「自由診療は野放しになっている」 “ネット広告”が「優良誤認表示」に該当するとして、消費者団体が医療クリニックに差し止め請求
9月10日、NPO法人「消費者機構日本」は、医療社団法人「サカイクリニック62」によるインターネット上の医療広告が「優良誤認表示」に該当するとして、同クリニックに対する差し止め請求訴訟を提起した。
公式サイトやSNSの広告が「優良誤認」に該当すると訴え
消費者機構日本は、内閣府により消費者契約法に基づく「適格消費者団体」の認定、および消費者裁判特例法に基づく「特定適格消費者団体」の認定を受けた特定非営利活動法人。事業者による「不当な勧誘」や「不当な表示」などを止めるように求める差し止め請求や、多数の消費者に共通して生じた財産的被害について被害回復裁判手続を行う適格性を有すると認められている。
サカイクリニック62は渋谷区・道玄坂にある自由診療クリニック。主に歯科医療や美容皮膚科、美容外科や再生医療・免疫療法などの分野を診療している。また、エイジングケアグッズ(サプリメント・化粧品など)の販売も行っている。
今回の訴訟は、サカイクリニック62の公式サイト上の「再生医療・免疫療法」および「治療案内」のうち、「マクロファージ活性化療法」や「エクソソーム点滴療法」など8種類の項目に関する医療広告が景品表示法に基づく「優良誤認表示」(商品の品質や性能などについて事実と異なる公庫表示を行うこと)に該当するとして、差し止めを求めるもの。
なお、公式サイトのほか、同クリニックのInstagramやYouTube、X(旧Twitter)などに表示される広告も差し止め請求の対象とされている。
エビデンスのない自由診療は「患者の利益に反する」
提訴後に開かれた記者会見で、原告代理人の宮城朗弁護士は「医療機関による医療広告について、治療法の効能や安全性の表示が優良誤認に該当することを根拠に、適格消費者団体が差し止め請求を行う訴訟は、日本で初めて」と、訴訟の意義を語った。
「本来、優良誤認表示を行った事業者に対しては、消費者庁や都道府県が措置命令を下し表示を停止させることができる。
しかし、医療広告の優良誤認表示について措置命令が下された事例は、現時点において1件も確認できない」(宮城弁護士)
一般的に、保険診療を行う医療機関では、各専門分野の診療ガイドラインに基づき、確立した医学的知見が存在する治療法や、適切な審査・承認手続きを経た医薬品・医療機器を使用する「標準治療」が実施されている。
一方で、自由診療を行う医療機関で実施される治療には、必ずしもエビデンスが存在しない。また、保険診療に比べて自由診療はかなり高額な価格で提供されている。
原告が提訴した背景には、「このような状況は一般の患者(消費者)の利益に反する」との問題意識があるという。
「医療機関による治療は、単なる財産的被害にとどまらず、患者の生命と健康に直結する問題なので、重大と捉えている。
また、医療広告にはガイドラインが一応は存在するが、自由診療の規制は他の業界に比べると非常に緩い。行政として監督・規制すべき問題であるはずだが、実際には、自由診療はほとんど野放しの状況となっている。
今回の訴訟には、この問題を社会問題として提起し、本来あるべき行政の取り組みを引き出すという狙いもある」(宮城弁護士)
多数の医療機関が「優良誤認表示」を行っている
4月上旬、消費者機構日本は、治療法に関する医学的な疑問点について質問書をサカイクリニック62に提出。クリニックからは「直ちに、問題となっている広告を停止する」との回答があった。
しかし、1〜2か月経過しても広告は表示されたままであった。機構が再度問い合わせたところ、クリニックは「来年あたりに改訂する予定」と返答。
機構は5月と6月にかけて正式に広告の停止を求めたが、クリニックは「来年に改定する」との返答を繰り返した。
機構はクリニックの対応を「時間稼ぎであり、差し止めに応じる意図はない」と判断して、消費者契約法に基づき「1週間以内に削除しなければ提訴する」と予告書面を送付。クリニックからは「顧問弁護士と相談しながら修正を進めている」という旨の返答があったが、具体的な修正時期は示されなかったため、提訴に至った。
なお、訴訟中にクリニックが広告を修正すれば、和解で解決する可能性もあるという。
基本的に、適格消費者団体は、実際に起こった被害の相談を受けてからでないと事業者に対する訴訟の提起などができない。今回は、財産的被害の訴えが消費者からあったために、サカイクリニック62が訴訟の対象となった。
「医療広告の優良誤認表示を行っている医療機関は、ほかにも多数存在する。いずれも非常に問題がある。
今回の訴訟は、あくまで『手始め』。今後、機会があれば、他の医療機関についても取り組んでいきたい」(宮城弁護士)
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