退職代行サービス“好調”、企業の1割が経験も…「損害賠償・懲戒解雇」弁護士が指摘する“手軽さ”の落とし穴

弁護士JP編集部

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退職代行サービス“好調”、企業の1割が経験も…「損害賠償・懲戒解雇」弁護士が指摘する“手軽さ”の落とし穴
不快指数の高い日が続くと仕事を憂鬱に感じる人も少なくないかもしれないが…(ABC / PIXTA)

東京商工リサーチが6月、企業を対象に行った調査で、有効回答のあった5149社のうち約1割にあたる479社が「退職代行を活用した従業員の退職があった」と回答したことが分かった。

第三者に退職の意思を伝えてもらえるという手軽さから、ここ数年で急速に認知・利用が拡大している退職代行サービス。しかし本来、退職時には退職日の設定や、有給消化、退職金の支払い、貸与備品の返却など、法的トラブルに発展しかねない問題が多くともなう。

代行業者に依頼することで「サクッと退職できる」とのイメージを持っている人も少なくないと思われるが、果たしてリスクはないのだろうか。

退職代行業者に依頼後、会社から「損害賠償請求」?

「退職代行業者を通じて退職の意思を伝えた後、従業員が会社から損害賠償請求を示唆されるケースは、実態としてかなりあります」

こう指摘するのは、労働問題に詳しい嵩原安三郎(たけはら・やすさぶろう)弁護士(フォーゲル綜合法律事務所)。実際、嵩原弁護士のもとにも相当数の相談が寄せられているという。

「もっとも多いのは、営業担当者が突然辞めて契約がつぶれた、現場監督がいなくなって工期が大幅に遅れたなど、引き継ぎがうまくいかず事業に影響を及ぼしてしまったケース。また、薬剤師や宅地建物取引士といった資格者がいなくなることで事業所を閉鎖せざるを得なくなったり、転職エージェントを介して入社時に紹介料が発生しているケースでも、トラブルに発展しがちです」

ただし、会社側が損害賠償を請求してきたり、「有給消化させない」「退職金を認めない」など法律上は通らない理不尽を言ってきたとしても、退職代行業者に対応してもらうことはできない。

「損害賠償請求の処理や退職条件の交渉は“法律業務”にあたり、これを弁護士以外の人が報酬目的で行うことは弁護士法第72条で禁止されています。いわゆる『非弁行為』と呼ばれるものです。違反した場合、退職代行業者には『2年以下の懲役または300万円以下の罰金』が科されます。

つまり退職代行業者ができるのは、あくまで『○○さんが辞めます』と依頼者に代わって伝えるところまでです。会社側が反論してきた場合は、そこで業務が終了します。

なお、退職代行業者が非弁行為をしても、依頼者自身は原則として罪に問われません。ただし、交渉することを求めたり、交渉することを分かっていて依頼したような場合には、依頼者も『共犯』となる可能性があるため、注意が必要です」(同前)

「懲戒解雇」されるリスクも

前述のように、退職代行業者は法律業務にあたる交渉ができないため、引き継ぎなどの問題がある場合は結局、会社が依頼者本人への連絡を試みることも少なくない。「自分は退職代行業者に依頼したのだから」とこれを無視した場合、会社側から懲戒解雇として処理されるリスクもあるという。

「依頼者に対して『会社から連絡が来ても無視していい』と伝えている業者もいるようですが、これはトラブルに発展しやすい危険な行為です。

雇用期間が決まっていないいわゆる正社員の場合には、法律上、退職の意思を伝えてからその効力が発生するまでは2週間かかります(民法第627条1項)。その間、1日も出勤せず、会社からの連絡にも応じなければ、会社側が懲戒解雇に踏み切る可能性は十分あると言えますし、法的にも有効となるケースは多くあるでしょう」(嵩原弁護士)

“安全な”退職代行業者の見分け方とは?

嵩原弁護士によれば、退職代行業者に依頼してもリスクがないのは「退職したいと言えば100%受け入れてもらえ、退職日まで出勤するつもりだが、単に退職すると伝えるのが心苦しい」というケースに限られるという。

その上で、退職代行業者を選ぶ際に気を付けるべきポイントを聞いた。

「まず、ホームページなどに『会社側と交渉して依頼者の要求を認めてもらった』などの“実績”を記載しているところは、前述のように非弁行為をしている可能性が高いため要注意です。

また、よく『顧問弁護士がいる』という言葉に安心感を抱く人もいますが、一般的な退職代行業者の依頼費用(数万円程度)から考えれば、全案件を弁護士がチェックするのは不可能です。あくまで、業者側のスタッフが誤った判断をして“大問題”に発展した場合にのみ、顧問弁護士に取り次がれることになります。話がこじれて訴訟となれば、別料金で高額な費用を負担しなければならないかもしれませんし、勤めていた会社に損害賠償しないといけない場合も出てくるかもしれません」

退職代行業者が企業に電話をかけ、次々に退職を“成功”させる動画も、SNSやテレビなどで頻繁に見かけるようになったが、嵩原弁護士は「安心材料にはまったくならない」と断言する。

「動画として公開されているのは、あくまで“ハッピーケース”で、実際にはトラブルに発展することも少なくありません。その点をよく踏まえた上で、退職代行業者への依頼を検討したほうがいいと思います」

不快指数の高い日が続き、仕事を憂鬱(ゆううつ)に感じている人も多いかもしれない。退職代行業者への依頼を迷っている人は、自分のケースではリスクがあるのかを熟考した上で決断すべきだろう。

取材協力弁護士

嵩原 安三郎 弁護士

嵩原 安三郎 弁護士

所属: フォーゲル綜合法律事務所

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