「立ち仕事」中に“座る”のは職務怠慢? 特製イス開発の求人企業の思惑と弁護士の法的見解

弁護士JP編集部

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「立ち仕事」中に“座る”のは職務怠慢? 特製イス開発の求人企業の思惑と弁護士の法的見解
会計時に立ってレジ打ちするのは本当に当たり前?(画像提供:マイナビ)

立ち寄った飲食店等で会計の際、店員がどんな姿勢か気にしているだろうか。実は多くが立ってレジ打ちをしている――。

ある調査では座ったまま接客が許されているアルバイトは23.3%。4店に一店にも満たない。一方、当の働く側は、32.2%がネガティブな意味で「業務に支障が出ている」と回答。3人に一人が、立ちっぱなしに苦痛を感じている計算だ。

調査で判明した立ち仕事の不合理な真実

ところが、顧客側に目を向けると、イスに座って接客されても「気にならない、問題ない」と8割近くが答えている。

接客中に座りたいバイトは65%もいるのに…(マイナビ調査)

さらに、雇用主がどう考えているかといえば、座って接客しても「いいと思っている」が73.3%にのぼる。しかも、座りながらの接客を許可しない理由は25.6%が「なんとなく」という。アルバイトがいかに、意味なく立ち仕事を強いられるかが鮮明に分かる調査結果だろう。

立って仕事が当たり前を変えるプロジェクトの狙い

調査したのは求人大手でマイナビバイトなどを運営するマイナビだ。当たり前すぎて気づかなかったあまりに不合理な事実に、同社の問題意識解決のスイッチが入る。

「アルバイトは立って仕事をすることがあまりに当たり前になっています。逆にいえば、座れるバイトが世の中に普及していない。だから選択肢があっても人目が気になったり恥ずかしかったりすると思うんです。そこでこのあたりまえを変えるために、専用のイスの開発から手掛けることにしました」と”座ってイイッス”プロジェクトを担当する同社鈴木里彩子氏は経緯を説明した。

求人企業がイスを開発し、その普及を推進する異色のプロジェクトは試験導入として3月末からスタートし、これまでに大垣書店、パンパシフィックインターナショナルホールディングス、Crustプランニング合同会社(乃が美 はなれ)などで取り入れられており、評判は上々という。

問い合わせ「想定以上」の滑り出し

多数の問い合わせもあり、すでに150社を超える相談が寄せられ、「想定以上」と担当者もうれしい悲鳴を上げる。イスは狭いレジでも収まりやすいコンパクトさで、高さ調整も可能だ。ちょこっと腰掛ける仕様だが、立ちっぱなしに比べれば負荷は大きく軽減され、かなり楽になる。

同社がパイプ椅子メーカーとタッグを組み、“新しい当たり前”を推進するアイテムとして開発にも携わった。1脚約1万8000円~という。

調査ではアルバイトの退職理由のデータもとっており、19.7%が「座れない」をあげている。少ないと感じるかもしれないが、もし座れていればこの2割が辞めなかったとすれば、人手不足下でもあり、影響は大きいといえる。同社も、イスの利益を度外視しても取り組む価値を感じているという。

立ちっぱなしに法的問題は?

では法律的に、企業側が従業員を立たせっぱなしにすることに問題はないのか。労働問題に詳しい荒木謙人弁護士は次のように解説する。

立ち仕事の場合、こまめに座ることは業務怠慢にあたるのでしょうか。

荒木弁護士:労働者には職務専念義務があり、分かりやすく言えば、仕事中は自分の仕事に集中しなければなりません。

もっとも、立ち仕事の人であっても、体調が優れないときや、肉体的に過酷な業務を行わなければならない場面もありますので、しっかり自分の仕事を進めていれば、座ることが直ちに職務専念義務に違反するとは言えません。

立ちっぱなしがつらい場合に、イスを用意してもらうことは可能なのでしょうか。

荒木弁護士:厚労省が定める労働安全衛生規則615条「立業のためのいす」では、「事業者は、持続的立業に従事する労働者が就業中しばしばすわることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるいすを備えなければならない」と定められています。

そのため、省令上は、立ち仕事をしている労働者が就業中に座る機会があるのであれば、会社はイスを用意しなければなりませんので、イスを用意してほしいとお願いすることは可能な場合があります。

休憩時間をこまめに切り分けるなどうまく調整してもらうことは可能なのでしょうか。もしくは会社はそうした配慮をする義務はあるのでしょうか。

荒木弁護士:労働基準法34条において、労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないと定められています。そのため、労働が長時間に及ぶ場合には、会社は休憩を与えなければなりません。

また、労働がこのような長時間に及ばない場合であっても、雇用主はパートやアルバイトの人たちに対しても安全配慮義務がありますので、休憩時間を取らせる必要のある場面というのは考えられると思います。

今回のようなプロジェクトを弁護士としてどう思われますか。

荒木弁護士:働いている人たちにとって、より良い労働環境を作るために、とても良い取り組みだと思います。特にパートやアルバイトの方は、職場での立場上、言いづらいことも多いと思いますが、雇用主には安全配慮義務があります。

そのため、特に生命や身体にかかわる重大な事項については、自らの状況をしっかり説明したうえで、要望を伝えていくという心がけも大事だと考えられます。

取材協力弁護士

荒木 謙人 弁護士
荒木 謙人 弁護士

所属: エイトフォース法律事務所

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