーF』(神栄産業)と『イヤな虫 ゼロデナイト』(アース製薬)です。
『マイティージャガーF』は即効性と残効性(薬の持続性)、『ゼロデナイト』は残効性があると覚えておくと良いと思います。トコジラミが潜伏しやすい家具の隙間、畳の縁などにあらかじめまいておくと予防としても使えます。ただし、どちらも化学物質ではありますので、身体が触れる箇所に大量にまくことはおすすめできません」
刺されてかゆい場合に“効く”薬については、「ほかの虫刺されと同じ」と大山氏は続ける。
「トコジラミ特有の刺され方というのはなく、皮膚科の先生でも他の虫刺されと見分けるのは難しいのではないかと思います。私共でも、相談者さんから『ここ刺されたのよ』と見せていただくことがありますが、虫刺され跡だけでトコジラミと断定することはできません。まずは皮膚科に行って、症状を説明してお薬をもらうのが一番だと思います」(大山氏)
宿泊施設等から持ち帰った…?駆除費用は請求できるか
宿泊施設等から気付かないうちにトコジラミを持ち帰り、家で繁殖してしまったと考えられるケースもあるだろう。しかし、国内旅行業務取扱管理者の資格を持つ沢津橋信二弁護士によれば、「駆除にかかった費用などを宿泊施設等に請求するのは難しい」という。
「トコジラミ被害に関する損害賠償請求には、請求先(宿泊施設等)にいたトコジラミによって被害が発生したという因果関係が必要になります。また、トコジラミが繁殖して被害が出るまでにはある程度の期間が必要になりますが、宿泊・滞在してから被害が出るまでの期間が長くなればなるほど、請求するのは難しくなります」
一度トコジラミが繁殖してしまえば、駆除にはお金も時間も要する。海外旅行、国内旅行など人流が活発化するゴールデンウイークには、いつも以上の“水際対策”が重要と言えるだろう。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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