「弱みしかないです」“弁護士コンビ”結成4か月でM-1グランプリに挑戦するワケ “裁判と漫才”意外な共通点とは?

倉本 菜生

倉本 菜生

「弱みしかないです」“弁護士コンビ”結成4か月でM-1グランプリに挑戦するワケ “裁判と漫才”意外な共通点とは?
M-1に初挑戦する結成4か月の弁護士コンビ「リット法律事務所」(8月大阪市内/倉本菜生)

今年もアツい「M-1グランプリ」(以下、M-1)の予選がはじまった。吉本興業と朝日放送テレビが主催するM-1は、日本一の若手漫才コンビを決める大会だ。コンビ結成から15年以内であれば誰でも参加できるため、お笑い界の頂点を目指す人々の登竜門になっている。

もはや国民的行事となったM-1に、今年、とある弁護士たちが初挑戦するという。結成4か月のコンビ「リット法律事務所」だ。

大阪天満宮を中心に栄え、日本三大祭りの『天神祭り』で知られる大阪市北区南森町。古きよき景色と近代的な建築が交差するこの街に、リット法律事務所はある。M-1出場を決めたのは、その所長である清水勇希弁護士と、相棒の谷口陽輔弁護士だ。

勤務先の看板をそのままコンビ名として背負い、「やるからには優勝を目指したい」と意気込む彼ら。現役弁護士がなぜM-1に……? 出場の裏側をインタビューした。

「顔は知っている」程度の2人が“相方”に

ボケ担当の清水勇希弁護士(左)、ツッコミ担当の谷口陽輔弁護士(右)(8月大阪市内/倉本菜生)

まずは、おふたりの弁護士としてのご経歴を教えてください。

清水弁護士:司法試験に合格後、4年ほど勤務弁護士(※事務所に雇われて勤務している弁護士のこと)として働き、2022年10月にリット法律事務所を開業しました。弁護士としての仕事は、ベンチャー企業の法務、芸能・エンタメ法務等を中心に扱うほか、上場企業の社外役員をするなど幅広く活動しています。

谷口弁護士:清水と同じく勤務弁護士を4年務め、昨年9月からこの事務所に合流しました。離婚事件、債務整理、交通事故など、地域の人たちのトラブルを幅広くオールマイティーに担当しています。いわゆる「町弁(※町の弁護士)」ですね。

おふたりの出会いは?

清水弁護士:大学が同じ立命館だったんです。僕は谷口の2つ下の学年。当時僕は学部生で、谷口は大学院生として立命館の法科大学院(ロースクール)に通っていました。当時の印象は「ロースクールの方なんや」くらいでしたね(笑)

谷口弁護士:共通の友人がいたり、図書館でよく見かけたりしていたので、お互いに「顔は知っている」程度でした。同じタイミングで司法試験に受かり、研修の班が一緒だったことで仲良くなったんです。

清水弁護士:司法試験って、ロースクールを修了するか、予備試験に合格すれば受験できる仕組みになっていて。僕は大学生のうちに予備試験を受けて司法試験に挑んだので、学年は違っても谷口とは合格のタイミングが同じで、研修の同期だったんですよ。

谷口弁護士:司法試験に受かっても、すぐに弁護士になれるわけじゃないんです。司法修習と呼ばれる研修期間が1年くらいあります。その間はずっと同じ班のメンバーと行動するので、自然と仲良くなっていました。

いわゆる「同じ釜の飯を食った仲間」というわけですね。漫才コンビの結成は今年の4月からとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

清水弁護士:一緒に働いていると、日々の会話が仕事のことばかりになってくるんですよね。それに寂しさを感じたのと、業務以外で何かふたりで作り上げてみたい気持ちがあって。漫才を選んだのは、僕自身が芸人さんに憧れがあったからです。弁護士をやっていなかったら芸人を目指していたくらい、お笑いが大好きで。M-1にもずっと出てみたかったんです。

谷口弁護士:僕はどちらかと言うと、人前で何かをするのは苦手なタイプです。でもダウンタウンさんを見て育ったのでお笑い自体は大好きですし、できるのならやってみたいなと思って、清水からの誘いに乗りました。それに、僕がこのリット法律事務所に弁護士として合流したのは、いろんなことに挑戦していく清水をサポートしたいなという気持ちがあったからなんです。だからこそ、「彼がやるんやったら僕もやろうかな」って感じでした。

裁判と漫才の意外な“共通点”

M-1では弁護士ネタを披露されるのでしょうか。

清水弁護士:“弁護士あるある”なネタを考えています。職業柄、守秘義務が多いので、言いたいこともなかなか言えない立場にあります。一般の方にとっても、弁護士や法曹界って謎に包まれていて遠いイメージがあると思うんですよね。なので言える範囲でネタにして、一般の方に共感や親しみを感じてもらいたいなと。

谷口弁護士:ネタを通じて、僕たちの仕事や法曹界に興味を持ってもらいたい ですね。弁護士は裁判相手だけでなく裁判官や検察官とも戦う職業なので、その苦労もおもしろくネタにして伝えたいです。

弁護士コンビだからこその強みや弱みはどこだと思いますか?

清水弁護士:弱みしかないです(笑)。本職の芸人さんのように、お笑いに全ての時間を投入できるわけではないので、そこは一番の弱みですね。ただ、弁護士だから個性は立っていますし、職業ネタで勝負できるのは最大の強みだと思っています。

谷口弁護士:メンタル面も強みかもしれません。本番に向かって準備していく過程は、M-1も裁判も同じなので。

弁護士さんは法廷でしゃべるお仕事でもありますもんね。

清水弁護士:漫才は裁判の尋問と似ている気がしています。主尋問(※弁護士が自分の側の証人に質問すること)は徹底的にリハーサルして臨むので、練習した受け答えや間を披露するという点で似ているかな。逆に反対尋問(※相手側の弁護士がその証人に質問すること)では、臨機応変に対応する能力が求められます。

谷口弁護士:しっかり話を組み立てて構成して、相手の反応を見てうまくアドリブで機転を利かせられるか。相手の心をつかめるかという部分では、裁判と漫才で通じるものがありますね。

裁判も漫才も「準備の過程」が大切と話す谷口弁護士(8月 大阪市内/倉本菜生)

「M-1出るん?」会話のきっかけに

漫才師として観客の前に立つのはM-1の1回戦が初めてだそうですが、不安などはありますか?

清水弁護士:緊張で言いたいことが頭から飛んでしまわないか怖いですね。恥ずかしいし、失敗してしまったら、お客さんも「あの弁護士には絶対に依頼せんとこ」ってなるだろうし。「尋問ヘタクソなんちゃうか」と思われたり(笑)。SNSでも大々的に告知して、周りも注目してくれている中で失敗したら、仕事が来なくなるんじゃないか。そのプレッシャーはすごくあります。

谷口弁護士:僕は今のところは不安や緊張をそんなに感じていないです。2日前くらいから緊張してきそう。今はあんまり考えないようにしています(笑)

M-1に出ると告知してから、周りの反応はいかがでしたか。

清水弁護士:僕は中学の頃に文化祭で漫才をやっているので、家族は「またやるんか」って反応でした。でも裁判所ですれ違った弁護士に、「M-1出るん?」って声をかけられましたね。その先生とはあまり話したことがなかったので、印象的に見られているんだなと感じました。

谷口弁護士:妻から「人生楽しそうだね」ってボソっと言われました(笑)。僕はSNSをやっていないんですが、清水の投稿を見た友達から「どっちがボケでどっちがツッコミ?」って聞かれたり、LINEが来たりしました。

漫才コンビを組んだことで、弁護士の仕事にも何か良い影響は生まれましたか?

清水弁護士:ふたりでいても仕事の話ばかりだったところに、M-1という新たな日常会話が生まれました。漫才の練習も、日常のやり取りの中でしていますし(笑)。事務所のスタッフも応援してくれていて、事務所全体、皆で一丸となって挑戦していくって意味では、良い方向に働いているんじゃないかな。

谷口弁護士:「M-1出るんですよ」って、お客さんとの会話のネタが増えました。フェーズが濃くなっていくにつれて、感じることも増えてくると思うので、それを楽しんでいきたいです。

お互いのことをどういう人だと思っていますか?

2人:うわ、言うん恥ずかし~!!(笑)

谷口弁護士:とにかくコミュニケーション能力が高くて、周りを明るくさせる人。僕とはタイプが違っていて、僕にないものを持っている。そこがすごく良いところだと思っています。

清水弁護士:僕は物事に勢いよく飛び込む性格をしているんですが、谷口は一歩引いて俯瞰(ふかん)しながら一緒に仕事をしてくれるので助かっています。僕だけだったら、事務所のスタッフも僕の勢いにつぶれてしまうと思うので。裏から支えてくれるような存在で、本当に大好きです。

1回戦の前に応援してくれている事務所スタッフにネタを披露するつもりだという清水弁護士(8月 大阪市内/倉本菜生)

M-1は「プロと同じ土俵でチャレンジさせてもらえる」

弁護士としての最終目標は何かお持ちですか?

清水弁護士:事務所の所長として、何か困ったとき「リット法律事務所に相談したい」「ここに頼んでよかった、また相談しよう」と思ってもらえるような、日本一の事務所にしたいと考えています。

谷口弁護士:清水の目標を支えていきながら、弁護士として世間の皆さんにとって有益になる先例を作っていけたらいいなと思っています。

では最後に、M-1への意気込みと漫才師としての最終目標をお聞かせください。

清水弁護士:本職の芸人さんたちには大変恐れ多いですが、優勝を目指したいです。プロと同じ土俵でチャレンジさせてもらえるのはM-1の魅力ですし、ありがたいことだと思います。グダグダで失敗したら、それこそ事務所の評判にも関わってきます。仕事の合間を縫って、ベストを尽くしたいです。

谷口弁護士:本職の芸人さんたちに失礼のないよう、僕たちができることを精いっぱいやりたいです。

清水弁護士:芸人としての最終目標は……M-1には毎年出たいですね。チャレンジするたびに結果をどんどん上げていって、最終的には本当に優勝したいです。

谷口弁護士:「さんまのお笑い向上委員会」(※フジテレビのトークバラエティー)に出るのが最終目標ちゃうん(笑)

清水弁護士:ほんまに出たいね!

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