“犯罪者”の「親」は社会から責められ、自発的に“喪に服する”… 「加害者家族白書2023」が刊行
加害者家族から寄せられた3000件以上の相談を分析
「World Open Heart」(以下WOH)は2008年に仙台市で設立。「犯罪や不法行為の行為者ではないにもかかわらず、行為者と親族又は親密な関係にあった事実から差別や非難を受けている人々」を「加害者家族」と定義して、支援活動を行ってきた。
今回発行された「加害者家族白書2023」には、2023年3月までに同団体に寄せられた3071件の相談に基づく分析が掲載されている。
「殺人事件」の加害者家族からの相談が最多
「事件の内容」の指標によると、WOHに最も多く寄せられているのは「殺人事件」の加害者家族からの相談。また、強制性交や詐欺、強制わいせつ事件などに関する相談も多い。
日本の犯罪全体において殺人事件の占める割合は僅かであることをふまえると、被害者が死亡するような重大事件ほど報道で多く取り上げられ、それに伴い加害者家族が被る心理的・社会的なダメージも大きくなることがうかがえる。
また、阿部氏によると、「振り込め詐欺」の受け子・出し子の加害者家族からの相談も多い。一時は殺人事件よりも詐欺事件に関する相談件数が上回っていたという。
犯罪者の「親」の責任が厳しく追及される国
WOHへの相談者の男女比は男性が1489人に対して女性が1441人と、男性が若干上回っている。設立当初は女性からの相談が主だったが、団体の知名度が向上するとともに男性からの相談が増えていった。
「加害者との関係」の指標を見ると、「父親」からの相談が最も多い。日本は父親が子の犯罪の社会的責任を追及される社会であり、重大な事件ほど父親の社会的地位にも影響が生じる。また、地位が高いほど追及が厳しくなり、父親の受ける心理的・社会的ダメージも深刻になる。
阿部氏によると、諸外国では「犯罪者の子」の支援が重視されている一方で、親への支援が必要となることは少ない。子が犯罪を行ったために仕事を辞めることや、子の犯罪に責任を感じて自殺にまで至ることは、「犯罪者の親」の責任を過剰に追及する日本に特徴的な問題だという。
「相談者の年齢」は60代が最多であり、50代と70代も多い。近年では高齢の犯罪者が増えており、WOHでも高齢犯罪者の家族からの相談が増加傾向にある。また、「就職氷河期世代」(40歳〜50歳半ば)の親からの相談がとくに多い。 近年では加害者の親世代も経済的な余裕がないことが多いため、被害者への賠償などは加害者の祖父母が対応することも増えているようだ。
メディアスクラムや弁護人に関する相談も多い
「相談内容」の指標によると、「事件がどう展開していくのか」に関する相談が最も多い。具体的には、周囲への影響を懸念するほか、マスコミによる「メディアスクラム(集団的過熱取材)」が起きるのではないかと不安を抱く加害者家族が多いという。
また、「加害者本人との関係の悩み」に次いで「弁護人に関する悩み」も多い。「私選弁護人を依頼すべきかどうか」に関する相談もあるが「弁護人と連絡が取れない」「弁護人とのコミュニケーションがうまくいかずに悩んでいる」など、弁護人との関係に問題が生じている場合が多いことがうかがえる。
加害者から預かった私物を返却しない、適切なコミュニケーションを行わないなど、問題のある弁護士も多々いる。「弁護士会に相談しても対応が遅い」と阿部氏は批判した。
加害者家族は自発的に「喪に服す」
WOHに相談を寄せるのは中流家庭が多い。背景には、生活困窮家庭の場合には身内から犯罪者が出ても福祉や支援が打ち切られることはないのに対して、中流家庭の場合には一家の稼ぎ手が犯罪により逮捕されると生活に重大な影響が生じる構図がある。
また、事件後、加害者家族は家の外に出ることを避けたり、例年行っていた行事や旅行も控えたりすることが多い。必ずしも周囲からの反応が原因で活動を自粛しているわけではなく、「家族が事件を起こした」という深い自責の念から、自発的に喪に服するような生活を選んでいるという。
「わたしたちのなかには普段から“加害者家族は今まで通りの日常生活を送ってはいけない”という思い込みがあるために、いざ自分が加害者家族になったときに、自分の生活を制限してしまう。こういった思い込みを社会からなくすことが大切だ」(阿部氏)
面会や支援窓口に関する政策を提言
「加害者家族白書2023」の巻末には加害者家族支援に向けた政策提言が記載されている。
1:家族に犯罪者を持つ子どもへの差別を人権侵害と認定すべき
2:刑事施設の整備及び面会に関する情報提供を
3:犯罪に巻き込まれた人々への支援窓口を
「2」については、家族が収監されている刑務所が遠方にあり面会のたびに時間と費用を要している加害者家族の負担を減らすため、オンラインでの面会を導入することが提言されている。
また、とくに地方の拘置所は建物が古くトイレが和室であるなど、高齢者・障害者や子どもが訪問しやすい環境でないため、面会室をバリアフリーにする改善も必要であるとも提言。
「3」の「犯罪に巻き込まれた人々」には被害者や被害者家族も、加害者家族も含まれる。国や自治体が直接的に「加害者家族」を支援の対象にすると市民からの反発が生じるため、被害者側にも加害者側にも包括的に対応するための窓口が必要だと阿部氏は語った。
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