読経の料金をお寺に聞いたら「お気持ちで…」いくら払えばいい? お布施が“明朗会計”ではないワケ

弁護士JP編集部

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読経の料金をお寺に聞いたら「お気持ちで…」いくら払えばいい? お布施が“明朗会計”ではないワケ
お布施は仏教の修行のひとつだという(SA555ND / PIXTA)

お盆に法要をあげる際、お布施の金額を「お気持ちで」と言われて困ったことがある人も少なくないのではないだろうか。

全日本仏教会の調査(2022年)によれば、葬儀・法要に関しての不安として「お布施の金額が分からない」と回答した人は64.9%。また、お寺がお布施を明示することが「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」と回答した人は53.5%だったとの結果も出ている。

お布施は「お賽銭」と同じ?

そもそもお布施とは、葬儀や法要で僧侶に読経や、戒名をつけてもらったりしたときに渡すお金のこと。葬儀・法要という“サービス”への対価と捉えている人もいるかもしれないが、東京都港区で400年続く「臨済宗妙心寺派 曹渓寺(そうけいじ)」副住職の坂本太樹さんは以下のように説明する。

「お布施は、布施行(ふせぎょう)という仏教の修行のひとつです。執着することで人間には苦しみが生まれます。その苦しみを除くために、自身の信仰に基づき見返りを求めず布施をして欲を手放す修行をする。これがお布施の基本的な考えですので、対価のためにするのではありません。ゆえに、お寺から金額を明示するものでもないのです。身近なところで言えば『お賽銭(さいせん)』をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません」

宗教法人の場合、宗教活動によって納められた喜捨金(きしゃきん)などは収益事業に当たらないとされ、課税の対象外となっている。しかしお布施の金額を一律で設定してしまえば、対価と引き換えにサービスを提供する「契約」として扱われ、法人税が発生してしまう。

法律上も、お布施の本来の意味に基づいた立て付けになっているということだろう。

公式サイトに金額を記載する寺院もある?

そうとはいえ、最近では檀家(だんか)や地域住民のニーズに合わせて、公式サイトなどにお布施の金額が記載されている寺院もある。これについて、前出の坂本さんは「あくまで“目安”として記載されているものがほとんどではないか」と指摘する。

「当然のことながら、ご先祖さまや亡くなった方にご回向(えこう)し供養することも寺院の大切な本分です。しかし仏教は本来、必ず訪れる“死”というものに対してどのように心を持っていればよいのか、今をしっかり生きるためにどのように自分の柱をもっていればよいのかなど、今を生きる方々のためにあります。

その今を生きるお檀家さんや門徒さん、そして地域に守っていただきながら、お寺は成り立っています。自身の信仰に基づく行いが布施であるとはいえ、その布施によって寺院は支えられており、普段の寺院と檀信門徒さんとの関わりのなかで、先祖が護られているお寺に対して、自然と『これくらい納めようかな』と決めていただくというのが理想的なお布施のかたちだと感じます」

しかし、最近では檀家も減少傾向にあり、寺院に足を運ぶ機会がほとんどないという人も少なくないだろう。そうすると、どうしても寺院との関わりが希薄になってしまい、“サービスへの対価”というイメージになってしまうのかもしれない。

「もちろん、葬儀や法要をあげる方からすれば、価格が決まっていたほうが安心できるという気持ちも分かります。ただし画一的な価格にしてしまうと、布施行の意味をなさなくなってしまうのです。

葬儀や法要の際、寺院の公式サイトなどに金額が記載されている場合は、その目安を基準に、ご自身の状況や“お気持ち”に合わせて、お納めする金額を決めていただくとよいのではないでしょうか」(同前)

“坊主丸もうけ”ではない厳しい現状

寺院が“目安”として提示している金額について、坂本さんは「当たり前ですが、お寺側が“もうけたいから”と恣意(しい)的に決めているわけではありません」という。

「お寺はひとつひとつが登記された宗教法人なので、勝手に何かを決めることはできません。あくまでも、歴代の住職が受け継いできた寺院をこの時代にたまたまお預かりしてお護りする役目をいただいているだけで、決して住職の私物ではないという姿勢が大切だとも考えています。

私がお預かりしているお寺では、お檀家さんの代表も含めた責任役員会議を開き、地域の事情やお寺の経営状況などを総合的に考慮した上で、具体的なものではありませんが『このくらい納めていただいたほうがよいのでは』という目安を示していただいています」

“坊主丸もうけ”という言葉があるように、寺院には潤沢な資金があると思っている人も多いかもしれない。しかし、文化庁宗務課が公表する「宗務時報No.127(令和6年3月)」で宗教法人の1年間の収入合計を見ると、72.2%の宗教法人は年間収入が500万円未満、85.3%は1000万円未満という結果になっている。ここから水道光熱費や修繕費をはじめ支出を引くと、人件費さえままならずに、教師や役所勤務など副業をもつ僧侶も多いという。

文化庁宗務課「宗務時報No.127(令和6年3月)」より

坂本さんも「社会の皆さんからは、大きなお寺や観光事業を行っているような寺院が目につきやすいため、余裕のある業界と思われるかもしれません。しかし、実態としては住職や寺族だけで運営している個人事業主のようなところがほとんどで、余裕のある運営ができている寺院はほんの一握りです」と吐露する。

「お坊さん派遣サービス」の問題点

最近では「明朗会計」をうたい、インターネットを通じて僧侶を派遣するサービスも出てきている。一時はAmazonにも“出品”されていたが、全日本仏教会が「お布施は、サービスの対価ではありません」「宗教行為をサービスとして商品にしている」と指摘するなど、物議を醸した。

「仏教の教えに基づく布施行と馴染まないのはもちろんですが、明示された金額のうち何割かはサービスの運営会社の収入となります。派遣事業を行う会社にもよりますが、すべてがお布施として納められるわけではなく、半分以上が派遣業者の紹介手数料となる場合もあり、納めた方の“お気持ち”と実態とで食い違いが発生してしまうこともあろうかと思います。

私は、一番大切なのは法要を希望されて行う皆さんなので、ご本人たちの気持ちに折り合いがつくならば、それでもよいかとは思います。ただ、派遣された僧侶が実際に宗派や包括宗教法人によって僧侶の資格があると認められた者であるか判別できない、WEBページに有名寺院の写真があり派遣を依頼したら、実際に来た僧侶は写真とはまったく関係がなかったなど、亡くなった大切な方を弔いしっかりとご供養したいという方々を困惑させるようなことがなければよいなと願っています」(坂本さん)

なお、坂本さんが指摘したように、お布施の目安は地域によって異なり、また宗派によっても違いが出てくるそうだ。お盆に法要をあげる人、お墓参りに行く人は、お布施の金額をどのような基準で決めればよいのか、考え方を含めて住職と話してみるのもいいかもしれない。

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