「性加害報道」の伊東選手、佐野選手らアスリートが“現場復帰”も残る疑問… 3人「全員不起訴」の妥当性とは
伊東純也(仏リーグ=スタッド・ランス)、佐野海舟(独リーグ=マインツ)、杉山知靖(プロゴルファー)ら2024年になって不同意性交等の嫌疑について報道されたアスリートが、いずれも不起訴となった。伊東選手は一貫して容疑を否定、他の2人は逮捕されていた。
著名なアスリートとして、トップレベルで活躍する3人。そうしたこともあり、不確実な報道もみられた。
3人に関する一連の報道といま
伊東選手のケースでは、1月31日に準強制性交等致傷の疑いで刑事告訴されたと報じられた。日本代表戦に合わせたかのようなタイミングの週刊誌報道。これにより、伊東選手は代表を離脱。一貫して否定していたものの、その後、“復帰”まで約7か月を要した。
復帰戦となったアジア最終予選初戦の中国戦(9月5日=埼玉スタジアム)では1得点1アシストで、大きく活躍するとともに、7‐0の圧勝発進に貢献した。
佐野選手は7月に不同意性交の容疑で逮捕され、その後、容疑を「認めた」などの不確定報道もあったが、同月釈放。8月には不起訴となり、予定より遅れたものの、移籍が決まっていたドイツブンデスリーガのマインツへ無事合流。現在、レギュラーとして活躍している。
杉山選手は7月に不同意性交容疑で逮捕されたが、8月には不起訴と報じられた。杉山選手は国内男子の賞金ランキングで現在、獲得賞金1066万916円で38位につけている。
全員不起訴の妥当性
結果的に全員が不起訴となっているが、なぜ不起訴となっているのか。起訴・不起訴の判断について、刑事事件で豊富な実績のある荒木謙人弁護士に聞いた。
「令和5年版犯罪白書によれば、令和4年に検察庁において最終的に処理した人員のうち、起訴となったのは32.2%でした。実に67.8%は不起訴になっています」
不起訴の実状について、荒木弁護士はこう明かす。このことからは3人がともに不起訴だったことは特段珍しいことではないように思える。
ではなぜ、刑事事件における不起訴率はここまで高いのか。荒木弁護士が補足する。
「日本の刑事事件においては、有罪率が99.9%と言われているように、検察としては、裁判で有罪の判断が確実に下されると考えなければ起訴していません。そのため、このような数字もありうると考えられます」
つまり、検察も被疑者の今後の人生を左右する起訴・不起訴については、慎重に判断しているということだ。
強制・不同意性交ゆえの特殊性はあるのか
そうなると気になるのは、強制・不同意性交に関連する犯罪の特殊性だ。多くのケースで被害者側の証言が発覚の発端となっており、とくに著名人が絡む場合は報道が先行しがちで、スキャンダラスな側面がクローズアップされる。
荒木弁護士は被害者の証言について次のように解説する。
「性犯罪では多くの場合、密室での出来事であるため、客観的な証拠が少ないケースが多いです。そのため、強制・不同意であったかどうかについては、基本的には被害を訴えている女性の供述をベースに考えられることになります。
その結果、もちろん嫌疑不十分のケースもあると思いますが、一般的には、被害を訴えている方と示談が成立したことによって起訴猶予となり、不起訴処分になっているケースが多いと思います」
著名で、金銭的余裕もある男性プロアスリートと、性的被害を受けた可能性のある女性。この構図の時点で、アスリート側は事件を表に出されたくない心理が働くだろう。週刊誌にとっては、女性側からタレコミがあれば、すぐにでも報道したくなる事件だ。
「被害女性が告白!○○選手に性加害疑惑」「○○選手が性加害問題で書類送検」などと報じられると、事情を知らない読者は、○○選手がまるで犯罪を行ったかのように受けとっても不思議はない。
多くの場合、著名人の事件は報道先行となる影響もあり、疑惑がまとわりつくことになる。加えて、性加害報道は、不確実な情報でも外部に漏れ“クロ”とみられやすくなっていると考えられる。
「無罪推定の原則」と問われるマスコミの報道姿勢
荒木弁護士が解説する。
「刑事事件では、裁判で有罪判決が確定するまでは、被疑者や被告人について罪を犯していない人として扱わなければならない“”無罪推定の原則”があります。逮捕や書類送検によって、あたかも有罪であるかのような心象を抱かせる報道は、よくないと考えられます」
伊東選手のケースでは、自身は終始一貫して事実無根を主張していた。にもかかわらず、国内ではサッカー日本代表から外され、書類送検について大きく報じるメディアもあった。裁判で有罪判決が確定したわけではない以上、本来であれば、無罪を前提として報道するべきであったといえる。
では不起訴処分となったことが判明した時点で、報道機関はどのようにして事件を報道すべきであろうか。
「逮捕や告訴状受理といった事実が報道され、国民が関心を持っている以上、不起訴処分となった事実についても報道されるべきです。
しかし、実際には強制・不同意での性行為がであった場合には、被害者の方がいる以上、被害者のプライバシーに配慮する必要があります。事件の詳細が世間に広まらないようにするためにも、過剰に報道することは避けるべきだと思います」
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
「驚きや混乱等で体が動かなかった」不同意性交罪の認知件数が急増 「同意・不同意」認識の不一致を誘発する忌まわしき“神話”とは
2024年11月19日 10:20
-
女児7人“わいせつ”元保育士に懲役14年判決 「悪質性が顕著」「処罰感情は至極当然」裁判長が強い口調で告げる
2024年11月15日 10:09
-
30代男が「小6女子」になりすまし“わいせつ画像”送らせる…ネット上で起きた未成年の性被害、警視庁が明かす卑劣な手口
2024年11月14日 10:57