「広告ブロッカー」YouTube、ニコニコ動画も対策に苦心 “利用ユーザー”側に法律的な問題はある?

弁護士JP編集部

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「広告ブロッカー」YouTube、ニコニコ動画も対策に苦心 “利用ユーザー”側に法律的な問題はある?
ユーザーにとっては便利な「広告ブロッカー」は、サイト側に不利益を及ぼす場合がある(bee / PIXTA)

2024年4月、YouTubeは広告をブロックする機能を持つサードパーティー製のアプリから動画を視聴できなくする措置を講じたことを発表した。

5月には、広告ブロッカーを利用している状態で動画を再生すると再生時間の末尾まで強制的にスキップされ、動画の内容が見られなくなる措置が取られていることが判明。

YouTube側は「課金してプレミアムに加入すると広告はなくなる」とユーザーに呼びかけている。だが、ユーザー側はYouTubeの措置を回避する方法を模索しており、“いたちごっこ”が続いている状況だ。

「迷惑コンテンツ」と批判されるネット上の広告

6月、「現在のネットでは広告が『迷惑コンテンツ』となっており、アプリへの課金は『迷惑を取り除いてもらう代金』になっている。この状況で、広告主は広告に価値があると信じているのだろうか?」という趣旨の疑問がXに投稿された。

該当のツイートは7千回以上リツイートされ、X上で議論を招いた。

性的な描写のある漫画の広告や容姿のコンプレックスをあおる化粧品の広告など、インターネット広告が不快・過激になっている問題は以前から指摘されてきた。

また、近年では有名人などになりすました広告による詐欺被害も増えている。6月、経済産業省は、グーグル、LINEヤフー株式会社、メタ社(フェイスブックやインスタグラムを運営)の3社に対し、詐欺広告への対策を要請した。

「広告ブロッカー」とは

「広告ブロッカー」とは、ウェブサイト上の広告を取り除くためのツール。主に、Webブラウザの拡張機能として提供されている。

代表的な広告ブロッカーとして、「Adblock」や「uBlock Origin」などがある。

また、近年は標準で広告ブロック機能を搭載したWebブラウザ「Brave(ブレイブ)」の利用者数が増えており、2024年4月には日本国内でも月間利用者数が400万人を超えた。

ニコニコ動画は「年間1億円以上の損失」と訴える

広告ブロッカーが原因でとくに広告収入が減少しているのが、動画共有サービスだ。プラットフォームを運営する各社のみならず、個々のコンテンツを制作して投稿するクリエイターたちにも、収入が減少するなどの影響が生じている。

2023年6月、YouTubeは、広告ブロッカーを使用しているユーザーに対してブロックを無効にするか、プレミアムに加入しない限り動画の再生を停止するテストを開始。同年10月から、広告ブロッカーの“取り締まり”を本格的に行うようになった。

冒頭で紹介した通り、現在も、YouTubeは広告ブロッカーに対する取り締まりをますます強化している。

また、2024年5月には、「ニコニコ動画」を運営する株式会社ドワンゴが、広告の非表示により年間1億円以上の損失が発生し、サービス運営や開発、クリエイター奨励プログラム(コンテンツ制作者への収益分配制度)に影響が出ていることを発表。

ニコニコ動画を利用する際には広告ブロックツールを無効にするか、ホワイトリストにニコニコ動画のドメインを登録するよう、ユーザーらに呼びかけた。

広告ブロッカーに法律的な問題はないのか?

プラットフォーマーやクリエイターが得られるはずだった収入を失わせる広告ブロッカー。はたして、違法性はないのだろうか。

ITと法律の関係に詳しい鮎澤季詩子弁護士は「広告ブロッカーを使用することそれ自体を、違法として処罰する法律は、現状はありません」と話す。

「閲覧・視聴するコンテンツが広告ブロッカーを利用することを許容している限りにおいては、広告ブロッカーを利用することで法的責任を問われることは考えにくいと思われます」(鮎澤弁護士)

ただし、前述のニコニコ動画やYouTubeのように、最近ではプラットフォーム側が広告ブロッカー機能を停止するように促すことや、広告ブロッカーを利用している場合にはWebサイトを閲覧できないように対策する場合が増えている。

「広告ブロッカーを利用することは規約違反であると明記しているWebサイトで広告ブロッカーを利用すれば、利用規約違反となり、利用規約にしたがってユーザーアカウントの停止や違約金の支払いなど、プラットフォーマーが定めたペナルティを負う可能性があるでしょう」(鮎澤弁護士)

また、サブスクリプションなどの選択肢に広告を表示させないためのプレミアム料金が設定されている場合、間接的に「コンテンツ側が広告ブロック機能の利用を許容していない」といえる。

この場合、ユーザーが広告ブロック機能を利用することは「プレミアム料金の支払いを不当に免れている」と解釈されるため、法律的にも問題となり得る行為だ。

広告がなくなると、コンテンツもなくなるおそれ

もし広告ブロッカーが現在以上に普及して、広告を見ないユーザーが増えると、企業は広告を出資しなくなる可能性もある。

そうなれば、各種のWebサイトやサブスクリプションの有料化や値上がりが進み、現在のように無料や低額で動画などのコンテンツを合法的に楽しめる状況が続かなくなるおそれもある。

ひいては、コンテンツ自体の供給数が少なくなることも考えられる。

「インターネット広告の中には、過激な性的表現が多数含まれているものがあります。不意に接して不快な思いをする方や、子どもへの悪影響を心配する方もおられるでしょう。

また、広告から悪質なサイトに誘導されて詐欺被害や消費者被害に遭うリスクも、広告ブロッカーを利用することで軽減されます。

他方で、プラットフォーマーとしては、広告が見られなくなればコンテンツの質の低下を招いたり、コンテンツの廃止などに追い込まれたりするリスクもあります。難しい問題です」(鮎澤弁護士)

現在のようにネット上で無料または低額でコンテンツを楽しむため、個々のユーザーにも、「フィルタリング機能やプライバシー機能を利用して有害な広告をブロックしながら、そうでない広告の視聴は許容する」などの柔軟な対応を取ることが求められるかもしれない。

「同時に、プラットフォーマーの側も、掲載する広告の健全性や適法性等を担保し、ユーザーが安心して広告を視聴できる環境を整備して、その旨を周知していく必要があるのではないでしょうか」(鮎澤弁護士)

取材協力弁護士

鮎澤 季詩子 弁護士

鮎澤 季詩子 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィス

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