「雇用の責任果たして」パタゴニア雇い止め訴訟から1週間、社側は請求棄却求めるも具体的主張せず

小林 英介

小林 英介

「雇用の責任果たして」パタゴニア雇い止め訴訟から1週間、社側は請求棄却求めるも具体的主張せず
裁判後に会見を開いた札幌地域労組パタゴニアユニオン藤川瑞穂さん(中央)ら(6月3日札幌市内/小林英介)

アメリカに本社を置くアウトドアメーカー、パタゴニア日本支社の元パート社員の女性が、無期転換になる直前にパタゴニア社から解雇されたとして裁判になっている。

ストライキ実施も契約打ち切り、合計9回契約更新も

パタゴニア社を訴えたのは元パート社員の藤川瑞穂さん。藤川さんは2019年からパタゴニア社の札幌北ストアで働き始めた。原告側の陳述書によると、藤川さんは20年6月にパートタイマーの同僚が「無期転換逃れ」による雇い止めで突然退職し、疑問を感じたという。

藤川さんはその後、札幌地域労働組合に加盟し、22年に「パタゴニアユニオン」を結成。有期雇用契約の原則5年上限撤廃を求め、23年の年末にはストライキを実施したが、藤川さんの契約は打ち切られた。藤川さんの契約が更新されたのは4年9か月、合計9回に及んだ。

無期転換逃れに関する条文は、労働契約法18条にあたる。

「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」(一部略)

この規定は13年の労働契約法改正で設けられ、非正規労働者の雇用安定を図ることが目的だった。

「会社はまず自分たちの経営能力を疑うべき」

原告側が約7万円の損害賠償を求めてパタゴニア社を提訴したのは今年2月。それから約4か月たった6月3日、藤川さんは札幌地方裁判所で意見陳述に臨んだ。その冒頭、藤川さんはパタゴニア社の品質や環境負荷削減、サプライチェーンの労働者に対する人道的配慮などを行う企業姿勢を評価。藤川さんは「利益のみを優先としない、その企業姿勢に惹かれて」パタゴニア社への入社を決意したという。

「労働契約法18条は使用者の有期雇用契約の濫用的な利用を制限し、労働者の雇用の安定を図ることを目的としている。会社はその趣旨を顧みることなく、5年近く自社のサービスを提供してきた従業員を使い捨て、失業者にしている」(藤川さん)

証言台の前に立った藤川さんは、自らの思いをぶつけた。

「会社はなぜ『原則5年上限』にこだわるのか。会社はまず自分たちの経営能力を疑うべきだ。改めてパタゴニアが雇用の責任を果たすことを強く求める」

被告のパタゴニア社側は請求を棄却するよう求め、そのほかの事項については追って主張するとしている。

「働くことがつらい人に訴えたい」藤川さんが明かす思い

裁判後には、パタゴニアユニオンが報告集会を開いた。集会には藤川さんや原告側弁護士らが出席した。原告側弁護士は、「パタゴニア社側の具体的な主張は7月8日までに書面で提出される。そこからが実質的な裁判のスタートとなる。今の段階では、パタゴニア社側の具体的主張は出ていない状態だ」と裁判について説明した。

藤川さんは「自分は会社を訴えようとは思っていなかった。当事者の1人として私たちは差別に苦しんでいると強く思う。非正規でも正社員でも半年後にどうなっているか分からない状態で働きたい人はいないはず。力を持っている側が『対等な立場で自由に契約を交わした』と言うが、会社側の都合でしかない。ものすごく疑問だ」とパタゴニア社側への不信感をあらわにした。

そのうえで、「さまざまな立場で働いている人たちが苦しい立場に追い込まれることがたくさん起きている。私は、裁判を通じて『苦しい』とか『働きづらい』とか、働くことがつらい人がいたら、一度自分に対して問いかけてみませんかと訴えたい」と裁判に臨む思いを明かした。

本稿記者がパタゴニア社側に取材を申し込んだところ、「現在係争中の訴訟に関して話を控えております」との回答だった。意見陳述から約1週間。藤川さんの戦いは、まだ始まったばかりだ。

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