「高齢者は労災のリスクが高い」 60代“測量士”山中での作業中に起こった労災事故の損害賠償を請求

弁護士JP編集部

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「高齢者は労災のリスクが高い」 60代“測量士”山中での作業中に起こった労災事故の損害賠償を請求
会見を開いた、原告の原田信二さん(左)(9月12日都内/弁護士JP編集部)

9月12日、高齢の建設労働者が測量作業中に起きた労災事故の損害賠償を求めて、元請企業と一次下請・二次下請企業に損害賠償を請求する訴訟が提起された(東京地裁)。

訴訟の概要

原告は68歳(事故当時66歳)の原田信二さん。測量士の資格を持っており、建設業界で40年働いてきた。

被告は、事故が起きた君津環境整備センター増設事業(千葉県)の元請企業である「株式会社竹中土木」(東京都)、および一次下請企業の「株式会社グラフィック」(長野県)、二次下請企業で原田さんの直接の雇用主であった「有限会社三和正測」(千葉県)。

本事故についてはすでに労災が認定、保険も給付されているため、原田さんが負った損害額のうち労災保険給付では補えない部分と慰謝料を、3社に請求する。

請求金額は合計で約540万円。内訳は休業損害や逸失利益、入通院慰謝料などである。

山中での測量作業中に転倒、物理的な対策は行われず

君津環境整備センター増設事業は、千葉県内の山間を開発し、廃棄物の最終保存場を作るための事業。原田さんは2022年4月から事業に関わり、同年5月から山中での測量作業を開始。具体的には、測量器具で測量しながら、目印となる地点に木杭を打つ作業を行っていた。

作業が行われた山の傾斜は激しく、山中での測量作業に危険性があることは、3社とも認識していたという。また、現場で使用されていた「作業指示・安全指示書及び現地KY(危険予測)記録表」にも転倒事故のリスクが記載されていた。

しかし、現場では「足元に注意すること」などと口頭で注意喚起がなされるのみであり、作業員にスパイク付きの靴や背負子(しょいこ)を提供するなど、転倒事故リスクへの物理的な対策は十分に行われていなかった。

7月21日、測量器具(プリズム付きピンボール)と木杭を持っていた原田さんは、両手がふさがった状態のまま山の斜面を上がっていく最中にバランスを崩し、転倒しそうになったため左脚で踏ん張った際に、左大腿顆骨挫傷のケガを負った。

事故後、会社から適切な対応を受けていないと考えた原田さんは労働組合「総合サポートユニオン」および「労災ユニオン」に加入し、3社に対し団体交渉を申し込み、賠償を求めた。しかし、交渉は行われたが、3社は賠償要求に応じなかったため、訴訟に至った。

「3社ともに安全配慮義務違反」

提訴後に行われた会見で、原告側の伊藤安奈弁護士は、本件の法的問題点を2つ指摘した。

(1)転倒リスクについて口頭での注意などの主観的な対策にとどまり、適切な安全器具の提供など客観的な対策をしなかったことによる、安全配慮義務違反。

(2)労働安全衛生法62条や厚労省の「エイジフレンドリーガイドライン」では、中高年齢労働者の身体機能の低下などに応じて、必要な対策をとることを使用者に求めている。しかし、原田さんの年齢を考慮した安全対策は行われなかった。

また、安全配慮義務違反は、直接の雇用関係にある使用者(原田さんの場合は二次下請)のみならず、元請企業にも認められる場合がある。原告側は、本件では元請・一次下請にも違反があると考えて、両社を訴訟の対象に含めた。

原田さんは、事故時の状況や事故後における会社の対応について語った。

「事故後に会社側と相談すると、ロープや背負子を提供して、人員を増やすなど、再発防止策を検討するとの返答があった。

しかし、実際には滑り止め付きの長靴が提供されるだけだった。人員は、以前よりも減らされた。

現場は厳しい斜面だったが、作業員への適切な指導はされなかった。3社は、安全配慮義務を怠っていたと言わざるを得ない」(原田さん)

敬老の日(9月16日)に「高齢者労災・無料相談ホットライン」を開催

会見には総合サポートユニオンの池田一慶執行委員も参加し、高齢者の労災問題について説明した。

今年5月に厚労省が公表した統計によると、2023年における労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合は29.3%。同年の雇用者全体に占める60歳以上の高齢者の割合は18.7%であったため、高齢者はとくに労災のリスクが高いことがうかがえる。

また、60歳以上の男女別の労働災害発生率を30代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍。労災による休業見込み期間も、年齢が上がるにしたがって長期間となる。

近年では、生計を立てるために労働を続ける必要のある高齢者が多数いる。しかし、高齢者は雇用先や転職先を見つけることが難しいために、職場内での立場が弱くなり、労災などの被害に遭っても使用者に対して権利を主張しづらいという問題がある。

「今回の訴訟で、二次下請の立場である原田さんが一次下請や元請の企業にも損害賠償を求めることは、きわめて意義が大きい」(池田氏)

総合サポートユニオンは、「敬老の日」である9月16日(月)の17時〜21時に「高齢者労災・無料相談ホットライン」を開催する。電話番号は0120-333-774。

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