システム障害で営業停止、ランチ予定が白紙に…店舗は客個人の“私的損失”をどこまで補償してくれるのか

弁護士JP編集部

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システム障害で営業停止、ランチ予定が白紙に…店舗は客個人の“私的損失”をどこまで補償してくれるのか
システム障害で店舗閉鎖で補償はあり?(1207Blue / PIXTA)

7月中旬、世界規模のシステム障害で多くの企業がダメージを受け、営業に支障が出るなど、甚大な損害が発生した。ネットがインフラ化し、サービスや事業がインターネットやシステムに大きく依存していることを改めて実感させらた。こうしたトラブルが発生した場合、被害を受けた企業や消費者はどこまで補償を受けられるのか。

「当然ながらある程度は保険でカバーされるでしょう。ただし、たいていは対象が制限されていたり、補償上限が決められており、そこまで十分に補償されることはないでしょう」。こう見通しを語るのは、企業法務に詳しい辻󠄀本奈保弁護士だ。

報道によると、今回のシステム障害による世界全体の被害額は150億ドル(約2.3兆円)と推定され、そのうち、保険でカバーされるのは、15億~30億ドルともいわれている。単純計算で、被害額の10分の1程度にとどまる。

マクドナルドでは店舗の3割で営業停止に

このシステム障害との関連は不明だが、ほぼ同じタイミングで7月19日には日本マクドナルドに、レジが作動しない不具合が発生。全国の約30%の店舗で、営業が中止された。

同社は3月にも大規模システム障害で、対面注文やモバイルオーダーの注文が不能になっている。接客力に定評のあるマクドナルドだが、ファストフードチェーンではDXの先端を走っており、システム系の障害が起これば、店舗での営業に甚大な影響が発生する。

マクドナルドは直営以外のFC(フランチャイズ契約店舗)が7割前後といわれており、こうした直営外のFCに対し、同社はどこまで損失を補償するのか。「契約内容次第ですが、一般論として、おそらくすべてが補償されるのは難しいでしょう。システム障害がなかったとした場合の売上の算定は難しいでしょうし、免責事項としてどこまで記載されているかによっても補償内容は大きく変わってきます」(辻󠄀本弁護士)

システム障害における補償については、損害全ては難しく、どうやら「最低限の補償」が現実的といえそうだ。

システム障害に対する補償側のスタンス

システム障害発生で大きな損失が考えられる金融系などでは、補償についてはよりシビアだ。たとえばSBIネオトレード証券は「お客さまの損失を補塡(ほてん)することはできません」と明言している。その理由として、「システム障害により発注ができず損失が拡大した場合等の『機会損失』については、約定値の確定ができず、損失額の算出ができないため」と説明している。

さらに同社は「機会損失に限らずシステム障害による全ての損失において、補填を保証していません。お客さまには、当社の約款および商品の取引規程をご熟読いただき、リスク等を十分に理解した上で、お客さまの判断と責任においてお取引をお願いしております。なお、当該リスクには、システム機器、通信機器等の故障等、不測の事態による取引への制限が生じる可能性も含まれますので、予めご了承願います」としている。

2023年10月10日にシステム障害に見舞われた全国銀行データ通信システムは、その約1週間後に損失補填についての考え方を公表。「重要なインフラである」としたうえで、手数料、延滞金・遅延損害金、貸出金利/貸越金利等、直接的な金融取引で発生した追加費用等がその対象であるとした。

ビッグマックを食べ損ねた補償は現実的なのか

では、上記のマクドナルドのようなケースで、「今日はランチでビッグマックを食べるぞ」と楽しみしていた顧客が、「その機会を奪われた」と同社を訴えた場合、なんらかの補償を受けられるのか。

「具体的なケースによりますが、現実的にはなかなか難しいでしょう。どうしてもその日のランチでビッグマックを食べる必要があるかといえば、客観的にはそのようなことはないでしょうし、通常、一般的な飲食店では事前に店舗側とそうした契約も結んでいないでしょうから」と辻󠄀本弁護士は説明した。

そのうえで、「もちろん、契約上の義務はないとしても、例えば、店舗側が誠意や配慮を示すという意味でクーポン等を配布するなど何らかの対応をするケースは考えられるかもしれません。ただ、モバイルオーダーで事前決済をしていた場合等、システム障害でそれがキャンセルになってしまったなどといったケースならおそらく返金はされるでしょう」と誠意を示す意味の“補償”はあり得るとした。

経営を守るために熟考する“免責事項”の内容

保険会社も含め、補償をする側は、補償額が過大な場合、経営が圧迫される可能性も出てくる。そこで、そうした企業は、支払いによる経営リスク最小化のために契約においては特定条件下における免責事項を設定するのが一般的だ。

たとえば、アメリカン・エキスプレスのプレミアム・カードは、直近3か月連続で通信料の決済を同カードで行っている場合、購入後36ヶ月以内のスマホに対し、1回の事故につき、5000円の自己負担のみでOKとしている。

なかなかの手厚さで、機器の破損、火災、水漏れ、盗難に対しても補償してもらえる。ただし、故意の破損はもちろん、「サイバー損害による端末の損害」も、補償の対象外となっている。対象外の多くは、破損原因が純粋に端末に起因しないものに設定されているが、“サイバー損害”もそれらと同列ということだ。

システムが社会の重要インフラに定着したいま、その障害による影響は甚大で、世界規模にもなり得る。逆にいえば補償する側の企業は、システム障害発生を見据え、「免責事項」への記載事項を十分慎重に検討することになる。

そうだとすれば、システム障害の補償は「気休め程度」と考え、デジタル社会ではいつでも起こりうるリスクのひとつと受け止め、発生した場合にどう対処するかを事前に想定しておくのが、システム障害に困惑し、振り回されないための賢明なスタンスといえそうだ。

取材協力弁護士

辻󠄀本 奈保 弁護士

辻󠄀本 奈保 弁護士

所属: 辻󠄀本奈保法律事務所

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