約2年半で1億円荒稼ぎ「無修正わいせつ動画」出演・販売の男女が逮捕 “被害者”がいなくても罪に問われたワケ

弁護士JP編集部

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約2年半で1億円荒稼ぎ「無修正わいせつ動画」出演・販売の男女が逮捕 “被害者”がいなくても罪に問われたワケ
わいせつ動画を不特定多数が視聴可能にする行為は当然違法だが…(Graphs / PIXTA)

自身の無修正わいせつ動画をサブスクリプション型のSNSに投稿した男女2人が5月に逮捕された。投稿した動画は3000点以上とみられる。海外有料サイトで閲覧させ、約2年半で1億円近い収入を得ていたという。

まさに体を張って“荒稼ぎ”した2人の行為に対し、ネット上では「誰にも損害を与えていないのになぜ?」「“被害者”がいなのに逮捕する?」など、逮捕に対する疑問の声もあった。

こうした「わいせつ動画」に対する肯定的といえる声があがる背景には、インターネット上には多くの無修正わいせつ動画がアップロードされており、実質的に誰でも閲覧が可能になっているという実情がある。

もっとも、刑法では175条1項(わいせつ物頒布等)において「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」と規定されている。

憲法では表現の自由が保障される中で、なぜ刑法上は、わいせつ物頒布等についてこうした”規制”がされているのか。わいせつ事件の解決実績が豊富な荒木謙人弁護士に、今回の事件のポイントを解説してもらった。

なぜ刑法上は、わいせつ物頒布等に”規制”がされているのか

率直に、なぜわいせつ物頒布等は刑法で規制されているのでしょうか?

荒木弁護士:そもそも、本条は健全な性風俗あるいは公衆の性的感情を守るために規定されたものです。分かりやすく言えば、わいせつな物が世間一般に広まってしまうと、性風俗が乱れてしまいます。ですから、そのような物を広げてしまった人に対しては、刑事罰をもって処罰するべきである、という考え方が根底にあります。

逮捕の容疑は、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の疑いですが、具体的にどのような犯罪なのでしょうか。

荒木弁護士:報道によれば、今回の男女2人は、自らの性行為などを写した無修正のわいせつ動画を、SNSにダイジェスト版を投稿したうえで、有料契約をすることによって閲覧できるサブスクリプション動画サービスに視聴者を誘導していたとのことです。

このような行為は、わいせつな「電磁的記録に係る記録媒体」(わいせつな写真や動画のデータが保存されたハードディスク、インターネット上のサーバー等)を「公然と陳列」した(不特定または多数の人がその内容を認識できる状態に置いた)といえますので、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の疑いで逮捕されたと考えられます。

過去の例では1年8か月以上の懲役と罰金も

罪はこれだけにとどまりそうでしょうか。

荒木弁護士:報道では陳列罪しか確認できませんが、過去の例では、有償頒布目的保管や有償頒布目的所持といった犯罪が加わっていることもありますので、今回もこのような被疑事実で再逮捕される可能性はあります。

仮にそのような犯罪も加わって起訴された場合、過去の例を踏まえれば、1年8か月以上の懲役に併せて罰金も求刑されることが有り得ます。

違法行為によって得た約1億円の収入はどうなるのでしょうか。

荒木弁護士:刑法19条1項では「次に掲げる物は、没収することができる。」として、3号で「犯罪行為…によって得た物」が挙げられています。

報道によれば、約9500万円の収益を得たといわれていますから、今回は「犯罪行為…によって得た物」として、収益は没収される可能性があります。

日本と海外での「わいせつ」判断の違い

今回、海外の有料サイトで閲覧させていたようですが、日本と海外で「わいせつ」の判断に違いはあるのでしょうか。

荒木弁護士:日本におけるわいせつ物等に関する規制の特徴として、性器にモザイク処理をしていない無修正画像や動画は、違法な「わいせつ」なものに該当してしまうという点があります。

海外では、モザイク処理をしていない性器の画像や動画であっても、違法とならない国や地域もありますので、そもそも犯罪が成立しない国もあると考えられます。

今後、同様の事案で逮捕される可能性高まる

今回の逮捕について、同様の行為が横行していることもあり、「まさか」という認識もあったようです。今後どのような影響が及びそうでしょうか。

荒木弁護士:いわゆる無修正動画でこれだけ多くの収益を上げていたのであれば、一部では需要のあるコンテンツだと考えられます。

しかし、違法行為であることに変わりありませんので、今後は同様の行為を行っている者について、逮捕される可能性が高まったといえるでしょう。

このような「無修正」動画は、海外のサーバーに投稿したとしても、逮捕される可能性があるのでしょうか。

荒木弁護士:そのとおりです。海外のサーバーに投稿したとしても、今回のように日本で不特定又は多数の人にダウンロードされていたような場合は、逮捕される可能性があります。

今回の事件を踏まえて、SNSやインターネット上で配信をしたり、投稿をしたりしている人たちは、どのようなことを注意しておくべきでしょうか。

荒木弁護士:SNSやインターネットにおける成人向けの投稿は、需要があると過激になっていく傾向があるようです。

たしかに、「モザイク処理がされているアダルトビデオであっても、実質的に無修正動画とあまり変わらないではないか」という批判も一部では聞かれるところではあります。

しかし、先ほどもお話したように、SNSやインターネットのような、不特定または多数の人に見られる場所に無修正動画を公開することは、違法行為です。

無修正動画のような「わいせつ」なものを公開する人は、極めて少ないと思いますが、特に成人向けの投稿をする際には、違法な「わいせつ」なものにあたらないか、よく注意するべきであると考えられます。

取材協力弁護士

荒木 謙人 弁護士
荒木 謙人 弁護士

所属: エイトフォース法律事務所

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