パチンコ業界が独自に取り組む「社会貢献」 熱中症予防“クーリングシェルター”利用は進むか?
9月に入ったが、まだまだ暑い日が続く見込みだ。
気象庁が8月20日に発表した3か月予報では、9月と10月は全国的に、平年よりも気温が高くなる見通しだ。
また、消防庁がまとめたデータによれば、昨年9月は全国で9193人が熱中症により緊急搬送されており、今年もまだ油断は禁物だろう。
東京タワーなど「クーリングシェルター」に指定
今年4月から施行された「改正気候変動適応法」では、熱中症対策強化のため「熱中症“特別”警戒アラート」が新設された。これは既存の熱中症警戒アラートより1段階上で、より重大な被害が生じるおそれのあるときに発表されるアラートだ。
熱中症特別警戒アラートが発表された場合には、市区町村長が事前に指定した、避暑のための施設を「クーリングシェルター」として一般に開放することが定められている。
クーリングシェルターの指定対象は、公民館や図書館などの公共施設だけではなく、薬局やショッピングセンターといった民間施設も含まれる。たとえば東京都港区では「東京タワー」もクーリングシェルターに指定されている。
環境省熱中症対策室の担当者によれば、全国で公共施設と民間施設、合わせて少なくとも1万1000の施設がクーリングシェルターとして指定を受けており、現在もその数は増加しているという。
なぜ? パチンコホールで独自の取り組み
各自治体でクーリングシェルター指定の動きが広まる中で、独自の取り組みを行っているのがパチンコ業界だ。
パチンコホールの全国組織である全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)は、今年7月、組合員ホールに対し「酷暑避難場所」を設置する取り組みへの協力を依頼した。
「全国的に記録的な猛暑が続いているなか、社会貢献活動の一環として、市民の方々に冷房の効いた空間で涼んでいただけるよう全国のホールに場所の提供を呼びかけました」(全日遊連)
パチンコ業界が独自で「酷暑避難場所」の取り組みを実施している背景には、早急に酷暑対策に協力したいという思いがあった。
「暑い日でも電気代が気になるなどの理由からエアコンを使わない高齢者も多く、熱中症で亡くなられる方も出ています。こうした現状に問題意識がありましたが、クーリングシェルターとして指定を受けるためには、市区町村に申請し、協定を結ぶ必要があります。
このような手続きを進めているうちに夏が終わってしまう可能性があることや、クーリングシェルターを設置している自治体が、7月1日時点で全自治体の4割にとどまっていたとの報道もあり、独自の取り組みを開始することにしました。
現時点では取り組みを開始したばかりで、実施している店舗数などはわれわれも把握できていませんが、協力ホールに対しては、ポスターやSNS等を通じて広報するようお願いしています」(全日遊連)
「要請受け協力」実際の店舗の様子は…?
実際に「酷暑避難場所」の取り組みに協力している店舗のひとつ、東京都葛飾区のダイナム金町南口店を訪れた。同店HPには全日遊連が作成した「暑い日はお気軽に涼みに来てください!」と書かれたポスターが掲載されている。
店内は涼しく、また禁煙(喫煙スペースあり。一部フロアは加熱式との分煙)となっており、トイレや荷物の置けるロッカーなども整備されていて、暑さをしのぐための環境が整えられていた。
また、パチンコホールといえば、騒音が気になる人も居るかもしれないが、店内で広報担当者に取材をしていても、相手の声が聞き取れる環境だった。
ダイナムの広報担当者は、「酷暑避難場所」としての施設の提供について、「店舗の負担が増えたり、お客さまへのご迷惑となることはないと判断して、全日遊連の要請を受けて協力する流れとなりました」と説明する。
では実際に、「酷暑避難場所」として利用している人はどの程度いるのか。
同担当者は「涼みに来られた方か、遊技をしにきたお客さまかを区別することはなかなか難しい」とした上で、「お客さまから『涼みに来た』という声を聞くこともありますし、休憩スペースのある店舗では、実際に涼まれている方の姿を見かけることもあります」と語った。
パチンコ業界への「制限なし」だが課題も…
施設の整備が整っているように見えるが、多くのホールでクーリングシェルターの指定が進まない背景には、どのような事情があるのだろうか
環境省は自治体に向けた手引きの中で、クーリングシェルターを指定する際に、施設が満たすべき必要最低限の条件を公開している。
「適当な冷房設備を有する」「当該施設の存する区域に係る熱中症特別警戒情報が発表されたときは、当該施設を住民その他の者に開放することができる」、「住民その他の者の滞在のために供すべき部分について、必要かつ適切な空間を確保する」ことなどが挙げられている。
クーリングシェルターの指定基準について、前出の熱中症対策室の担当者は「温度を何度以下に保つなど具体的な数値の条件は設けてない」としつつ、次のように説明した。
「環境省としては、特定の業界・業種はクーリングシェルターとして指定してはならないといったことは示していません。パチンコホールをクーリングシェルターに指定するかどうかは各自治体の判断になるかと思います。
自治体側からも『パチンコホールや競馬場といった施設を指定してもよいか』という問い合わせがありましたが、『環境省としては制限していない』と伝えました。
ただ同時に、パチンコホールや競馬場、あるいは一部の老人ホームなどにも該当しますが、そもそも施設に入場できる年齢に制限がある場合、家族など年齢差のあるグループが涼みに訪れた場合にどう対応するのかについては、自治体と施設で事前に考えてほしいとも伝えました」
実際、愛知県でパチンコホールを運営する有楽グループでは、一部の店舗が全国のパチンコホールとしては初めて、クーリングシェルターとして指定を受けたが、18歳未満は原則利用できないとしている。
普段からトイレなど提供「遊技する方も、されない方も…」
自治体によるクーリングシェルターも、パチンコ業界独自の酷暑避難場所の設置も、今年から始まったばかりの施策だ。
前出のダイナム広報担当者は以下のように話した。
「来年どのような取り組みを実施するかは現段階では未定ですが、現状『酷暑避難場所』の取り組みとして行っている、空調の効いた、清潔で過ごしやすい空間の提供というのは、従来より店舗で実施していたことです。
トイレや喫煙所なども提供していますので、遊技する方はもちろん、普段ホールを利用されない方にも、休み場所として気軽にご利用いただければと思います」
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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