離婚後元夫婦“双方”が子どもの「親権者」に…「共同親権」制度導入で起こり得ることは?

弁護士JP編集部

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離婚後元夫婦“双方”が子どもの「親権者」に…「共同親権」制度導入で起こり得ることは?
子どもの立場から利益が優先されるべきだが(tsukat/PIXTA)

7月19日、離婚後の「子ども養育」について法制審議会(法務大臣の諮問機関)の家族法制部会は、「親権制度の見直し」の中間試案となるたたき台を示した。離婚後も元夫婦双方が親権者となる「共同親権」の導入や、現行の「単独親権」を維持する案など複数が提示されているもの。8月末には、民法改正の中間試案として取りまとめ、広くパブリックコメント(意見公募)が行われる予定だ。

「共同親権」を導入すべきという声も多いが…

従来、日本国内では、離婚成立の際、原則父母のどちらかの「単独親権」とされてきた。一方の親が「親権者」となれず、子どもと引き離されるのは、人権侵害であり違憲(憲法違反)だという主張もあり、離婚後の養育費の未払いや「子どもの連れ去り」など、いくつもの問題を引き起こす元凶との指摘もあった。

一方、元夫婦で子どもの成長を一緒に見届けることができる制度として、早くから欧米諸国では一般的な「共同親権」を導入すべきという声も多かったが、家庭内暴力(DV)や虐待があるケースでは、逆に子どもの安全が脅かされるのではと懸念する「慎重論」も根強い。

7月15日、シングルマザーサポート団体全国協議会による、離婚後のひとり親と子どもの養育の実情に関する調査結果(6月22日~7月2日、ひとり親の会員にウェブ調査を実施。対象は、子どもが20歳以下の時に離婚し、現在子どもが26歳以下、ひとり親になってから10年以内の人。2524人から有効回答)が明らかにされた。

調査結果によれば、離婚を決断した理由として約37%が「子どもへの悪影響・精神的虐待」という回答を得た。また、約40%が「配偶者から子どもへの虐待があった」と回答している。これら調査はDV被害者のみではなく、ひとり親に対して行ったもの。

共同親権制度・共同監護について、全国協議会(赤石千衣子代表)は、「子どもの安心を守ることができないのは調査から明らか」とした上で、法制審議会の議論は、離婚や家庭裁判所の実情を見て慎重に進めていくべきと訴えた。

会見を行ったシングルマザーサポート団体全国協議会・赤石千衣子代表(中央)ら(7月15日 霞が関/弁護士JP編集部)

共同親権は「魔法の制度」ではない

いずれにせよ、今回の改正議論は「子どもの最善の利益を追求すること」(古川禎久法相)を目的として進められているもの。導入の是非をめぐる大人側の思惑を伴う話し合いはもとより、「子ども視点の幸せ」という観点からブレない議論を期待したい。

では、実際に「共同親権」制度の導入を想定した場合、主に「実務面」ではどのような変化が起こり得るのであろう。離婚問題を含む多くの男女・家族の問題を扱ってきた安達里美弁護士に聞いた。

「共同親権」についての議論が進んでいます。制度が導入された場合に、実際にどのような事態が想定されるでしょうか。是非の議論がなされている面も含め、法律面での視点から率直な意見をお聞かせください。

安達弁護士:まず、「共同親権制度」というワードを使った際に、どのような制度をイメージしているかによって全然捉え方も違いますし、そこが固まらないと議論がかみ合わないということがあると思います。日本で今後どのような共同親権制度が構築されるのかわかりませんが、ひとつ言えることは、この共同親権を現在の単独親権で生じている問題を解決する「魔法の制度」だと考えているのであれば、それは間違っているということです。

もちろん、共同親権という制度をうまく利用できる「離婚しても子どものことは協力して話し合ってやっていこうね。夫婦としては終わったけど、父(母)としてのあなたは尊敬しています」のようなタイプの方たちであれば、共同親権、単独親権どちらを選んでも、きちんとした関わり合いの中で、話し合いで物事を進めていけると思います。そういう方たちにとっては、共同親権制度が創設され、選べるということになれば朗報でしょう。

一方、原因は双方にあるのか、片方なのかはケース・バイ・ケースですが、話し合いで決められない場合について、日本ではどのようになるのかまだわかりません。例えば、共同親権制度のあるアメリカでは、裁判所の決定により、双方「養育計画書」などを提出して話し合いを重ね、最後に「契約」を取り交わし共同親権をスタートさせていく州が多いそうです。

日本において、この「養育計画書」に類するものを作成する場合、その補助を裁判官や弁護士などの「法曹だけ」が担うことは困難だと思います。

したがって、共同親権制度を導入するには、①「養育計画書」の作成を補助する機関の設置、②同機関への適切な数の人員(現在の調停委員のような有識者、現在の裁判所調査官のような役割をする方、心理士などが構成員として考えられます)の配置がマストだと考えています。

これがなければ、共同親権制度が創設されたとしても、現実的な部分では現状とあまり変わらないのではと思います。それでは、現状の単独親権制度の問題点が全く解決しません。

手続き他を「法曹だけ」が担うことは困難(東京家庭裁判所 写真:弁護士JP)

適切に判断するのが難しい「DV被害」

共同親権は「子どもが両方の親と関われる」、「親権トラブルの回避」といったメリットが言われる一方、現実的なデメリットも挙げられています。前述された通り「円満」離婚であれば比較的スムーズに進むと考えられますが、離婚原因が「DV・モラハラ」などの場合、面会時のトラブルなども懸念されますが、現状どのような対策が考えられますか。

安達弁護士:共同親権制度のあるアメリカでは、明らかなDVがあれば、「裁判所が共同親権を認めない」ことで危険を回避しているようです。しかし、目に見えないモラハラや、そもそもDV被害者の中には、「相手にコントロールされていて意思を明確にできないケース」もあり、裁判所が適切に判断するのが難しいという問題があります。

実際、①本当はDVがあるのに発覚しにくいケース、②本当はDVがないのにあると主張するケース、の双方がありますが、この判別はなかなか難しいです。証拠がない(薄い)=認めない、としすぎると危険が現実化してしまうこともあります。一方で、証拠が薄くてもDVを認めると「でっちあげ」のケースも出てくるでしょう。

このように、そもそも「DVがあるか、ないか」を正確に認定するのが現実には非常に困難です。その上、モラハラであればさらに認定に困難が伴うでしょうし、そもそもモラハラをDV同様に共同親権除外事由にするのか、するとしてどの程度であればそこにいう「モラハラ」に該当するのかの定義も必要となってくるので、当事者の紛争の複雑化・長期化の原因にもなりそうです。

したがって、質問にある「面会等でのトラブル回避のための対策」という点については、明らかなDV事案は当初から共同親権制度から除外されるでしょうが、それ以外のケースではたとえば冒頭で述べた「養育計画書」の作成の過程の中で資料を集め見極めていくしか対策はないかもしれません。それでも100%ということは難しいと思います。

裁判所が一方的に共同親権の内容を定める制度になったら…

子どもの権利が優先される共同親権では、両親の教育方針などが対立するなどした場合、最終的に調停や裁判などでの解決を図ることで、結局は“元の木阿弥(もくあみ)”のような状態にはならないのでしょうか。

安達弁護士:「養育計画書」作成をしたものの双方の合意に至らなかった場合、「裁判所が一方的にその内容を定めて共同親権を認める判断をする制度」とするのか否かにもよると思います。合意に至らなければ共同親権とならない(単独親権となってしまう)のであれば、正直、今と何も変わらないと思います。

一方、仮に、当事者間で合意が形成できなくとも裁判所が一方的に共同親権の内容を定めることができる制度になった場合、その内容についてはどうしても片方ないし双方の親が不満に思うものとならざるを得ないため、将来、紛争が再燃することは十分に想定できると思います。その際、毎回、「折り合えないから裁判所に決めてもらおう!」となると、今の裁判所の人的な資源の限界などの問題もあり、判断までに相当の時間がかかることが想定されます。

例えば、裁判所が定めた内容が、子どもがまだ1歳だということをふまえ、「大学進学については、子どもの意見を最大限尊重し、当事者双方で協議する」程度であった場合、進学校に入学した子どもが大学進学を望んでいるものの、片方の親が反対しているという場合、話し合っても協議が調わず、そこから裁判所の判断を得ようとすると判決等が出るころには受験が終わっている可能性も十分あり得ます。これだと子どもも落ち着いて受験に向けた勉強ができないですよね…。

その上、子どもに関して双方の合意で決めなくてはいけないことが多数あれば、数年間、何らかの裁判を抱えている状態になりかねません。子どもが複数人であれば、さらに長期間紛争が続くでしょう。

とはいえ、前述のように「合意がないと単独親権のみ」では共同親権制度を作った意味がないですし、片方ないし双方に不満が残るとしても、現在のように全く何も認められないよりは実となる部分も多いとは思います。

そういう意味では、「元の木阿弥」にならないためにも、やはり養育計画書作成の段階で、双方が自分の気持ちや意見よりも、「子どもにとって何が良いか」という視点で考えられるかつ子どもの意見も相手の意見も尊重できるように意識変化できるかが大きなポイントになるでしょうし、それができれば合意による解決が多くなり、将来の紛争も減らせると思います。

必要なのは「子どもにとって何が良いか」という視点

多くの離婚相談を受ける経験から、「単独親権」によって難しくなる局面が、「共同親権」によってある程度解消されるのでは、といった個人的な視点での期待などはありますか。

繰り返しになりますが、日本においてどのような制度設計になるかがわからないと何とも言えない部分が多いです。

創設される「共同親権」制度の内容によっては、結果として現在裁判所で行われている紛争が形を変えるだけ、場合によっては紛争の種が増えることとなり、単独親権の欠点を補完することがほとんどできないかもしれません。

しかし、個人的な期待としては、共同親権についての議論が広く行われることにより、離婚する親側が、親権を自分たちの権利という側面ではなく、「子どものために」協力する、話し合いをする、「子どもの幸せ実現のために親権があるのだ」、「自分たちの紛争とは切り離して考えなくてはならないのだ」という側面からとらえ、そのような意識が向上することにつながれば良いなと思っています。

このように「親側の意識」が変わっていくことが一番大事だと考えています。離婚後も、真の意味で、「双方とも平等に子どもの親である」が実現するのが理想だと思いますので、結局、当事者たちの意識がどう変わるかが重要です。

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