「男女格差」日本は世界“118位”やはり不名誉? “クセ強”も指摘される「ジェンダーギャップ指数」の本質的な見方とは
先月12日、「ジェンダーギャップ指数」の2024年版が発表された。
日本の順位は、調査対象146カ国中118位。過去最低だった昨年の125位からは、やや上昇。それでも、G7では最下位、OECD諸国内でも最下位から2番目のままだ。
一方で、最近では「ジェンダーギャップ指数は信用できない指標だから、日本の順位が低いことにも問題ない」といった主張も散見される。
はたして、ジェンダーギャップ指数は男女格差の「現実」を表しているのだろうか?
日本は「政治」と「経済」の男女格差が激しい
ジェンダーギャップ指数の正式名称はグローバル・ジェンダーギャップ・インデックス(世界男女格差報告書)。2006年から毎年、非営利財団の「世界経済フォーラム」が集計・公表を行っている。
具体的には、経済・教育・健康・政治の4つの分野の男女格差を、計14種類の指標に基づき計算し、ランキングする。
2012年以降、日本は毎年100位以下であり続けている。指数自体も、2006年以降、ほとんど改善していない。
ただし、2024年の結果を見ると「健康」分野は58位、「教育」分野は72位。「出生率の男女比」や「識字率の男女比」「中等教育就学率の男女比」などの指標は1位であり、これらの分野における日本の順位は必ずしも低くない。
例年、足を引っ張っているのが「経済」と「政治」の分野だ。今年は前者が120位、後者が113位。とくに「管理職の割合」は130位、「国会議員の男女比」は129位と、きわめて低い。
日本よりもルワンダのほうが男女平等?
数年前から、日本ではインターネットを中心に「ジェンダーギャップ指数は信頼に足る指標ではない」とする意見が目立つようになってきた。とくに、アフリカ諸国を中心とした、いわゆる「開発途上国」のなかに順位が高い国があることが疑問点として指摘されている。
2023年に『プレジデントオンライン』に掲載された記事では、計量社会学者の筒井淳也教授(立命館大学)が、ニカラグアやルワンダなど、女性が深刻な生活安全上のリスクや日常的な差別に直面している国々が上位に位置していることを指摘。「順位のリストを実際に見た人ならば、かなり強い違和感を持つはずだ」と論じた。
また、筒井教授はジェンダーギャップ指数は指標の「クセ」が強いとも表現。国連の補助機関である「国連開発計画」が発表している「ジェンダー不平等指標」では、日本の順位が高くなる一方でアフリカ諸国の順位が低くなることを指摘し、同じくジェンダーを扱う指標であっても、計算の対象とする項目によって順位が大幅に変わることを示した。
具体的には、日本は『ジェンダーギャップ指数2024』では118位だが、『ジェンダー不平等指数』は22位。一方でニカラグアはジェンダーギャップ指数なら6位だがジェンダー不平等指数は102位。ルワンダも前者は39位、後者は93位だ。なお、ジェンダー不平等指数は2022年のものが最新となる。
筒井教授の指摘も影響してか、昨年以降はSNSでも「マスコミはジェンダーギャップ指数ではなく、ジェンダー不平等指数のほうを報道すべきだ」との声も増えている。
「ジェンダー不平等指数」の欠点
一方、2023年に『ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか』(中公新書)を著した経済学者の牧野百恵博士(アジア経済研究所)は、ジェンダー不平等指数の問題を以下のように指摘する。
まず、この指数には「妊産婦死亡率」と「10代の出産率」が指標として含まれている。しかし、これらの指標は貧困や衛生状態に影響されるために、途上国では男女格差以外の要因で数値が低くなりがちだ。
また、日本はアメリカやイギリス、フランスやニュージーランドより順位が高くなっている。しかし、計算式に当てはめれば、これは「10代の出産率」の一点のみに起因することが分かる。この指標だけで「日本は他の先進国よりも男女格差が小さい」と断定するのには無理がある。
さらに、ジェンダー不平等指数は、経済分野での男女格差を「労働参加率の男女比」のみで測るため、パートタイム労働とフルタイム労働の区別も付けられない。男性がフルタイムで働いている一方で大多数の女性がパートタイムでしか働けない社会も「男女平等」とされてしまうのだ。
そして、教育については「中等教育(日本の場合は高校)就学率の男女比」のみを扱っており、「高等教育就学率の男女比」は扱っていない。日本は先進国中で唯一、女性の四年制大学進学率が男性を下回っている国だが、この事実がジェンダー不平等指数には全く反映されていないのである。
ジェンダーギャップ指数は「先進国間の比較」には有用
そもそも、日本は先進国である以上、比較する対象は発展途上国ではなく他の先進国にするべきだ。
そして、先進国間の比較に限定するなら、『ジェンダー不平等指数』よりも『ジェンダーギャップ指数』が適切だという。
『ジェンダーギャップ指数』の「経済」の分野には、労働参加率のほかにも「管理職の男女比」や「専門職の男女比」、「同一労働に対する賃金の男女格差」、「推定労働所得の男女比」などの指標が含まれているため、経済に関した男女格差を包括的に反映することができる。
また、『ジェンダー不平等指数』は政治領域の男女格差を「国会議員の男女比」のみで測るが、ジェンダーギャップ指数にはこれに「閣僚の男女比」と「過去50年間における行政府の首長の在職年数」が加わるため、より正確に男女格差を判断することが可能だ。
日本は男女間の賃金格差が激しく、管理職に女性が占める割合は低い。女性議員の割合は16%(2023年)で、現内閣の閣僚19人のうち女性は5人、そして女性の総理大臣を輩出したことはない。
やはり、ジェンダーギャップ指数は「経済」と「政治」の分野での男女格差を比較的正しく反映した指標と言えるだろう。
男女格差はむしろ「過小」に見積もられている
ただし、牧野博士は『ジェンダーギャップ指数』にも不足があり、現状でも日本の男女格差が過小に見積もられていることを指摘する。
ジェンダーギャップ指数では、各国が集計していないデータは反映されない。たとえば2022年までは日本は「教育」の分野で1位だったが、これは大学就学率男女比のデータが反映されていなかったことに由来する。
現在でも、日本は「専門職の男女比」を集計していない。このデータが指数に反映されたなら、日本の順位がさらに下がる可能性は高い。
また、2023年の125位から順位が7つ上がったのは、女性閣僚の数が2人から5人に増えたことのみによるもの。
「それ以外に何も解消された実感もないのに、順位が7つ上がったということだけをみても、ジェンダーギャップ指数にも欠点があることは分かると思います」(牧野博士)
さらに、日本は先進国のなかではとくに「無償の家事労働」の負担が女性に偏っている国であるが、ジェンダーギャップ指数の順位には家事労働時間の男女比は反映されない。
ただし、一部の国については、補足資料として男女ごとの「1日のうち無償の家事および介護労働に費やす時間の割合」が掲載されている。日本は男性が約3%であるのに対して女性は約15%、女性は男性の約5倍。アメリカも女性は約15%だが男性も約10%(差は1.5倍)、イギリスは男性が約7%であるのに対して女性は約13%だ(差は約2倍)。この差を見れば、やはり、日本では家事負担の男女差がとくに大きいことが分かる。
どんな指標も物事の一面しか表さないのだから、ジェンダーギャップ指数を見る際にも順位だけに注目するのではなく、具体的な項目を確認することは大切だ。その一方で、指標がたしかに表している「日本の男女格差の激しさ」という現実を直視することも、必要となるだろう。
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