早大入試の「カンニング」行為に"スマートグラス"が利用される なぜ「業務妨害罪」が適用された?【弁護士解説】

弁護士JP編集部

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早大入試の「カンニング」行為に"スマートグラス"が利用される なぜ「業務妨害罪」が適用された?【弁護士解説】
便利な「スマートグラス」は、不正行為に悪用されることもある(tete_escape/shutterstock)

7月10日、独立行政法人・大学入試センターは、来年1月に実施される大学入学共通テスト(旧センター試験)に関する受験案内の改正点を発表した。

今回の改正により、メガネ型の「スマートグラス」や腕時計型の「スマートウォッチ」が、試験中に利用を禁止する電子機器として明記される。試験中にこれらの機器を身に着けたり、手に持っていたりするだけでも、不正行為になる可能性がある。

この改正は、早稲田大学の一般入試で問題をスマートグラスで流出させたとして、警視庁戸塚署が5月16日に都内在住の男子受験生を書類送検した事件を受けてのものだ。

受験生の容疑は「偽計業務妨害」である。

「カンニング」行為にスマートグラスが利用された

報道によると、受験生は2月16日に行われた早大創造理工学部の試験でスマートグラスを使い、化学などの問題を撮影し、スマートフォンで複数人に転送してX(旧ツイッター)で解答を求める形で外部に送信する「カンニング」行為を行った。

不正に気付いた外部の人のひとりが早大に連絡。大学の調査により、受験生が犯人として浮上した。

2月21日、受験生が商学部の試験を受けた際、大学職員が受験生の眼鏡に小型カメラが付いていることを発見。警察に通報した。

受験生は「共通テストの結果が悪く、志望の国立大学に落ちた。他の大学にも落ちる不安から、不正を思い付いた」などと供述したという。

「スマートグラス」とはどんな機械?

スマートグラスの用途は多岐にわたる(Maxx-Studio/shutterstock)

スマートグラスとは、メガネ型のウェアラブル端末(身に着けたまま使える端末)。

ディスプレイを通じて現実の光景に情報を重ねて表示したり、スマートフォンのようにネット上でのデジタルデータをやり取りしたりできる。

また、レンズ部分に情報や画像を表示できるため、スマートグラスを使用しながら両手で別の作業をすることも可能。

主な用途は、データ表示、写真・動画の撮影、リアルタイムでの画面共有、マイクとスピーカーを利用した通話など。

画面共有しながら遠隔地から作業を指示したりするなど、ビジネスでも活用されている。

AR機能が搭載されているものも多く、目の前の風景にルートや矢印を重ねて表示する道案内や、工場現場・建設現場などにおける図面を表示しての作業支援に用いることも可能だ。

なぜカンニングが「業務妨害」になるのか?

冒頭で紹介した通り、入学試験でカンニング行為をした受験生は偽計業務妨害罪で書類送検された。そして、7月9日には家裁送致されている。

なぜ、カンニングは「業務妨害」にあたるのだろうか。刑法に詳しい、堀田和希弁護士は次のように説明する。

「偽計業務妨害罪の趣旨は『業務活動を保護する』という点にあります。そして、大学入試は学校法人などの『業務』に該当します。

また、『偽計』とは、人を騙す、または勘違いや知らないこと(不知)を利用することをいいます。カンニングの場合は、現実には不正行為(他人の解答を盗み見るなど)をしているにもかかわらず、不正行為を行わずに試験を受けている体裁を装って試験官を欺いていることなどが、『偽計』にあたると考えられます」(堀田弁護士)

また、判例では、実際に業務妨害の結果が発生しなくても「業務を妨害するおそれ」があれば偽計業務妨害罪は成立する、とされている。

カンニング行為に関しては、発覚した場合は試験の中止や再試験となる可能性があるため、「試験業務を妨害するおそれがある行為」と評価されるわけだ。

「以上のことから、カンニング行為には 『偽計業務妨害罪』が成立すると考えられているのです」(堀田弁護士)

なりすまし受験は「有印私文書偽造罪」

入学試験に関わる不正行為としては、カンニングの他にも「なりすまし受験(替え玉受験)」が考えられる。

なりすまし受験の場合には、答案用紙の署名を偽造する(実際に受験した人とは異なる人の名前を署名する)という行為が含まれるため、「有印私文書偽造罪」や「偽造有印私文書行使罪」に該当する。

また、オンライン試験でなりすましを行った場合には、「電磁的記録不正作出罪」や「不正作出電磁的記録供用罪」が適用される可能性がある。

将来、法規制がされる見込みは?

今回のケースではスマートグラスが利用されたが、テクノロジーの発展によりカンニングは今後ますます容易になると予想される。

この状況に対応して、法律が改正される可能性はあるのだろうか。

「カンニング行為を規制するための法整備がなされる可能性もあるでしょう。とはいえ、現在でも電子機器の持ち込みを禁止するなど、事実上の防止措置を取ることは可能です。

また、電子機器を利用したカンニングが実際に行われた場合にも、既存の刑罰で対応することが可能です。そのため、現状ではカンニング規制のための法整備の優先度は低いかと思います」(堀田弁護士)

しかし、今後のテクノロジーの進化に伴い、最新のツール等を悪用したカンニング行為が頻発し、入試などの学力試験の適正化が社会問題となった場合には、法整備が進む可能性もあるという。

2022年の大学入学共通テストでは、三重県でスマートフォンを使用した不正行為、神奈川県でICプレーヤーを使用した不正行為が発覚した。カンニング防止のための新たな法律が制定されるかどうかは、社会の取り組みや受験生たちの意識にかかっている。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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