「梅毒」感染者数過去最多“パパ活” “マッチングアプリ”も要因に!? 「私は大丈夫」で済まない差し迫った事情

弁護士JP編集部

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「梅毒」感染者数過去最多“パパ活” “マッチングアプリ”も要因に!? 「私は大丈夫」で済まない差し迫った事情
梅毒の病原体「梅毒トレポネーマ」の電子顕微鏡像(出典:国立感染症研究所)

症状が出ないことも多く“静かに悪化していく”と言われる性感染症の「梅毒」。2021年に国内で感染者数が大幅に増加し、昨年、過去最多となる1万5092人の感染が確認された(4月3日付)。

また、梅毒に感染していた妊婦が383人、母子感染による「先天梅毒」の子どもが37人確認され、いずれも統計を取り始めて以降もっとも多くなった。

国立感染症研究所の山岸拓也氏は、性感染症にかかるリスクが高いとされる性風俗産業にかかわる女性や利用する男性だけでなく、「一般の人にもすでに感染が広がりつつあり、“身近”な危険になってきている」として感染の注意を呼び掛けている。

“心当たり”多い人は定期的な検査を

性交渉により口や性器などの粘膜・皮膚から感染する梅毒は、さまざまな症状を引き起こす。代表的な症例では、感染から約2~3週間後に粘膜にしこりやただれができ(Ⅰ期)、これが治ると、約3か月後に痛みやかゆみのない皮疹が起こる(Ⅱ期)。しばらくするとこの皮疹も消えるが、症状が消えても感染力は消えず、病状も進行。放置すれば数年から数十年で神経や内臓に病変が生じ(晩期)、最悪の場合、死に至る。

一方で、山岸氏によれば、Ⅰ期から晩期までの間、無症状又は感染に気付かない人がいるという。その上で、医療機関への適切な受診のタイミングについてこう説明する。

「あらゆる皮疹は梅毒を疑えとも言われています。皮膚や粘膜にいつもと違う異常を感じた時には保健所の検査や医療機関を受診してほしいです。認識できる症状が無くても人にうつし得るものですから、心当たりが多い人は、定期的に検査を受けることも早期診断に役に立ちます」

感染者の4割が性風俗従事&利用も、実際はそれ以上か?

梅毒の感染が日本で広がり始めたのは、今から10年前の2014年頃にさかのぼる。

それ以前は、主に男性同性間性的接触者の間で感染が起こっていたが、2014年に女性の感染者数が前年より100人以上増加。以降、異性間の性的接触による感染が急速に広まった。

厚生労働省 感染症情報「梅毒」ページより

梅毒の特徴のひとつは、男性感染者が20代から50代と幅広い一方、女性が20代に偏っていることだ。感染拡大の背景を探るため、国は2019年から感染者の性風俗産業の従事歴・利用歴も調査項目に含めた。女性感染者では4割ほどに従事歴が、男性感染者の4割ほどに利用歴があることがわかった。しかし、山岸氏は「従事・利用歴がない」と答えている人の中にも、一定数性風俗産業に携わる人や不特定多数の人と性交渉をしている人がいると推測している。

「回答した人がうそをついているということではなく、たとえば性交渉ありの“パパ活”は性風俗産業か、人によって回答が変わると思います。性風俗産業と言われると店舗型の性風俗店などのイメージが強く『私はそこでは働いていない・利用していない』と答えてしまう人もいると思います。

また、従事と言うと性を売り買いしている人になりますが、最近ではマッチングアプリを利用して性交渉の相手を探すという人もいるでしょう。パパ活やマッチングアプリで感染が広がっているという仮説もありますが、データからはそうした背景がまだしっかりと見えてきていません」(山岸氏)

とはいえ、「自分は不特定多数の人とは性交渉をしていないから安心」という考えにも注意が必要だという。

「少し昔の研究ですが、多数の人とコンドームを使用せず性交渉している人が、性感染症にかかりやすいというある意味当然の結果が出た半面で、まったく性感染症の既往がないのに感染する人が一定数確認されました」

2019年に一度減少も、原因わからず

実は国内における梅毒感染者数は、コロナ禍直前の2019年に1度減少している。山岸氏はこの現象が「原因不明だった」と振り返る。

「本当は対策が有効だったと言いたいのですが、それら対策の有効性を示すデータは手元にはありません。それでもなぜか急に減ったんです。減ってきたところでコロナ禍が始まり、今度は増加局面に入りました。データからは減った理由もわからなければ、再び増えてきた理由もわからない。

ただ、ひとつ言えるのは2015年頃に増加した時と今で、感染している人の特徴は大きく変わっていないということ。大都市圏を中心に女性は20代、男性は幅広い年齢で広がっています。つまり、減少局面こそありましたが、ずっと同じような現象が続いていると考えることができると思います」

ちなみに、最初の感染拡大について、訪日客など外国人が持ち込んだと主張する人もいるが、山岸氏はこの考え方には懐疑的だ。

「海外との関係は不明です。ただ、国内で梅毒の感染を“広げてしまった”中心はやはり日本人でしょう。どこの国の人が悪いと非難することは間違っていて、日本の現状として、感染を広げてしまったドライビングフォース(推進力)は日本人だと考えることが対策を練る上では重要だと思います」

ほかの性感染症でも感染者が増加中

2024年に入り、梅毒の新規感染者報告数は横ばいになってきている。しかし、山岸氏は「大都市圏ではやや減少傾向にありますが、国内全体をみればまだまだ増加の局面にあると言えます」と話す。

「さらに、梅毒だけではなく、実は淋菌(りんきん)感染症や性器クラミジア感染症もここ数年で増えてきています。性に対する知識は、“自分を守る知識”です。どのような性生活を送るにせよ、どうか知識を持って、安全を守れるようにしてください」

梅毒は、各地の保健所で無料・匿名での検査が可能だ。安価な検査薬があり、有効な治療もある。少しでも不安を持つ人は、誰かにうつす前にまず検査を受けてほしい。

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