“就職祝い金”の禁止対象拡大検討 「それよりも大丈夫?」知人・友人紹介する“リファラル採用”が違法になるケースも
厚生労働省が5月末の労働政策審議会の部会で、求人メディアなどを展開する募集情報等提供事業者が転職者(or転職希望者)に”就職祝い金”を渡すことを禁じる検討を始めた。毎日新聞が報じている。理由はいたずらに転職を勧奨しかねないため。現在は有料職業紹介事業者などにとどまっている規制対象を広げたい考えという。
「就職祝い金」は、ハローワークが失業保険受給者に早期の再就職時に払う手当をいうケースが見受けられるが、正式名称は「再就職手当」だ。早期に働き口が見つかれば、喜ばしい反面、失業保険がもらえる期間が短くなる。そこで、その補塡(ほてん)的意味合いと再就職促進の願いも込め、”祝い金”と呼ばれるのだろう。
有料紹介事業者については、かつて人手不足が深刻な医療系人材等で転職を繰り返させ、その都度、”就職祝い金”を支給。加えて、事業者自身も転職回数分の仲介料を得ていたことが問題視され、禁止に至ったいきさつがある。
ネット上では「付け焼き刃の対応だ」の声も
ネット上では、就職祝い金を受け取る側と思われる声として「お祝い金に関係なく、良い条件があれば転職はする。付け焼き刃の対応だ」「たかが数万円のお祝い金で転職を決める人がいるとすれば、明らかに今の職場が合っていない」といった意見が多くを占める一方で、「転職者のほとんどが卒業時より悪いところへ転職している」として、転職勧奨につながる祝い金の横行に苦言を呈する元大学職員の声もあった。
求人大手はどう考えているのか
では、当の求人サイト側はどう考えているのか。求人大手のマイナビは、「就職お祝い金が、転職意向に決定的な影響を与えているとは弊社も考えておりません」と回答。そのうえで、「有料職業紹介事業においては、特に医療・介護・保育分野で就職お祝い金が問題視され厳格に規制されています。弊社としては、現在、有料職業紹介事業にとどまっている規制が、募集情報等提供事業者にも広がることについては、業界の過当競争や過度に転職を促すことを防いだり、職業紹介・募集情報の区別の曖昧さをなくす等のためにも必要だと考えています」と規制対象拡大に賛同のスタンスを示した。
ビジネスの健全な成長には競争が不可欠だが、過度になれば消耗戦になる。その結果、求職者も不幸になるようなら、本末転倒だ。
就職祝い金については、出す側も受け取る側も多数が「問題の本質ではない」とクールな印象だが、実はもっと身近に危ない”転職支援”がある。昨今、多くの企業が活用するリファラル採用だ。トップから、「いい人材がいればぜひ紹介してくれ」とはっぱをかけられたことがある会社員も少なくないだろう。
ある調査では企業のリファラル採用実施割合は75%という結果も
プロフェッショナルバンク(東京都千代田区)が2023年12月に同社クライアント企業(有効回答数:259人)に実施したアンケート調査によると、リファラル採用を実施したことがある企業は75%。同採用を促進する取り組みとして最も多かったのは、「社員へのインセンティブ提供」で、61%におよんだ。
特に急成長中のベンチャー企業では多くが採用し、社員への見返りとして”紹介料”を支給している。企業にとっては、高確率で優秀かつ企業文化にマッチした人材を採用でき、紹介した社員は”臨時収入”がもらえるウィンウィンの仕組み。だが、やり方を間違えると違法になることはあまり知られていない。
リファラル採用が違法になるケース
どんなケースだと「違法」となるのか。人材紹介した社員に対し、会社がその見返りとして金銭等を支払うだけでは違法にならない。ただし、「企業に人を紹介して得た報酬」として社員に金銭等を支払うと、違法になる可能性が出てくる。
詳しく説明しよう。職業安定法第30条には「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と規定されている。つまり、社員が「業」として会社に人材紹介する場合は、厚労省の許可が必要となる。
リファラル採用の趣旨は、あくまでも知人や友人を紹介してもらうことであり、社員に「業」としての人材紹介を求めるものではない。そもそも、社員は、所属会社での仕事が本業だ。それでも、法にのっとれば、人材紹介に対する報酬の支払い方によっては違法になり得るということだ。
職業安定法第40条では、「労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事する者または募集受託者に対し、報酬を与えてはならない」とあり、より具体的に企業の従業員への人材紹介に対する報酬の支払いを禁じている。
もちろん実際に多くの企業で取り入れられているように、リファラル採用が違法ということではない。そのよりどころとなっているのが、職安法第40条に「ただし」として、記載されている次の文言だ。
「賃金・給料またはこれらに準じるものを支払う場合、または報酬の額について事前に厚生労働大臣の認可を得ている場合を除く」。つまり、人材紹介をした社員に対し、その対価を賃金や給料として支払うのであれば、「セーフ」というわけだ。
そのためリファラル採用を取り入れる企業は、例えばその対価を「紹介手当」とし、ひとりにつき〇万円支払う等を就業規則に記載する必要がある。報酬は「業」としてではないため、金額は一般的には10万円~30万円が相場とされている。
違法なリファラル採用をした場合の罪は?
実際にリファラル採用制度で知人や友人等を会社に紹介し、採用報酬を手にした人なら給与明細で”臨時収入”による給与の増額を目にしたことがあるかもしれない。ちなみに、万一、職安法の定める条件をクリアせず、「報酬」が支払われていれば違法であり、職安法第65条の規定により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。
心配なら、改めて人事部に確認するなり、就業規則等をチェックしてみるといいだろう。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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