日本郵便「宛名なし郵便」 NHK受信料徴収“以外”の需要はある?

弁護士JP編集部

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日本郵便「宛名なし郵便」 NHK受信料徴収“以外”の需要はある?
NHKが発送する「特別あて所配達郵便」

日本郵便は6月21日より、受取人の氏名が分からなくても住所を記載すれば郵便物を送れる新サービス「特別あて所配達郵便」の本格運用を開始する。

同サービスは2020年12月、武田良太総務大臣(当時)がNHKの受信料徴収について、日本郵便との連携を検討するよう提言したことをきっかけに誕生した。2021年6月より試験導入されていたが、NHK以外の需要もあるとみて本格運用に至ったという。

ところが「住所さえ手に入れば郵便物を送れる」というシステムについて、SNSでは「フィッシング詐欺の手口じゃん」「スパム業者のようなやり口」「特殊詐欺に使われそう」といった声も上がっている。

NHKと日本郵便の”利害”が一致?

今年1月、NHKは受信契約の訪問営業をする外部スタッフを2023年秋までに全廃する方針を明らかにした。

受信料徴収に関する営業経費は受信料収入の約10%にも及び、NHKも課題感を抱いてきた。訪問営業にかかる外注費を削減し、日本郵便の新サービス「特別あて所配達郵便」を利用することで、受信契約業務の効率化を図りたい考えだ。

一方の日本郵便は、デジタル化による郵便需要の低下に頭を悩ませてきた。日本郵便が今年5月に発表したデータによると、2021年度に取り扱った郵便物は前年度より2.5%少ない148億5700万通で、20年連続の減少となったという。

総務省「令和3年 情報通信白書」には2020年度までのデータが掲載。引受郵便物等物数は緩やかに減少を続けている

このような状況の中、NHKによる「特別あて所配達郵便」の利用は願ってもない話だろう。 このサービスは、通常の郵便料金に150円を上乗せして利用するため、 定形郵便物(25g以内)であれば1通あたり234円(84円+150円)となる。

NHKによれば、2020年度末時点で受信契約対象である4610万世帯のうち、未納となっているのは907万世帯。つまり、契約案内を年間1通ずつ送るだけでも、

  • 234円×907万世帯=21億2238万円

の増収となる。訪問営業で契約を結ばなかった世帯が手紙1通で契約を結ぶとは考えづらく、1世帯に対して繰り返し契約案内を送ることになれば、さらに多くの増収が見込まれるだろう。

「NHK受信料徴収」以外の需要はあるのか

ところで今回、日本郵政はNHK以外にも需要があると見込んで「特別あて所配達郵便」の本格運用開始に至ったというが、どのような利用方法を想定しているのだろうか。

「例えば、他社のサービスを利用しているお客さまに対して、自社のサービスの利用を促す案内を送付するなどの利用方法を想定しています」(日本郵便広報室)

同様の目的であれば、日本郵便には、宛名を記載せず特定エリアの全戸に郵便物を届けることができるサービス「配達地域指定郵便物」もある。こちらは25gまでであれば1通57円で送れるとあって、「特別あて所配達郵便」よりも格安の印象だが…。

配達地域指定郵便物の料金(日本郵便「配達地域指定郵便物」より)

「配達地域指定郵便物は、指定する地域の全てに配達するサービスであることから、例えば、新規顧客の開拓に当たり、選定した地域全体に自社のサービスの案内を行う場合にご利用いただくことを想定しています。

一方、特別あて所配達郵便物は、郵便物に記載された住所又は居所に配達するサービスであることから、例えば、新規顧客の開拓に当たり、住所地Aにお住まいのお客さまにピンポイントで自社のサービスの案内を行う場合にご利用いただくことを想定しています」(日本郵便広報室)

具体的にイメージしづらいが、要するにDM的な使い方を想定しているということだろうか。

しかし、都内に拠点を置くDM業者は「個人情報保護法の方針もあり、個人宅への送り先の住所は、なかなか手に入らない」と指摘する。

また、もしDM的な使い方をするのであれば「“自分に届いてる感”がDMの良さ。宛名がないのであればバリューは半減してしまう」とも語る。

「実はデジタル時代にあっても、DMの件数自体は大きく減少することなく、横ばい状況を保っています。デジタル化する時代の中で『物が手元に届く特別感』があるからこそ、プロモーションとしてある程度の効果が発揮されるのであれば、やはり宛名ありきなのではないでしょうか」(前出のDM業者)

詐欺を心配する声に日本郵便は…

冒頭で紹介したように「住所さえ手に入れば郵便物を送れる」という仕組みについて、SNSでは詐欺を心配する声も上がっている。

これに対し日本郵便は、以下のように回答した。

「特別あて所配達郵便物に限らず、詐欺等が疑われる郵便物を受け取られた場合には、警察に相談するなどの対応をお願いできればと存じます。

なお、特別あて所配達郵便物は、詐欺等の犯罪への利用を排除するため、

①利用開始時に差出人の本人確認や与信確認を行う料金後納(料金を後納とする料金計器別納を含みます。)とすること

②郵便物には、差出人の氏名及び住所又は居所を記載していただくほか、差出人の連絡先を記載していただくこと

③差出局を限定(63局)し、事前に利用開始届を提出していただくこと

などを条件としています」

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