兵庫県斎藤知事に県議会の全会派が「辞職申し入れ」… “不信任の議決”を避けたい「議員たちの思惑」とは?

弁護士JP編集部

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兵庫県斎藤知事に県議会の全会派が「辞職申し入れ」… “不信任の議決”を避けたい「議員たちの思惑」とは?
渦中の兵庫県庁(まきたまる/PIXTA)

県職員への「パワハラ疑惑」の渦中にある兵庫県の斎藤元彦知事に対し、9日午後、県議会で知事与党と目される「維新の会」が辞職の申し入れを行った。その他の4会派もすでに、12日に斎藤知事に対し辞職の申し入れを行うことを決定している。9月19日に開会する県議会の定例会初日を待たず、なぜ、このタイミングで申し入れを行うのか。この先、知事が辞職しなかった場合、県政の運営にどのような影響を与えるのか。

なぜ県議会開会直前のタイミングでの「辞職の申し入れ」なのか?

もし県議会で不信任決議案が提出された場合、現状、県議会の定員は86名なので、全員出席したとすると、仮に維新の会(21議席)が反対しても4分の3以上(議長を除く64名以上)の賛成多数で可決される可能性がある(地方自治法178条1項・3項前段参照)。

兵庫県議会の各会派にとって、9月19日の本会議開会まで待たずに議会の外で辞職要請を行う意味はどこにあるのか。

維新の会については、先の県知事選挙で斎藤氏を支持した手前、議場での不信任の議決に至り「踏み絵」を踏まされるのを避けたいという思惑が見え隠れする。しかし、他の会派はなぜか。東京都国分寺市議会議員を3期10年務めた三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に聞いた。

三葛弁護士:「議員の立場としては、なるべく首長の不信任の議決を避けたいという思惑がはたらきます。

なぜなら、『武士の情け』『公開の場で辱めを受けさせない』といった配慮もありますが、首長が不信任決議に対抗して議会を解散する可能性があることによります。

その場合、県議会議員選挙が行われることになりますが、その選挙は選挙費用がかかることに加え、議決した自分自身が落選してしまうリスクがあります。

議員にはそれぞれ、取り組んでいる政策課題があります。任期まで務め上げることを前提に、志を持って活動してきたのに、首長の不祥事が原因で、任期満了を待たずに道半ばで議員を辞めなければならないリスクを負うのは、好ましい事態ではありません。

選挙が4年に1回行われることを前提として人生設計をしている議員も、少なくはありません」

議会が首長の不信任の議決を行うことは、同時に、議会を構成する議員も任期を全うできないリスクを負うことを意味する。だからこそ、首長への「武士の情け」のような配慮もあいまって、首長の側から自発的に辞職してくれることが望ましい、ということになる。

知事が議会を解散した場合、県議会議員の選挙が行われる(写真はイメージ。初心者太郎/PIXTA)

知事が「辞職しなかった場合」の“2つのシナリオ”

議会側の申し入れに従って知事が辞職すれば、新しい知事を選ぶことになる。あるいは、議会が9月19日開会の定例会で不信任の議決を行い、知事がそれに従って失職する場合も同様である。

では、知事があくまでも辞職を拒んで続投しようとした場合、どのような展開が考えられるか。シナリオは2パターンに分かれる。

第一のパターンは、議会が不信任の議決を行い、それに対し、知事が議会を解散した場合である。

選挙の結果、知事に反対する議員が過半数を占めた場合、議会は再度の不信任の決議を行うことが考えられる。再度の議決については決議要件が緩和されており、出席数の2分の1で成立する。この場合、知事は失職することになっている(地方自治法178条2項・3項後段参照)。

問題は第二のパターン、つまり、議会が知事に対し「辞職の申し入れ」ないしは「辞職勧告決議」を行うにとどめ、不信任案の議決を行わなかった場合である。

三葛弁護士:「その場合、知事は『レームダック』と化し、県政の運営はきわめて困難かつ不安定になることが想定されます。

たとえば、予算案を通すには、議員の過半数の賛成を得なければなりません(地方自治法211条、116条)。

知事が独自の政策を実現しようとしても、その政策的経費が認められる可能性は極めて低く、ほぼ絶望的かもしれません。

市議会議員を務めた経験から、肌感覚として、議会が不信任案決議をしようと思えば可能な状態、つまり議会で首長の味方をしてくれる(少なくとも不信任案に反対する)議員が4分の1より少ないというのは、首長にとって相当に切羽詰まって苦しい状態です。

ましてや、現状、知事は与党と目される会派も含め、すべての会派から辞職を要求されています。

それでも知事が留任しようとすると、県政の著しい停滞を招くのは避けられないでしょう。改めて県議会が不信任の議決へと動く可能性があります。

そして、事実上は、『死に体』となった知事に対し、『猫の首に鈴を付けるのが誰か』、つまり誰が引導を渡すのか、ということが注目ポイントとなります。

また、住民からの解職請求(リコール)の動きが出てくる可能性も考えられます。」

【図表】首長が住民投票で解職された事例(2000年代・事由不問。弁護士JP編集部調べ)

斎藤知事は、想定されるこれらのシナリオを前提として、県議会定例会初日の9月19日までに自身の進退について最終的にどのような判断を行うのか。注目される。

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