「マイナ保険証」現場への“しわ寄せ”深刻…オンライン資格確認“義務化”めぐり医師ら1415人が国を提訴、判決へ大詰め

弁護士JP編集部

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「マイナ保険証」現場への“しわ寄せ”深刻…オンライン資格確認“義務化”めぐり医師ら1415人が国を提訴、判決へ大詰め
第7回口頭弁論後、記者会見に臨む原告弁護団(7月9日 霞が関/弁護士JP編集部)

東京保険医協会の医師・歯科医師ら1415人が原告となり、オンライン資格確認の義務化に反発して国を訴えた裁判の第7回口頭弁論が9日、東京地裁で開かれた。

マイナ保険証への一本化に向けた現行の健康保険証廃止が12月2日にせまる中、医療現場には混乱と不安が広がっている。同日、原告弁護団は記者会見を行い、今後の見通しについて説明した。

政府は“医療DX”をうたうが…現場にしわ寄せ

オンライン資格確認とは、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等により、オンラインで資格情報の確認ができること(厚労省サイトより)。

政府は医療DXの推進を目的に、医療機関・薬局に対し昨年4月からこれを導入することを原則義務化したが、経済的負担(導入費用に加えて継続的な保守点検費用も伴う)や電子データの漏えいリスク負担(マイナポータル利用規約第3条)など、現場へのしわ寄せに対する疑問の声も少なくない。

昨年2月に原告が東京地裁へ提出した訴状によれば、負担の大きさなどから「1割程度の保険医療機関が廃業も検討せざるを得ない状況となっている」という。

原告弁護団代表・喜田村洋一弁護士「結論を大いに期待できる」

裁判を通じて原告らが求めているのは、以下2点の確認だ。

①電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認する義務のないこと
②電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることの確認ができるようあらかじめ必要な体制を整備する義務のないこと

上記について、昨年2月の提訴以降、オンライン資格確認の違憲・違法性、憲法によって保証された原告らの「医療活動の自由」に対する権利侵害などを争点に、準備書面の提出や口頭弁論が行われてきた。

今後は、9日に原告側が提出した準備書面に対して、被告である国が9月13日を期限に反論書面を提出し、同19日に次回期日が開かれる。そして、これをもって弁論が終結(結審)する可能性が高いという。

原告弁護団代表の喜田村洋一弁護士は展望について、以下のように語った。

「この訴訟で国は、自分たちがやろうとしていることがなぜ合理的なのかを明らかにしなければなりません。そして裁判所は、9月13日に提出する書面で主張を出しきるよう、国にハッキリと通告しました。

一方われわれ原告に対しては、次の口頭弁論後に追加で主張したければ、異例ではあるが書面提出も可能と言っています。次回に結審することはほぼ間違いないだろうと思いますし、結論を大いに期待できるのではないでしょうか」

判決が「健康保険証廃止」に与える影響は?

政府はマイナ保険証への一本化に向けて、12月2日から現行の健康保険証の新規発行を停止するとしている。弁護団は判決が出る時期について「11月下旬」と見ており、今後の保険証運用に与える影響についても気になるところだ。

弁護団の小野高広弁護士は「あくまで私個人の考えとしてお聞きいただければ…」とした上で、以下のように語った。

「まず、原告側の請求が認められて『オンライン資格確認が義務ではない』という判決が出た場合、国は間違いなく控訴すると思います。よって、判決が直ちに確定するということはないでしょう。

また判決が確定したとしても、その結果が直ちに『健康保険証の廃止』に影響を及ぼすかといえば、理屈上は『ない』と言うしかありません。

ただし『義務ではない』と認められれば、マイナ保険証しか手に入らなくなった状況で医療機関側がオンライン資格確認を拒否した場合にどうするのかという実務上の問題は出てきます。よって、国は何らかの対応をしなければならないのではないか…と想像しています」

マイナ保険証をめぐる国の対応は、医療現場のみならず一般市民からも“ゴリ押し”との批判が少なくない。どのような判決であれ、国の真摯な対応に期待したい。

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