NHK“中国EC特集”が炎上 「宣伝だ」批判も…放送法は“広告放送”を禁止 局側の「制作意図」とは?

弁護士JP編集部

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NHK“中国EC特集”が炎上 「宣伝だ」批判も…放送法は“広告放送”を禁止 局側の「制作意図」とは?
受信料を支払う国民から厳しい視線が向けられている(弁護士JP編集部)

先月26日、NHKの朝のニュース番組「NHK NEWS おはよう日本」内で中国発の越境EC「Temu」「SHEIN」が紹介された。

これを受けて、SNSでは「激推し」「大絶賛」「宣伝してる」など“炎上”状態に。折しも、両サイトで販売された商品から発がん性物質が検出されたり、NHKの国際ラジオ放送を担当していた中国籍の外部スタッフが原稿と異なる発言をするなど、“火種”がくすぶっている中での放送だったことも、視聴者を敏感にしたのかもしれない。

昭和の名曲も“歌詞変更”の「広告禁止ルール」

そもそも、NHKでは放送法第83条に基づき「広告放送」が禁止されており、放送やインターネット業務が「宣伝・広告」とならないよう、同局は細心の注意を払っている。

たとえば、歌手の山口百恵さんがNHKの歌番組で、大ヒット曲『プレイバックPart2』の歌詞に出てくる「真紅なポルシェ」を「真紅なクルマ」と言い換えたというエピソードはあまりにも有名だろう(ちなみに紅白歌合戦で「クルマ」と歌ったというのは誤りで、当初出演したNHKの歌番組では「クルマ」、後に出場した紅白歌合戦では「ポルシェ」と歌われている)。

e-Gov 法令検索「放送法」より

では、NHKにおける「広告放送」の基準はどうなっているのだろうか。同局が公表する放送ガイドライン(NHK放送ガイドライン2020改訂版 インターネットガイドライン統合版)を参照すると、「企業名や営業上の商品名・サービス名・ロゴマークなど(以下「企業名など」とする)を放送できるのは、番組編集上必要で、広告目的ではない場合である」「インターネット業務においても、他人の営業についての広告は行ってはならない。 また、NHKが特定の商品などを推奨したり広告活動を行ったりしているとの誤認を生じさせたりしないよう注意する」とある。

そして、企業名を使う場合は以下のような点を判断の基準にするとしている。

  • 本質的に必要なのか、その他の表現に置き換えることはできないのか
  • 視聴者の理解を助けることになるか
  • ライバル企業などから見て、著しく不公平でないか
  • 構成や演出上やむを得ないか

さらにこれを踏まえた上で、「企業名などの出し方や出す回数を工夫するなど、宣伝・広告と受け取られることのないようにする」とされている。たしかに今回話題となった特集でも、アナウンサーがサービス名を発したのは冒頭のみだった。

ガイドラインでは他にも、テーマパークや観光施設、テレビCMなどのキャッチコピー、登録商標の呼称、命名権のついたスポーツ施設などをどのように扱うべきか、ルールが細かく設定されている。

「宣伝だ」批判に対するNHKの見解は…

上記の基準に照らせば、そもそも特定企業の特集をするのはありなのか、という疑問が出てくるかもしれない。ただし同局には「プロジェクトX〜挑戦者たち」(現在は「新プロジェクトX〜挑戦者たち」として毎週土曜19時30分~放送)など、ひとつの企業の復活劇や商品開発の裏側に迫る番組もある。

特定企業を特集する際、広告・宣伝とならないよう、どのようなポイントに気をつけているか。また今回の特集について、一部視聴者から「宣伝だ」などの批判があることについて、NHKではどのように受け止めているのか。編集部が広報局に尋ねたところ、次の回答が得られた。

「NHKの放送ガイドラインでは、『特定の団体や企業、個人の利害に左右されず、不偏不党の立場で公平・公正な放送を行う』と明記しており、これに基づいた取材・制作を行うよう努めています。

今回のリポートは、中国発の越境ECが若い世代を中心に利用者を増やしている現状やその背景とともに、模倣品が販売され、安全基準が満たされていないといった指摘が出るなど、複数の課題があることを伝えるために制作・放送したものです」(NHK広報局)

SNSなどでは「問題点については最後に少し触れただけ」「特集の大半は絶賛する内容だった」といった批判もあった。実際の放送を見ると、たしかに約7分の放送の5分ほどは利用者の声やサービスの仕組み、残り2分ほどが各国における懸念に触れた内容となっている。

しかし、問題を深く理解するには、そのものの実態をきちんと知ることも重要だ。今回も、サービスを積極的に使う人が増えている事実や、利用拡大の背景を詳細に伝えることで、視聴者に問題提起する意図があったようにも考えられる。

受信料を基盤に運営されているNHKには、他の報道機関以上に国民の厳しい視線が向けられている。世の中の多様化が急速に進む今、公共放送として何をどのように伝えるべきか、難しい選択を迫られる機会が増えているのかもしれない。

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