「国産うなぎ」密漁稚魚も流通!? 「土用の丑の日」を支える“不都合”な事実
江戸時代に平賀源内が広めたとされる「土用の丑の日」の宣伝効果は凄まじく、今年も7月に入った途端、あちこちで「うなぎ」の文字を見かけるようになった。総務省統計局の「家計調査」でも、うなぎのかば焼きの消費量は例年7月に突出して高い数値となっている。
ふわふわの身に、ツヤッとした甘辛いタレ…。うなぎのかば焼きは、見た目でも香りでも多くの人を魅了するが、実は国産養殖うなぎの多くが「出所がよくわからない」という不透明さを抱えていることをご存じだろうか。
「稚魚の流通」が抱える問題
大前提として、うなぎを卵から育てる“完全養殖”は、現段階において実用化に至っていない。店頭で見かける「養殖うなぎ」は、天然のシラスウナギ(うなぎの稚魚)を養殖業者が育てたものだ。
養殖用のシラスウナギは、国内採捕のほか輸入にも頼っている。たとえ外国から輸入されたシラスウナギであっても、国内で養殖されれば「国産うなぎ」として販売される。
水産庁によると、2021年に報告されたシラスウナギの国内採捕数量は7.0tで、輸入数量は7.0t。一方、養殖業者から報告されたシラスウナギの池入数量は18.3tだった。本来であれば、国内採捕数量と輸入数量を合計した14.0tと等しくなるはずだが、実際には4.3tの差が生じている。これについて水産庁は、国内採捕において密漁などを原因とする報告漏れがあることを指摘している。
また、養殖用に輸入されたシラスウナギについても、その不透明性を否定することができない。最大の輸出国は香港だが、国際的な環境保全団体「WWF」の担当者は、その実態を以下のように語る。
「香港では商業的なシラスウナギ漁は行われていないため、台湾もしくは中国で漁獲されたシラスウナギが香港経由で輸入されていると考えられています。
現時点では、漁獲証明を義務付ける法的根拠がないため、出所不明となっており、漁獲自体が適法かどうかを判別する仕組みがありません」(WWF担当者)
うなぎ消費が「人権問題」に落とす影
うなぎの絶滅については広く知られており、危機感を抱いている人も多いかもしれないが、このまま不透明なシラスウナギの流通を野放しにすれば、人道的な被害に繋がるリスクもある。
「IUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated:違法・無報告・無規制に行なわれている漁業)は、過剰漁獲の原因となるだけではなく、科学的な漁業管理の実践をより困難なものとします。そのため、資源の回復を遅らせ、資源枯渇をより長期化させるため、うなぎ産業にも大きな影響を及ぼすと考えられます。またこうしたIUU漁業の背後には、人の健康や安全などを脅かす人権問題が潜んでいることが多く、うなぎを消費することへの社会的・経済的・倫理的リスクを生み出すと思われます。
安価に大量に生産・消費する仕組みから、適切に管理し、数量と需要に見合った価格での販売消費をする仕組みへと変えることが重要です」(WWF担当者)
法律で「うなぎの未来」を守れるか
こうした現状の解消を目指し、今年12月1日に施行(※)されるのが「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)」だ。違法に採捕された水産動植物の流通を防ぐため、違反内容によって50万円以下の罰金などの罰則がある。
(※)シラスウナギについては、都道府県知事による漁業の許可制(知事許可漁業)の導入を踏まえた流通実態の変化の状況も考慮する必要があることから、知事許可漁業に移行して一定期間経過後の2025年12月から適用される
WWFではこの法律の適用について、以下のように見ている。
「少なくともシラスウナギが、『いつ、どこで、誰が漁獲したか』がわかるようになるので、漁獲量の正確な把握に加え、違法漁業を防ぐことができるのではと期待されています。
一方、今回、水産流通適正化法の対象になったのは、国産のシラスウナギのみで、輸入シラスウナギ、国産&輸入親ウナギは対象外であるため、依然として不透明な流通が続くと思われます。水産流通適正化法は2年毎に見直しをおこなうため、できるだけ早く対象を広げることが重要だと考えられます」(WWF担当者)
うなぎへの注目が1年で最も集まる「土用の丑の日」。宣伝文句に誘われてうなぎに手を伸ばす際には、うなぎが抱える問題にも思いを馳せてみてほしい。
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