明石歩道橋事故から23年「群衆事故」を回避する安全戦略とは? “想定外の人込み”でパニックに陥らないための心構え

島崎 敢

島崎 敢

明石歩道橋事故から23年「群衆事故」を回避する安全戦略とは? “想定外の人込み”でパニックに陥らないための心構え
事故が起きたJR朝霧駅の歩道橋(流しの/PIXTA)

2001年7月21日に起きた兵庫県明石市歩道橋事故から23年。花火大会で混雑した歩道橋の上で人が連鎖的に転倒した末11人もの命が失われたこの悲劇は、「群衆の危険性」を強く印象づけた。

だが、群衆事故の危険は今も身近に潜んでいる。2022年の韓国・ソウル、2023年のインド・ムンバイでの大規模事故がそれを物語っている。日本でも、花火大会やイベント会場での事故寸前とも言える混雑の状況が後を絶たない。

賠償金が支払われても命は取り戻せない

イベント主催者は綿密な警備計画を立て、安全に十分配慮する必要がある。したがって、事故が発生した場合、主催者の責任が厳しく問われる。明石市歩道橋事故では、主催者である自治体や警備を担当した県警察、警備会社に対して民事裁判で多額の損害賠償が命じられ、刑事裁判でも有罪判決が出た。

しかし、来場者数が主催者の予想を大幅に上回ることもあるし、いくら厳重な警備をしようとしても、群衆の動きが人数の少ない警備側を圧倒してしまう可能性もある。

さらに重要な点として、事故後に責任の所在が明らかになり賠償が行われたとしても、失われた命を取り戻すことはできない。だから、イベントに参加する側も、自身の安全は自身で守るという意識を持ち、自己防衛することが不可欠である。

大切なのは、リスクを正しく理解し、適切に管理すること。そこで、イベントを楽しみつつリスクを下げるために出来る個人の適切な準備や判断について考えていこう。

参加するイベントは“賢く”選ぶ

賢明な選択はイベント選びから始まる。

私たちはどうしても有名なお祭りや「〇〇最大の」などの言葉に魅力を感じてしまう。しかし、大都市で開かれる有名なイベントは、群衆事故のリスクにとどまらず、交通の問題、トイレの問題など厄介事が多い。そこで発想を転換して規模の小さなイベントに目を向けてみることをおすすめする。

たとえば、小規模の花火大会は場所取りをしなくても、始まる直前に会場につけばゆったりと花火を見られることが多い。打ち上げ場所から近ければ、小さめの花火でも思いのほか大迫力だ。

地方で行われるイベントでは、その地方ならではの体験もできる。筆者は現在関西を拠点としているが、東京に住んでいた頃、花火大会に合わせて伊豆半島へ海水浴に行っていた。気の良いおばちゃんが営む民宿に泊まり、花火を見たあと地元の人と一緒に盆踊りを踊り、そのまま酒を酌み交わすような夏の夜の体験は、大規模な花火大会ではできないだろう。

もし、大きいイベントに行く場合には、少し離れた穴場スポットを探しておくとよい。地元の人の口コミやSNSを駆使、あるいは地図をじっくり見て、花火などがよく見える穴場スポットを探してみよう。思ったように見えない時のために、代替プランを用意しておけば、それもまた楽しい思い出になるはずだ。

場所を変える以外に、タイミングをずらす方法もある。初詣は三が日の最後の方に、人気の観光地は平日に行けば、ずっと快適に楽しめる。花火大会なら、終了後にすぐ帰らず、近くの店などで一杯やっておくだけで、帰路の混雑を避けられる。

毎年恒例のイベントは、主催側も群衆をハンドリングするノウハウを持っている。一方、「第1回」や「地域初」のようなイベントはノウハウが不足しており、事故リスクが高い可能性がある。初開催の年は様子見をするのも一案だ。

「せっかく来たから」は危険

いざイベントに行くことを決めたら、事前の情報収集が重要になる。

目的地への複数のルート、トイレの場所、過去の参加者の体験談などを確認し、余裕のあるタイムスケジュールを立てよう。最寄り駅ではない駅から会場に向かうなど、人と違う動きをすることも有効だ。

同行者との打ち合わせも欠かせない。はぐれた場合の対応を事前に決め、特に子どもと行く場合は、安全を最優先する行動を確実に伝えよう。子どもには連絡先を書いたメモを持たせ、服装を写真に撮っておくのもいいだろう。

さらに両手が自由になる服装を心がけ、スマホなどの貴重品は落とさないように首からかける。水分や軽食、カッパや折りたたみ傘、モバイルバッテリー、簡単な救急用品なども準備しよう。ただし、荷物が重くなりすぎないよう注意も必要だ。

特に夏季は、ゲリラ豪雨や落雷のリスクが高まるため、当日はこまめな天候チェックも不可欠になる。

現地が予想以上に混雑してきても、また雨が降ってきても「せっかく来たから」と無理する人もいるだろう。しかしこれは失った大金を取り戻そうとさらにお金を注ぎ込んでしまうギャンブラーの心理に近い。賢明な損切りをする投資家と同じ気持ちになって、潔く引き返す勇気を持とう。

そして、同行者が平気な顔をしているからといって「まだ大丈夫」と思ってはいけない。そんな同行者もあなたを見て安心しているかもしれないからだ。これは災害時の逃げ遅れの原因となる「正常性バイアス」という現象で、お互い不安を率直に伝え合うことで防ぐことができる。

イベントに行く際のチェックリスト

それでも混雑に入り込んでしまったら…

どれだけ注意していても混雑している場所にハマってしまうこともある。

もし周囲の人が多くなりすぎていると感じたら、手を胸の前でクロスさせて空間を確保し、呼吸を楽にしよう。

群衆の流れに逆らわず、徐々に人が少ない方向に移動する。周囲をよく観察し、小さな隙間を見つけては少しずつ移動していく。急な動きは避け、周囲の人の流れを乱さないよう注意しよう。もちろん、歩きスマホは絶対にNGだ。

人の密度が高い場所では、落とし物をしても拾おうとしないこと。転倒して、多くの人の下敷きになるかもしれない。命を優先して物を諦めるため、高価なものを持ち歩かないことも対策のひとつと言えるだろう。

群衆の中のリスクを完全になくすことはできないが、これらの心構えと対策を実践すれば、リスクを大幅に軽減できる。楽しみと安全のバランスを取りながら、賢明な行動を心がけよう。

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