「スーパーに米がない」SNSで“米騒動”心配する声も… 農水省「93年とは状況違う」冷静な対応を呼びかけるワケ

弁護士JP編集部

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「スーパーに米がない」SNSで“米騒動”心配する声も… 農水省「93年とは状況違う」冷静な対応を呼びかけるワケ
数値を見る限り、不足感はあくまで局所的なものだという(jazzman / PIXTA)

日本人の主食である米をめぐり、5月ごろから「米の価格高騰」や「米不足」がNHKや地方局などで報じられている。

SNS上でも、「スーパーに米がない」「米がめちゃ値上がりしてる上に、売り場すかすか」「また平成の頃のように米騒動が起こるのかな」といった声があがっている一方で、「近所のスーパーはいつも通り」との声も見受けられた。

在庫量、前年から39万トン減も「需給は逼迫していない」

米不足騒動について農水省の担当者は「需給が逼迫(ひっぱく)している状況ではない、というのが当省としての見解です」とコメントした。また、現在の米の需給に関する動向・現状については、次のように明かした。

「昨年5月から今年4月までの販売事業者(卸売業者等)によるお米の販売量は331万トンと、前年に比べて12万トン増加しました。それに合わせて、民間の卸業者やJAなどが持っている在庫量は180万トンと、前年から39万トン減少しています。

この180万トンというのは、近年のデータと比べて低い数字ではありますが、だからといって需給が逼迫しているわけではありません。

食の多様化や人口減少で、お米の年間需要量は減少トレンドにあります。

今年のお米の年間需要量は約681万トンとなる見通しですが、この年間需要量に対する、在庫量の比率(在庫率)は26.4%となります。

この数字はコロナ前の、2018年から2019年にかけての在庫率である26.1%(在庫量192万トン/年間需要量735万トン)とそれほど変わりません」(農水省・担当者)

農林水産省「米に関するマンスリーレポート(令和6年6月)」より

ではなぜ、米の価格高騰や米不足が心配される事態になっているのだろうか。

前出の担当者は「一部いろいろな事情があったとしても、たとえば1993年の大凶作とは状況が全く違う」と続ける。

「2020年から2022年ごろにかけては、かなり在庫率が高く、いわば買い手市場でした。

欲しいお米を、欲しいときに、欲しい量・価格で買えるような当時の状況と現在を比べると、確かに仕入れが少し厳しくなっているような状況ですが、それでもコロナ前と似たような水準ですので、安心していただければと思います。

ただ、一部の銘柄や流通の段階、それから仕入れの仕方によっては、一部の小売店などで、なかなか仕入れができないといった状況が出ていることも間違いありません。

お米の代表的な取引に、 “相対取引”というものがあります。これはJAなどの集荷業者と、卸売業者の間の取引のことですが、こちらの取引価格の状況を見ると、先ほど在庫率で比較した2018年産より、2023年産の方が低い水準で取引されています。

一方で、 “スポット取引”とよばれる取引の場合は、市場の隙間を縫うような形で取引が行われることから、仕入れが難しかったり、価格が上がったりという状況はあるかと思います。

ですので、スポット取引に頼っている一部のディスカウントスーパーなどでは、欠品の数が目立つといったこともあり得るのではないでしょうか。

また、現在はちょうど新米が出回るまでの入れ替わりの時期です。こうしたことから、局所的に不足感が出ているのかなと思います」(農水省・担当者)

“万が一”への備えは?

ただ、こうした数字を並べても、1993年の大凶作や米騒動を経験している人には、不安が残るかもしれない。

そこで政府の備えについて、前出の担当者は次のように説明した。

「政府では100万トンの米を備蓄米として準備しています。100万トンというのは日本国民が2か月間に消費する量に相当しますが、これは万が一の時に、約2か月分しかお米を食べられない、ということではありません。

極論、お米の生産量が0になると、確かにその秋以降に日本人が食べられるお米は2か月分になってしまうでしょう。

ですが、お米の出来具合を表す作況指数という指標をみていくと、この数値は74まで落ちた1993年を除くと、ここ数十年の間でおおむね97から103くらいで収まっています。

お米の品種改良などが進んだこともあり、作況指数が大きく落ちることもまずないと考えていますし、仮に90まで落ちたとしても、生産したお米に備蓄米をプラスすることで、1年間は国産のお米を国民の皆さまに食べていただけるようになっています」(農水省・担当者)

農林水産省「令和5(2023)年産水稲の作柄について」より

なお、現在の状況は備蓄米を放出する基準には至っていないという。

「著しい民間在庫の減少や価格の高騰が起きた時には、お米の備蓄方針を決めている、国の食料・農業・農村政策審議会が総合的に判断し、備蓄米の放出を決定することになっています。

ですが、現状は先ほど申し上げたとおり、在庫も価格も数年前と同じくらいの水準となっていますから、放出するという判断には至っていません。

もし、今年の秋にとれるお米が、いつもより10%、20%と減少してしまったということになれば、必要に応じて放出することになると思います」(同前)

食料安全保障強化へ、今後も備蓄のあり方検討

先月、政府は食料・農業・農村基本法を改正。「食料安全保障の確保」を新たな基本理念として追加した。

また、これに連動する形で、食料供給が減少し、国民生活・国民経済に影響が生じる事態を防止するための食料供給困難事態対策法が6月に成立している。

「食料供給困難事態対策法では、政府が基本方針を定めることになっています。

今後、基本方針を定めていくなかで、お米や麦、大豆といった特定食料の備蓄のあり方について議論していきます」(農水省・担当者)

「備えもあるので安心してほしい」

コロナ禍では、学校給食が止まった影響などから、消費者が米や麺類を買いだめし、欠品が出るなど一部で騒動が起きていた。

「いつもは1袋しか買わないけれど、いろんな報道があって心配だから2袋買おう、という消費者が増えてしまうと、それがちり積もって混乱が生じるおそれがあります。

現在の価格や在庫は著しく厳しい状況にはなっていませんし、備蓄米制度といった備えもありますので、慌てずに、安心していただければと思います」(農水省・担当者)

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