「京都精華大学生通り魔事件」未解決17年、失われた若き才能…捜査担当者が明かす「犯人が捕まらない背景」

倉本 菜生

倉本 菜生

「京都精華大学生通り魔事件」未解決17年、失われた若き才能…捜査担当者が明かす「犯人が捕まらない背景」
事件現場には今も献花が絶えない(7月17日 京都市内/倉本菜生)

京都アニメーション放火殺人事件から5年がたった。事件発生日の18日には、現場となったスタジオ跡地で会社関係者や遺族らによる追悼式が開かれ、犠牲となった人々に祈りがささげられた。

京アニ事件からさかのぼること12年、同じ京都市内で漫画家の卵が突然命を奪われた事件がある。「京都精華大学生通り魔殺人事件」だ。

事件は2007年1月15日19時45分頃、京都市左京区岩倉幡枝町の歩道上で発生。京都精華大学で漫画家になるべく勉強をしていた千葉大作さん(当時20歳)が、自転車で帰宅途中に何者かに刃物で刺されて殺害された。

京都府警は京都府下鴨警察署に捜査本部を開設。これまで延べ6万7000人の捜査員を投入したものの、事件から17年が経過した今も犯人逮捕には至っていない。捜査本部は現在も25人体制を維持し、犯人につながる有力情報には300万円を上限とした報奨金を支払うとしている。

講義帰りの住宅街で何が…

京都府警サイト「左京区岩倉幡枝町における大学生殺人事件」より

事件は京都精華大から700メートルほど離れた歩道上で起きた。現場は見通しのよい直線道路で、大学生たちの通学路でもある。被害者の千葉さんは講義終わりに友人のアパートへ向かうため、自転車で移動している途中だった。

事件直後の千葉さんには意識があり、駆け付けた救急隊員に「犯人は知らない男だった」と伝えている。胸や背中などを十数か所刺されていた千葉さんはその後、搬送先の病院で息を引き取った。

事件当時、現場付近に住んでいたAさんは、現場の様子を振り返る。

「日中は車の通りが多く、街灯も多少はあります。しかし、田んぼや畑も多いことから、夜は寂しい雰囲気がある場所です。

夜中に歩いている人も少ない田舎なので、当時は普段来ない報道ヘリの存在が印象的でした。現場のすぐ近くに住んでいた友人は、『事件当日急に大量のパトカーのサイレンが聞こえてきて驚いた』と言っていました。

田舎町で殺人事件が起こり、現在まで解決していないことを不気味に感じています。殺人犯が野放しになっているということですから…」

大声で「アホ」「ボケ」犯人と被害者の間でトラブルか

京都府警サイト「左京区岩倉幡枝町における大学生殺人事件」より

警察が発表している犯人の情報によれば、事件当時の年齢は20~30歳くらい(現在は30代後半~40代後半くらい)。身長170~180センチほどで、やせ型から中肉くらいの体型。頭髪はボサボサで黒色のセンター分けをしており、上下黒っぽいジャンパーとズボンを着用。27~28センチの外国製の登山靴を履き、いわゆる“ママチャリ”と呼ばれる黒の自転車に乗っていた。犯人も自転車でどこかへ行く、または帰る途中であったと考えられている。

凶器と推定されているのは、刃の長さ約10~14センチメートル、刃の幅約1~2センチメートルの、ペティナイフなどの先のとがった片刃の刃物だ。

目撃者によると、犯人は千葉さんに向かって大声で「アホ」「ボケ」と暴言を繰り返し、上半身を揺する独特の身ぶりをしながら興奮していたという。また別の人は、歩道から一段下がった畑にいた千葉さんに向かって、何かをわめいている犯人を目撃している。

目撃情報多数にもかかわらず解決に至らないのはなぜ?

地元の人の間では「犯人が自転車に乗っていたなら近所の人間だろう」とうわさされていたという(7月18日 京都市内/倉本菜生)

複数の目撃情報や、足跡など証拠があるにもかかわらず、なぜ捜査が難航しているのか。実際に筆者も現場を訪れ、「見通しがよく人目に付きやすそうで、交通量も多い場所なのに、なぜ犯人が捕まらないのだろう」と疑問に感じた。

京都府警捜査一課の担当者は、以下のように理由を説明する。

「本件は真冬の夜間に発生しており、現在ほど街灯が整備されておらず、非常に暗い中での目撃情報に頼らざるを得ませんでした。また、現場付近が田んぼの広がる田舎道で、今ほど防犯カメラの設置が進んでいなかったことから、客観的な被疑者像が判明していないことなども、理由として挙げられます」

左奥に見えるアパートは事件後に建てられたもので、当時は畑だった(7月18日 京都市内/倉本菜生)

京都府警は毎年1月15日の千葉さんの命日に、遺族とともに情報提供を呼びかける広報活動を行っているほか、月命日にも広報活動を実施して広く情報提供を求めている。これまでに毎年約70件前後、計約1500件の情報提供があった。

しかし、時間の経過とともに具体的で有力な情報は減少しつつあると、前出の担当者は危機感をにじませる。もっとも情報提供が多かった事件翌年(2008年)の193件と比較すると、1/3程度になっているのが現状だ。

事件現場付近の歩道は自転車2台がギリギリすれ違えるくらいの幅(7月18日 京都市内/倉本菜生)

その上で、“特に求めている情報”として以下3点を挙げた。

①前述した被疑者像に似ている人物。特に京都市内に土地勘のある人物
②被疑者は常に刃物を持ち歩いているような人物であることから、刃物に興味があったり、常に刃物を携帯していたりするような人物
③「本件に詳しい」「興味を示す」もしくは「犯行を匂わせる」言動をする人物

「事件から17年が経過しましたが、当府警では事件解決に向け粘り強く捜査を続けています。一つでも多くの情報を提供していただくことが事件解決につながります。

『(この情報は)すでに警察で把握しているだろう』などと思わず、どんなささいな情報でも構いませんので、ぜひ情報提供をお願いいたします」(京都府警担当者)

若者の未来を理不尽に奪っておきながら、自らの罪と向き合わずに今なお逃げ続けている被疑者。事件の解決に向けて、多くの情報が求められている。

【情報提供・問い合わせ先】
京都府下鴨警察署捜査本部
フリーダイヤル0120-230-663
https://www.pref.kyoto.jp/fukei/site/sousa/simogamo_i/index.html

事件現場周辺には情報提供を求める掲示がいくつも設置されている(7月18日 京都市内/倉本菜生)
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