最低賃金“全国一律”1500円を求め全労連訴え 地域間、男女間格差是正で税収2兆円以上増加
全国労働組合総連合(全労連、本部・東京都文京区)は6月20日、厚生労働大臣諮問機関の中央最低賃金審議会の2024年度改定に向けた審議が始まるのを前に厚生労働省で記者会見を開き、1500円、さらには1700円への最低賃金の引き上げと全国一律性による地域間格差の是正を訴えた。
時給1000円を超えているのは8都県だけ
「労働者のおよそ半数は1500円に満たない時給で働いている」――。黒澤幸一全労連事務局長は会見の冒頭、そう語った。
労働総研の推計によると、時給1500円未満で働く雇用者の総計は2823万人で役員を除く全雇用者の実に49.8%に相当する。
昨年度改定額は、全国加重平均で時給43円が引き上げられ、全国平均時給は961円から1004円となり、初めて1000円を超えた。しかし、全労連の配布資料によると、1000円を超えたのは東京都をはじめわずか8都府県だけ。27道県が900円台、12県が800円台にとどまっている。
労働者の最低賃金について、最低賃金法は「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(第1条抜粋)と定める。
「低賃金労働者の生活の安定を一次的な目的とし、経済の健全な発展をつくることは二次的な目的としているのが法律(最低賃金法)の趣旨だと思う。(最低賃金は)賃金の値崩れを防ぐための防波堤でなければいけない」(黒澤事務局長)
「若者たちが故郷を離れ戻ってこない」
黒澤事務局長は「最低賃金には、低過ぎて(労働者が)食べていけない、地域間格差がある、という2つの問題がある」とも指摘した。
最低賃金を比較した場合、最高額1113円の東京都と最低額893円の岩手県との差は220円で、年間にするとおよそ40万円もの差がある。地域間格差は、若者らをはじめとする労働力の流出、地方の疲弊の原因にもなっている。
岩手県労働組合連合会の中村健事務局長は、最低賃金や賃金の低さが「(若者らの)県外流出の要因になっている」と話す。
秋田県労働組合総連合の越後屋建一議長も「秋田県は全国一、人口が減少している。大きな要因は(高校卒業後の)18歳、(大学卒業後の)22歳の若者たちが秋田から離れていって戻ってこないことだ」と語った。
黒澤事務局長は、「最低賃金が地域ごとにバラバラであることが、(全体の)最低賃金が上がらない大きな原因になっている」とも強調する。
最低賃金は、賃金、生計費、企業の支払い能力の3点によって額が決められる。低い県は、この3点を計る元となるデータ自体が低いため、割り出される最低賃金も低くならざるをえない。
「構造的な問題を是正するためには、国が一度、地域間格差を全てなくしフラットにすることが必要。全国一律にすることなしには最低賃金を大幅に引き上げていくことはできない」(黒澤事務局長)
「欧米各国は時給2000円が当たり前の水準」
地域間格差とともに、男女間の格差も深刻だ。
海外と比較すると、男性フルタイム労働者の賃金中央値を100とした場合、女性の賃金中央値は、上位3カ国のノルウェーで95.4、デンマークで95.0、ニュージーランドで93.3となっている。一方、日本は77.9で、平均(88.1)にも達しない下位にあるのが現状だ。(2023年版男女共同参画白書から作成された資料による)
男女間格差の理由として、最低賃金に近い時給で働く人たちの中に女性が多い(※)ことを挙げ、黒澤事務局長は「最低賃金を改善することで、男女の賃金格差も大きく是正される」と続けた。
※女性労働者の22.51%、女性パート労働者の41.2%が最低賃金に近い時給で勤務している。(労働総研資料による)
会見では最低賃金の国際比較も示された。上位3カ国は、米ワシントン州の2346円、オーストラリアの2223円、イギリスの2102円。日本の1004円は韓国の1103円に次いで低く、欧米の上位国と比べると半分の額にも満たない。(OECD資料による)
これについて、黒澤事務局長は「(欧米は)2000円が当たり前という水準になってきている」と見解を示した。
「しっかり福祉として捉えてほしい」
また、会見では、最低賃金を全国一律1500円にした場合の経済波及効果も示された。
全国2823万人の雇用者の時給を1500円に引き上げると、1人あたり月平均4万1400円の賃上げとなり、106.6万人の新たな雇用を創出し、税収(国・地方)は2兆円以上増加する。(労働総研資料による)
最低賃金は、6月25日に開かれる第1回中央最低賃金審議会を皮切りに審議が重ねられ、10月には改定される予定だ。これについて、黒澤事務局長は「40円、50円(上げる)という審議ではなく、100円を超えるような改定がされてほしい」と期待を寄せる。
また、労働者の多くが余裕のない中で生活を送っている現実を示しながら、最後にこう訴えた。「最低賃金は経済政策というより、福祉として捉えてほしい。安定した賃金が図られ、その上に経済がしっかりと発展していくことが目的であり、そうあらねばならない」
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