「ごみ屋敷問題」実態調査で浮き彫りになった影…なぜごみが住居を埋め尽くすのか? 円滑な解決策への一歩

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「ごみ屋敷問題」実態調査で浮き彫りになった影…なぜごみが住居を埋め尽くすのか? 円滑な解決策への一歩
ごみに埋もれた屋敷が内包する問題は複雑だ(花火 / PIXTA)

室内や室外がごみに埋もれ、周囲に害を与える可能性がある「ごみ屋敷」。総務省は、こうした住居を調査し、全国の181事例を8月末に発表した。

日本の法令では、「ごみ屋敷」という用語が使われている例はない。

同調査では、ごみ屋敷を次のように定義している。

「建築物(現に居住の用に供されているものに限る。)及びその敷地又は集合住宅における戸別専有部分若しくはベランダや共有部分に、物品が堆積又は放置されることに起因して、悪臭、ねずみ・害虫の発生、火災や地震時のごみの崩落のおそれ、ごみのはみ出しによる通行上の支障、家屋の倒壊など周辺住民や居住者本人の生活環境が損なわれているもの」

データからみるごみ屋敷の特徴

では、ごみ屋敷と認識された住居とは具体的にどのようなものだったのか。まず、「ごみ屋敷」になり果てた家屋にはどんな形態が多いのだろう。

データから持ち家・戸建てが多いことがわかる(総務省HPより)

調査によると、戸建て住宅が69.6%(126件)、集合住宅が30.4%(55件)。持ち家、賃貸の割合は、持ち家104件(57.5%)、民間賃貸住宅53件(29.3%)、公営住宅15件(8.3%)だった。

次に、ごみの堆積場所は、戸建て住宅では「家屋の外の敷地内」までが73件(57.9%)、集合住宅では「家屋内のみ」42件(76.4%)、「敷地外」13件(23.6%)となっている。

これらデータからわかることは、ごみ屋敷は「持ち家・戸建て」の割合が高く、かつ、それらではごみの堆積量も多いという実態だ。

なぜごみ屋敷になってしまうのか…

室内のある一か所にごみの塊がある程度なら、各自の都合やタイミング等で仕方がない側面もあるだろう。だが、居室の天井はおろか、ほぼすべての部屋、さらには家屋の外までごみで埋め尽くされてしまうのは一体なぜなのか。

調査では、より具体的な事例も紹介している。たとえば、4か月間、ごみ屋敷状態だった「借家戸建て住宅の単身世帯」のケースでは、室内外に家庭ごみ、ペットボトル、ペットの糞尿等が堆積。本人はごみの堆積を認識していたが、体調不良等を理由に撤去できない状態だったという。

また、1年間、屋外にもおよぶごみの堆積があった「持ち家戸建て住宅の親子二世帯」の事例では、居住者が堆積物の撤去指導を受けたが、「有価物」と主張して拒否。

さらに、2年間ごみの堆積が続いた「賃貸集合住宅の祖母、両親、子ども3人の6人世帯」のケースでは、1人が統合失調症、子どもは3人とも知的障害ありという状況だった。

居住者の状況

これらはほんの一例だが、居住者については単身世帯が107件(59.1%)、そのうち65歳以上の高齢者が58件(54.2%)。健康状態については、世帯のいずれかの居住者が健康面の課題を抱えるケースは約7割(124事例)。経済面の課題を抱える世帯は約4割(74事例)だった。

居室に堆積したごみの”内側”にあるこうした実状に鑑み、「ごみ屋敷条例」を制定する自治体のなかには、制定の理由として「いわゆる”ごみ屋敷”状態になる案件は、福祉的なサービスを必要とする方がほとんどであるため」などと説明しているところもある。

もしもごみ屋敷トラブルに巻き込まれたら…

実態を知るほどに、単に「迷惑だ!」とクレームを入れるのもはばかれるが、ごみの堆積状況によっては火災や害獣、崩壊等による被害を受けるリスクはある。もしも、近隣で「ごみ屋敷」トラブルが発生した場合、当事者としてどのように対処すればいいのか。

近隣トラブル関連に通じ、対応実績もある辻本弁護士に聞いた。

今回の総務省の調査では、ごみ屋敷の住人が明らかなごみを「有価物」と主張し、結果、解消に至らなかったケースが約3割(31事例)だったそうです。やはりこうした場合、たとえば行政が対応しても撤去は難しいのでしょうか。

辻󠄀本弁護士:環境省の通知における、廃棄物処理法に基づく廃棄物該当性の判断では、物の性状、排出の状況、通常の取扱いの形態、取引価値の有無、占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきとものとなっており、理屈上は撤去指導等の対応は可能です。ただ、廃棄物該当性の判断要素には「占有者の意思」も含まれており、当人が「有価物だ」と言い張れば、それに対して廃棄物として判断することは困難な面があり、個人の財産権を侵害するおそれもあることから、対応が難しいのが実状といえます。

条例の有無で対応に違いはあるのか

住んでいる地域に”ごみ屋敷条例”がある場合は対応してもらいやすくなるのでしょうか。

辻󠄀本弁護士:条例の内容にもよりますが、対象にあてはまれば、動いてもらいやすくはなるでしょう。たとえば、条例で居住者の状況の調査やごみ排出の支援、措置や罰則などを盛り込み、ごみ屋敷対策を推進できるようにしている自治体もあります。条例がなければハードルが高いアクションもありますから、対応は円滑になるでしょう。

住んでいる地域にごみ屋敷条例がない場合は、どうすればいいのでしょう。

辻󠄀本弁護士:条例がなくとも、対象は限定されますが、廃棄物処理法や悪臭防止法、道路交通法、消防法、建築基準法など、別の法律をあてはめて対応できるケースも考えられますので、まったくのお手上げかどうかはわかりません。ごみ屋敷の住人においては、福祉的なサポートが必要な場合も多いといいます。そうしたことも考慮し、自治体の環境や福祉関連の部署に相談してみるといいでしょう。

手を尽くしても、ごみが撤去されず、火災や害獣被害等を受けてしまった場合、住人に対し、損害賠償請求は可能でしょうか。

辻󠄀本弁護士:その被害と因果関係がある場合で、ごみ屋敷側に故意や過失が認められれば、損害賠償請求も考えられます。ただ、火災の場合は失火責任法によって「重大な過失がある場合を除き、火災で他人に損害を与えてしまっても損害賠償責任は負わない」といった内容となっていますので、見極めは簡単ではないでしょう。いずれにせよ、損害賠償請求も視野に入れるのであれば、プライバシーへの配慮は必要ですが、ごみの山積状況や害獣等の発生時に動画や写真を撮影して記録しておくといいかもしれません。

ごみ屋敷問題は、単に住人だけの責任ともいえない側面があると思います。地域住民が、この問題に備えるのはどんなことですか。

辻󠄀本弁護士:地域での孤立が原因と考えられるなら、たとえば自治会や町内会で協力して見守り、見回りをする。ただ、住人がそれを受け入れるかは別問題ですので、難しいようであれば、行政に相談し、ごみの撤去をサポートしてもらうよう働きかけることが重要だと思います。

要介護や精神疾患など、住人が心身の事情でコミュニケーションをとるのが難しいケースも考えられます。そうした場合で住人が行政からのサポートを受けていないようであれば、行政とつないであげるというのも、ごみ屋敷の住人はもちろん、地域全体のことを考えてもプラスになるのではないでしょうか。

取材協力弁護士

辻󠄀本 奈保 弁護士

辻󠄀本 奈保 弁護士

所属: 辻󠄀本奈保法律事務所

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア