交際男性を“麻薬成分入りテープ”で殺害 「持病のつらさをわかって…」加害女性が公判で語った“身勝手”な動機

弁護士JP編集部

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交際男性を“麻薬成分入りテープ”で殺害 「持病のつらさをわかって…」加害女性が公判で語った“身勝手”な動機
裁判では被害者参加制度がとられ被害男性の父と妹が意見陳述を行った(弁護士JP編集部)

同居する交際相手に麻薬成分入りの薬剤テープを貼付するよう誘導し死亡させたとして傷害致死などの罪に問われている川崎さくら被告(49)の裁判員裁判が、今月6日と12日に東京地方裁判所(野村賢裁判長)で行われた。

被告人は2022年11月、持病の治療のため処方されていた鎮痛作用のある麻薬成分入りの医療用医薬品「フェントステープ」を、交際相手の男性(当時50)の胸に貼らせ死亡させたとして、傷害致死と麻薬および向精神薬取締法違反の罪に問われている。

起訴内容について、被告人は6日の初公判で「間違いはありません」と認めた。

犯行動機は「持病のつらさをわかってもらいたい」

被告人は「持病のつらさをわかってもらいたい」として、交際相手の男性に対し薬剤テープを体に貼付するという“選択肢”を与えていたことがわかった。選択肢はほかに「(被告人の)元夫から殴られる」などがあったといい、男性自身が薬剤テープを体に貼付することを選んだという。

検察によれば、フェントステープは有効成分の含有量が1mgでも重篤な副作用を及ぼすという。被告人は医師の診察のもと3年間にわたり徐々に含有量を増やし、事件当時は1日3~4mg分を貼付していたが、男性に対してはいきなり17mg分を貼付させたという。

検察側は、被告人自身が薬剤テープで痛みを抑えるなど効能を実感していたと指摘。「薬剤としての効能や危険性が高いことを認識した上で、男性に苦痛を与えることを目的として貼付させた」と述べた。

検察側はさらに、「被告人は裁判に入ってからも証言が二転三転し、現時点で責任と向き合わず反省していない。自身のつらさはじょう舌に話す一方で、悪質性の質問からは逃げている」と非難。そして、男性が身体の異変を訴えてからもすぐに救急車を呼ばず追加投与したことからも、「発覚すれば他者から非難される行為だと理解していた」と主張した。

弁護側「『愛着障害』が事件に影響」

一方の弁護側は精神科医による証言をもとに、被告人には「愛着障害」があったとして「事件当時、『自分のことは100%わかってくれるべき』『なんでわかってくれないの?』という愛着障害の症状を止めることができなかった。結果は重大で許されることではないが、被告人なりに反省をしており、精神障害を抱えたこと自体の責任を問うのは酷だ」と主張した。

また、被害男性も被告人の診察に同行したり、病院の代理受診や、薬局で薬剤テープを受領(じゅりょう)していたことから薬剤の副作用など危険性を十分に認識していたと説明。その上で、「(男性は)テープは簡単にはがすことができ、寝ている間に貼ったり、力ずくで貼付した場合より悪質性は低いといえる」と述べた。

遺族「息子に生きて帰ってきてほしい」「兄を返して」

なおこの裁判は、被害者参加制度(※)がとられ、男性の父と妹が意見陳述を行った。

※事件の被害者や遺族等が刑事裁判に参加し、公判に出席したり、被告人質問を行える制度。

「私たち家族は確かに疎遠になっていたが、息子を心配し、連絡が来ることを心待ちにしていた。警察から連絡が来て、事件で亡くなったと知って目の前が真っ白になった。なぜ息子が亡くならなければならなかったのか。公判を聞いて経緯はわかったが納得はしていない。(被告人が)愛着障害だったとしても、息子が死んでも仕方がないとはならない。被告人の更生は求めておらず、刑務所から出てきてほしくない。息子に生きて帰ってきてほしい」(被害者の父)

「兄とは連絡を取れない時期があったが、裁判で被告の生活の手助けをしていたと知った。2022年9月、父に兄から助けてほしいと連絡があった。SOSだったはずだが、私たちは経緯を知らず、女性(被告人)に気持ちがあるなら寄り添ってあげなきゃと伝えてしまった。きちんと話を聞いて異常な関係だと伝えなければならなかった。苦境にあった兄を追い込んでしまったと後悔し続けている。川崎さん(被告人)はご苦労なさって生きてきたと聞いた。大病なさっていたなら、命の大切さ、尊さも理解していたのではないか。川崎さんは娘さんと会えるが、兄の子どもたちはもうパパと会えない。母ももう息子に会えない。同じ母として、川崎さんは私の母をどう思いますか? 兄を返してください」(被害者の妹)

被告人と遺族の間にはついたてがあったものの、被害者の父親が話し始めると被告人は息を荒げて大粒の涙を流し、ハンカチで頬を抑えていた。

検察は「愛着障害であっても加害行為に及ばなかった人もいるため影響は限定的であり、遺族も厳罰を望んでいる。つらさを分かってほしいという身勝手な動機で、同情の余地もない」として懲役6年を求刑。

弁護側は、「今後元夫や娘と同居することが決まっており、社会福祉士による更生支援計画もすでに作成されている。専門家のもとで愛着障害の治療を受けることが大切だ」として執行猶予付きの判決を求めた。

「(被害者が)ここに居てくれるなら…」

「最後に何か言いたいことはありますか?」と裁判長から問われた被告人は涙をぬぐいながら「反省が足りないように見えるなら、反省が足りないのかもしれません。どうすれば1%でも反省が伝わるのでしょうか。病気だからしょうがない、許されるとは思っていません。一生涯、事件の日のことや裁判のことを忘れず背負っていきます。拘置所で、どんなに身体がしんどくても、自分への罰だと思って過ごしています」などと述べた上で、遺族に対して「本当に申し訳ありませんでした」と謝罪。

さらに亡くなった被害者の名前を呼んで、「ここ(法廷)に居てくれているなら、私のせいで命を奪ってしまって本当に申し訳ありませんでしたと伝えたいです」とも述べた。

制止しなければいつまでも最終陳述を続けそうな被告人に対し、裁判官ははっきりとした口調で「はい。では、元の席に戻ってください」と促し、裁判が結審した。判決は7月18日に言い渡される。

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