「録音データ」は削除されたのか? NHK「かんぽ不正報道」を巡る控訴審の第一回口頭弁論が開かれる

弁護士JP編集部

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「録音データ」は削除されたのか? NHK「かんぽ不正報道」を巡る控訴審の第一回口頭弁論が開かれる
NHK側が提出した「草稿」の問題を指摘する、澤藤大河弁護士(左)(7月17日都内/弁護士JP編集部)

かんぽ生命保険の不正販売に関する番組を受けてNHK経営委員会が当時の会長を厳重注意した件について、議事録や録音データの開示を求める訴訟の控訴審第一回口頭弁論期日が17日に開かれた。

「NHK文書開示等請求訴訟」の経緯

今回の訴訟の発端は、2018年4月24日にNHKの報道番組「クローズアップ現代+」で、郵便局員が「かんぽ生命保険」を不適切な方法で販売していたと報じたことにさかのぼる。

同年10月、NHK経営委員会が上田良一会長(当時)を厳重注意。

その後、2019年9月に毎日新聞が厳重注意の事実を報道。森下俊三経営委員長代行(当時)が厳重注意で主導的な役割を担い、「今回の取材は極めて稚拙」「NHKは視聴者目線に立っていない」などと発言していたと伝えたことから、「厳重注意は放送法が禁じる『個別番組への介入』にあたる」との批判が高まった。

2021年4月、元NHKプロデューサーの長井暁氏を含む市民ら約100人が、NHKと経営委員長の森下俊三氏に対し、議事録や録音データの開示を求めて訴訟を提起した。

一審判決の概要

2024年2月20日の一審判決で、東京地裁は、NHK側が「削除した」と主張していた録音データが存在することを認め、開示を命じた。

また、NHKと森下委員長(当時)が録音データの存在を認識しながら開示措置を取らなかったことを、原告側の開示請求権を侵害する不法行為と認定。原告1人あたり2万円、総額約228万円の損害賠償を命じた。

2月27日にNHK側が控訴を行い、その後に森下氏も控訴。なお、森下氏は2月29日に経営委員長を退任している。

控訴審では「録音データ」の行方が争点に

訴状では、原告は「NHK経営委員会でなされた議論の内容(上田氏に対して厳重注意をするに至った議論を含む)がわかる一切の記録・資料」を請求していた。これに対し、NHK側は「原告らの請求にかかる資料は、すでに開示済みの『粗起こし』の他には存在しない」と釈明。

そのため、原告は請求の対象を経営委員会についての「議事録」と「録音データ」のみに縮減した。一審判決では、東京地裁は議事録は存在しないと判断してこれに関する請求は棄却したが、録音データは存在すると判断して提出を命じた。

ところが、控訴審になってから、NHK側は証拠として「草稿(経営委員会の議事内容が記載されたワードファイル)」を提出した。一般公開はされていないが、その内容は、一審で提出された「粗起こし」とは明らかに異なるものだったという。

控訴審の第一回口頭弁論期日後に開かれた記者会見では、原告代理人の澤藤大河弁護士が「自分たちの釈明が虚偽であったことを、自分たちで証明してしまっている。原告のみならず、裁判所をも騙そうとした」と、憤りを示した。

また、NHK側は過去に議論の録音データが作成され存在していたことは認めており、「粗起こしの作成後に削除された」と主張している。

しかし、いつ、誰が削除したかなどの具体的な主張はない。「録音データを社内で探しても存在しないので、削除されたのだろう」とする推測に過ぎないという。

NHKは情報開示制度を整備している。しかし、議事録にせよ録音データにせよ、対象となる情報を削除することで開示を免れてしまうとすれば、実質的には不都合な情報はすべて削除すればよく、情報開示制度の意味が失われてしまう、と澤藤弁護士は指摘した。

「粗起こしの公表」を条件に和解を検討

原告側の杉浦ひとみ弁護士によると、今回の訴訟では裁判所が資料を丹念に読んでおり、通常の訴訟に比べて裁判所側の意気込みが感じられるという。

「司法が、報道の自由を守ろうとしている裁判だ」(杉浦弁護士)

また、原告側は森下氏の責任の追及を続ける一方で、NHKとは「粗起こしを公表する」という条件での和解を検討している。

今後は進行協議期日が9月9日に、第二回口頭弁論期日が10月9日に開かれる予定。

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