子どもの宿題に“手を加える”のは「権利侵害」? 夏休みの宿題、親や先生が気をつけるべき法律問題
夏休みも終わりが近づき、今ごろ大慌てで宿題を片付けている児童や生徒もいるかもしれません。
子どもの図工や作文などの創作物に対して、親や先生は「もっとこうすれば…」と、ついつい口や手を出してしまうこともあるでしょう。しかし、子どもの作品であっても「著作権」が発生し、勝手に手を加えたり、公表したりすれば侵害行為に当たります。
創作物をめぐる「子どもの権利」について、大学で著作権を教えている宮武久佳さんが解説します。
※この記事は、宮武久佳氏の著作『小学生のうちから知っておきたい著作権の基本』(カンゼン)より一部抜粋・再構成しています。
先生から「市のコンクールに出したい」と言われたら…拒否できる?
「公表権」とは著作者人格権の1つで、自分のコンテンツを「公表するかしないか」「いつ公表するか」を決めるのはコンテンツを作った本人だけ、という権利です。
たとえば、学校の図工や美術の授業の時間にキミが絵を描いたとしましょう。その絵は、自分としては、気に入らない仕上がりなのですが、先生は「市のコンクールに出したい」と言いました。この場合、キミが「コンクールに出すかどうか」を決めることができます。
これは絵を描いたキミだけが持つ権利です。保護者にも先生にもこの権利はありません。
キミが描いた絵を、先生が学校の玄関に飾ることも公表権に関係します。図工の時間に描いたものを教室や廊下に飾ることについては、キミも覚悟しているかもしれません。だけど、いろんな人が通行する玄関に飾るのは同じことではありません。「嫌です。掲示しないでください」という権利(公表権)をキミは持っているのです。
キミが書いた作文についても同じように、キミだけが公表権を持っています。
先生がキミに「読んでいいかい?」と確認することなく授業中、みんなの前でキミの作文を読むことは、本当は公表権の侵害になります。
子どもの作文を授業中に読み上げたり、文集に取り上げたりする場合、子どもが恥ずかしい思いをしないよう、先生方は気づかいが必要だと思います。
もっとも先生があらかじめ「いい作文は読み上げるかもしれないから」とか「文集に載せる作文を、先生は直すけど、最終のチェックはキミがしてね」と予告していてくれたら、キミも安心ができるかもしれませんね。
学校でペンネームつかっても良い?
キミが作品(コンテンツ)を展覧会やコンクールに出すときに、キミの名前を出すかどうか――。これを決めることができるのもキミだけです。原則として保護者も先生も決めることができません。
著作権の大きな柱である「著作者人格権」には、作品の作り手だけが持つ「氏名表示権」があります。これは作品を多くの人に知らせるとき、見せるときに、作った人の名前(氏名)を出す(表示する)か、出さない(表示しない)かを決める権利です。
図工の時間に描いた水彩画が、学校以外の人も通行する学校の玄関に飾られる場合、その絵に作り手の名前を付けるかどうかは大きな問題ですよね。名前を出してほしいと思う場合もあれば、「名前なしで」と願う場合もあるでしょう。
もしもキミがペンネーム(あるいは絵を描くときの名前)を持っていれば、「〇〇の名前でお願いします」と要求することができます。
SNSの時代、小学生でもハンドルネームを持っています。絵を描くときに使う専用の名前を子どもが持っていてもおかしくないと私は思います。
著作権の考え方からすると、コンテンツにどのような名前を付けるかは作者だけが決めることができるのです。
氏名表示権があるおかげで、一般市民が本名を使わずに活躍できる場面があります。銀行員がペンネームでヒット曲を書き続けた例がありました。多くの芸能人は芸名で出演していますが、本名でない方が活動しやすいのでしょう。
先生に「手直し」されない権利とは?
「著作者人格権」の3つ目は、コンテンツを勝手に作り変えられないようにする「同一性保持権」です。
キミが描いた絵を、キミの許可なくほかの人が勝手に、修正したり、描き変えたりすることはできないという権利です。同一性(同じであること)を保持する(キープする)権利は作り手のキミだけが持っているのです。
たとえばキミが卒業文集に載せる作文を「サクラ」とカタカナ書きを選んだとします。それを先生がキミの許可のないまま「桜」や「さくら」と書き換えることはできません。同一性保持権があるからです。キミが、「サクラ」とカタカナを選んだのは理由やコダワリがあるのではありませんか。
「先生が粘土細工に指を入れて、手直しした」「(高校入試の)合格体験記を中学の先生に送ったら、都合よく直された」というケースも同じです。
以上、著作者人格権の3つを見てきました。学校では、著作権を気にしなくてよい場合も多いのですが、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」などの作り手のハートを守る著作者人格権は、たとえ学校という環境の中であってもこれに当てはまりません。
学校でも教室でも「子どもにも人権がある」というのが著作権法の基本姿勢だからです。著作者人格権を気にしすぎると、「授業がなりたたない」とこぼす先生は多いと思います。作文を読み上げたり、水彩画や粘土細工は、さっと手を入れたりするのが指導上、やりやすいと考えるからです。
だけど、子どもが作ったコンテンツを扱う場合、先生から子どもに一言、「ちょっといいかな」と許可を得る姿勢がほしいところです。
- この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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