米ディズニー『Disney+』規約根拠に“訴訟取り下げ”求め物議に… 「日本では無効」弁護士が国内でのケースを解説

杉本 穂高

杉本 穂高

米ディズニー『Disney+』規約根拠に“訴訟取り下げ”求め物議に… 「日本では無効」弁護士が国内でのケースを解説
事故が起きたレストランはアメリカフロリダ州の「disney springs」内にある(Kylie Trout/shutterstock)

アメリカワシントン州にあるウォルト・ディズニー・パークス&リゾーツ内のレストランで食事をした女性がアレルギー反応で亡くなったことを受けて、遺族がディズニー社の監督責任を問う裁判を起こしたが、ディズニー社は訴訟を取り下げるよう要求。この対応が8月、日本でも報道され物議をかもした。

Disney+の利用規約に同意していたから「パーク内の事故」には責任負わない?

死亡した女性は乳製品のアレルギーを抱えており、レストランで注文する際、従業員にアレルギー源となるものが含まれていないか何度も確認したという。しかし食事後、リゾート内でショッピング中にアナフィラキシー症状を起こし、病院に搬送され死亡が確認された。

女性の夫は、レストランのほか、ディズニー社にも監督責任の過失があったとして訴えを起こしたが、ディズニー社は同氏がかつて同社公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」に契約した際に同意した規約を根拠に、同社に対する裁判はできないなどと主張して訴えを取り下げるよう求めた(ディズニー社は後に、今回限りの対応として主張を撤回)。

Disney+およびディズニー社のウェブサイトやコンテンツ、製品などの利用規約には、「お客様は、お客様とディズニーとの間のすべての紛争を拘束力のある個別仲裁を通じて解決し、集団訴訟の放棄及び陪審審理の放棄を含むことに同意することになります」と記載されており、これに同意しサービスを受けたユーザーはディズニー社に関わるあらゆる紛争を仲裁によって解決せねばならないという。本件はアメリカにおける事例だが、日本のDisney+およびディズニー社の利用規約ページにも同様の文言が記載されている。

しかし、この「裁判をさせないかのような規約」は、日本国憲法32条が保証する「裁判を受ける権利」を制限しているように思える。果たしてこのような規約は、日本においては有効なのか、消費者法に詳しい壇俊光弁護士に話を聞いた。

利用規約への同意は契約と同じ

そもそも利用規約とはどのようなものなのだろうか。普段、なんらかのサービスを利用するために、気軽に「同意」ボタンを押している人も多いだろうが、壇弁護士は、これを「契約」行為であるとして次のように説明する。

「利用規約は、事業者が提供するサービスの利用に関するルールを記載したもので、利用者がそれに同意することにより契約と同等の効力を持つことになります。『同意』ボタンをクリックすると、契約書に署名するのと同じ効果が生じるわけです」

また、利用規約に「契約終了後においても本規約〇条が適用される」のような文言が記載されている場合は、サービスを解約した後も効力が残るのが原則になる。

しかし、どんな内容であっても利用規約が有効となるわけではない。

「契約について、一方的に不当な条項については、公序良俗違反(民法90条)で無効とする解釈が採られています。利用規約に書かれていて、ユーザーがそれに同意したとしてもすべて有効になるとは限りません」(壇弁護士)

「不起訴の合意」は日本でも有効なのか

ではディズニー社のような、「トラブルが起きても裁判を起こさない契約をする」利用規約は、日本において有効なのだろうか。壇弁護士は続ける。

「こうした契約を『不起訴の合意』と言いますが、日本の利用規約ではあまり見かけない条項です。前述の通り、日本では一方的に不利益な条項は無効になります。

最近の例では、某宗教法人が献金の返還を阻止するために作った「返還請求や損害賠償請求をしない」という旨の念書について、裁判を受ける権利(憲法32条)を制約するものである等として公序良俗違反で無効と判断されました(最高裁 令和6年7月11日判決)。

また、利用規約が問題となる場合、消費者契約法10条で、消費者の利益を一方的に害するものは無効とすると規定されています。裁判所は現在、同条の適用に消極的なのですが、それでも今回のアメリカにおける例のように消費者が全く訴訟できないという条項は、日本においては無効となる可能性が高いでしょう」

「利用規約」めぐる裁判、日本でも

壇弁護士によれば、日本でも利用規約を巡るトラブルは、数多く起きているという。

たとえば、予備校の元受講生が、フリマアプリで予備校のテキストを第三者に譲渡したケース。予備校は、受講規約を根拠に違約金など500万円以上を請求したが、裁判所は予備校が被った損害を詳細に認定したうえで、違約金は100万円を限度で認めるのが相当であり、それを超える請求については公序良俗違反で無効であるという判決を下した(東京地裁 令和4年2月28日判決)。

また、大学への入学を辞退した学生が合格時に納入した入学金や授業料等の返還を求めた裁判を提起したところ、「募集要項」に記載した「不返還特約」を根拠に返還を拒んだ大学側が一部敗訴し、授業料に限り返還が命じられたケースもある(最高裁 平成18年11月27日判決)。

一方で、事業者側に有利な判決が下されることも。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのインターネットチケットストアの利用規約には、原則として、一度購入したチケットのキャンセルを禁止する条項が記載されている。これについて、消費者の権利に制限が生じるとして適格消費者団体が訴えを起こしたが、この条項はチケット転売による高額化を防ぐことを趣旨としており、消費者契約法違反には当たらないとされた(大阪地裁 令和5年7月21日判決※現在控訴審中)。

消費者が取れる対策は?

いまや、特にインターネット上のサービスを利用するためには、ほとんどの場合、利用規約への同意が求められる。

壇弁護士は「一方的に消費者が不利になる規約は無効になる可能性が高いとはいえ、規約は企業にとって都合の良い条項ばかりが記載されていることもあります。同意する前によく確認することが重要です」と呼び掛ける。

一般的に利用規約は長文で、ひとつひとつの条項を確認するのは手間がかかるが、自己の利益を守るためには、やはり丁寧に読み込むことが何より大切なようだ。

取材協力弁護士

壇 俊光 弁護士

壇 俊光 弁護士

所属: 北尻総合法律事務所

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