7月から山梨県が富士山“登山規制”を実施 知事「このままでは世界遺産登録が取り消されるおそれもある」

弁護士JP編集部

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7月から山梨県が富士山“登山規制”を実施 知事「このままでは世界遺産登録が取り消されるおそれもある」
日本外国特派員協会で会見を行う長崎幸太郎・山梨県知事(6月17日都内/弁護士JP編集部)

山梨県の長崎幸太郎知事が17日、日本外国特派員協会(東京都)で記者会見を行い、7月から実施される富士山の「登山規制」について説明した。

人数と時間に基づく規制、通行料の徴収を実施

登山規制が実施されるのは、山梨県側の開山日である7月1日(月)から。代表的な登山ルート「吉田ルート」の入り口である「スバルライン五合目」にゲートを設け、人数と時間に基づく通行規制や通行料の徴収を実施する。

・人数規制:1日あたり4000人まで

・時間規制:午後4時から午前3時までは通行禁止

・通行料:2000円/1人1回(別途、任意で1000円の「保全協力金」も徴収)

また、山中における危険行為やマナー違反を防止するため、県の任命する「富士登山適正化指導員」が登山者に対して指導を行う。

規制の背景にあるのは、山頂付近の過度な混雑や、山小屋などで休みを取らずに一気に山頂を目指す「弾丸登山」を行う登山者の増加だ。

「山頂付近の過度な混雑は、将棋倒しのような事故につながる可能性がある。また、弾丸登山には低体温症や高山病などのリスクがある。登山規制は、登山者の命を守るための対応策でもある」(長崎知事)

「コロンブスの卵のような発想の転換」

山梨県では、通行規制や通行料の義務化を以前から検討してきた。しかし、県道である富士スバルラインは道路法上に基づき「道路」と定義されている。このため、「道路の自由使用の原則」により、ゲートを設けることはできないとされていた。

この問題に対応するため、山梨県は国と相談したうえで県道の一部を廃止し、もともと県道であった部分を「県有施設」に変更した。

「道路法のため登山道にゲートを設けることができないのなら、登山道を道路法の規制対象から外せばいい。まさに“コロンブスの卵”のような発想の転換だった。

これにより、道路法の“呪縛”から逃れて、登山道にゲートを設けることができた」(長崎知事)

世界文化遺産“取り消し”への危惧

長崎知事が登山規制を進める背景には、富士山の世界文化遺産登録が“取り消し”になることへの危機感がある。

2013年6月、ユネスコ世界遺産委員会は富士山の世界文化遺産登録を決定した。ただし、「人の多さ」「コンクリート駐車場などの人工的景観の多さ」「環境負荷の大きさ」という3つの課題の解消を求める、条件付きの登録であった。

世界文化遺産登録後、外国人も含めた登山者の数は年々増加していった。2013年には五合目の来訪者は268万人であったが、ピークに達した2019年には506万人にまで増加。2020年は新型コロナウイルスの流行により51万人に激減したが、昨年はコロナ禍以前の水準に戻ったという。

インバウンドの拡大に伴い、今年は昨年よりもさらに登山者が増加することが予想される。

また、今年5月には「店舗の上に富士山が乗ったような写真が撮影できる」とSNSで話題になった河口湖町のコンビニエンスストアが外国人観光客の迷惑行為に悩まされていたことから、町の都市整備課が富士山を見えなくするための黒い幕を設置する事態となった。

「富士山が乗ったような写真が撮影できる」河口湖町のコンビニ(wasrechimainayo / PIXTA)

五合目より「上」の観光客数の問題には今回の登山規制によって対処できるが、五合目より「下」の観光客数の問題や、人工的景観と環境負荷の問題に対処するためには、さらなる対策が必要となる。

「このままでは世界遺産登録が取り消されるおそれもある。大変強い危機感を抱いている」(長崎知事)

「登山鉄道の開通」「古の登山道の再興」などの総合対策

今後、山梨県は登山規制を含む「富士山における総合対策」を実施していく予定。「富士山登山鉄道」の開通させて来訪者を管理しやすくすること、1964年の富士スバルラインの開通に伴い登山者が激減して衰退した「古(いにしえ)の登山道」を再興させて登山者を分散化させることを構想している。

しかし、富士山登山鉄道構想には富士吉田市が反対しているなど、山梨県内も一枚岩ではない。「大切なのは、富士山の景観を将来まで守るために、議論を続けることだ」と長崎知事は語った。

「富士山の周辺地域、ひいては山梨県全体をどうしていくか。100年後から見て誇れる地域を目指したい」(長崎知事)

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