虐待、出所、「ヤクザに追われ…」 “帰る場所がない”若者たち 「ニーズがあるのは分かっていても…」支援団体が抱えるジレンマ

倉本 菜生

倉本 菜生

虐待、出所、「ヤクザに追われ…」 “帰る場所がない”若者たち 「ニーズがあるのは分かっていても…」支援団体が抱えるジレンマ
NPO法人「チェンジングライフ」理事長の野田詠氏さん(撮影:倉本菜生)

親からの虐待、児童養護施設の退所、少年院の退院や刑務所からの出所。さまざまな理由で帰る家がなく、社会から孤立している若者たちがいる。

大阪府東大阪市に拠点を置く「チェンジングライフ」は、行き場を失った若者に住居を提供し、生活の立て直しをサポートするNPO法人だ。受け入れる若者の中には、あちこちの支援団体や里親から「手に負えない」と投げ出された子どもや、法制度の網から漏れた者も多いという。

若者支援の実態と課題について、理事長の野田詠氏(えいじ)さんに聞いた。

少年院や刑務所を出て「帰る家」がない

大阪府の東側に位置し、のどかな下町の風景が広がる東大阪市。ここで若者のサポートを行う野田さんは、かつて暴走族幹部として少年院に入院した過去を持つ、キリスト教の牧師だ。少年院在院中にキリスト教の教えと出会い、生き方を変えようと決意。2000年から矯正施設を出所した若者の居場所づくり活動をスタートし、2011年にチェンジングライフを立ち上げた。

現在支援している若者たちについて、大きく4つのタイプに分類されると野田さんは話す。

「まずは、少年院や刑務所から出てきたものの身元引受人がいない人たちです。保護観察所からの依頼にもとづき、『自立準備ホーム』という施設で引き受けています。観察所からの委託期間は長くて6か月。その間に、安定した仕事や住居を確保できるようサポートしています。ただ、半年では自立が難しい場合も多く、私的契約に切り替えて自活できるようになるまでホームに住み続ける子もいます」

少年院は引受人がいなければ仮退院することができない。引受人がいなくとも20歳になれば満齢退院となるが、行くあてのない者は路頭に迷うことになる。刑務所の場合、身元引受人がいなければ仮釈放が認められず、刑期満了で出所しても帰住先がない人は再犯に走るケースが多い。

実際に野田さんも「帰住先のない子たちの再犯率は高い」と実感しているといい、「生活基盤となる“住居”の確保は社会復帰に不可欠だ」と話す。

「次に、虐待やネグレクトなどが原因で家庭にいられない子や、児童自立支援施設の出身者がいます。この子たちは児童相談所からの委託により、『自立援助ホーム』で引き受けています。中には保護観察中の子や、不良行為を繰り返したり他の施設で職員に暴行を働いたりして、施設側が持て余してきた子たちも多いです。児童福祉の領域での支援で施設の入所定員が6名のため、入所待ちが常に発生しています」

「ヤクザに追われていて…」支援制度の網から漏れた若者たち

また、入所定員をはじめ、さまざまな制度上の都合により公的支援を受けられない若者たちもいる。

そんな彼らを救う最後の砦が「民間シェルター」だ。民間シェルターは通常、「緊急一時的に避難」が必要な人を対象としている。チェンジングライフでは、児童福祉法上、一時保護の対象にならない18歳以上の若者でも避難できるシェルターを、寄付金や助成金などにより“ぎりぎりのところで”運営している。これまで約50人が利用してきたという。

「定員により自立援助ホームに入所できない子や、年齢や状況などを理由に公的制度を使えない子たちを、任意保護という形で受け入れています。最近だと、少年院退院から1年経っていて保護観察が終了している20歳の若者を入所させました。『ヤクザに追われていて行き場がない。帰れる家がないんです』と言っていましたね……」

さらに、チェンジングライフでは児童養護施設の出身者で、大学や専門学校に進学した子たちに向けた「夏休みの居場所支援」も行っているという。

「過去に、児童養護施設を退所して進学先の寮に入ったものの、夏休みなど大型休暇中は寮が閉まるため帰る家がないという子がいたんです。『どうしたらいいの』と相談を受けたことがきっかけで、学生向けの居場所支援も行うようになりました」

定員は2名と限られているが、家賃や光熱費は無料。赤い羽根福祉基金の助成金により昨年度から提供を始め、これまで2名の学生が利用した。「ニーズがあるのは分かっていても、当事者にアウトリーチするのが難しい」と野田さんは語る。

「せっかく頑張って進学した子たちだから、『長期休みで寮にいられない』と言うのなら、『うちにおいで』と助けてあげたい。ただ人的リソースの問題で、こちらからアプローチしていく余裕がないのも事実です。一緒に子どもたちに寄り添ってくれる人材が足りていません。それは若者支援を行う上での切実な課題です」

トー横、グリ下…子ども型シェルターの構想も進む

制度の壁に人材不足、資金難。民間団体が抱える課題は多い。さらには、東京・歌舞伎町の“トー横”や大阪・ミナミ(道頓堀)の“グリ下”など、居場所を求めて繁華街に集まり犯罪に巻き込まれる若者たちにも支援が必要とされている。

そうした課題に対し、解決策のひとつとして検討されているのが、内閣府の「子ども家庭庁」による「子ども・若者シェルター」の設立だ。都道府県や児童相談所を設置する市が主体となり、社会福祉法人やNPOに運営を委託。さまざまな理由で家庭に居場所がない若者を保護し、委託運営する民間団体には、1か所あたり1758万円の補助金が下りるとされている。

野田さんは現在、「子ども・若者シェルターに関する検討会」の委員を務めているが、「ただシェルターを作るだけでは不十分」だと語る。

「当事者が『現状から抜け出したい』と考えていなければ、支援の手を伸ばしても拒否されてしまいます。シェルターがただのホテル代わりにならないよう、行き場がない子ども・若者の危険を回避する場所としての機能だけでなく、緊急避難後に『人生を立て直したい』と思っている子たちの“その後”を長い目で見守り、支えられる関係づくりが鍵となります」

保護施設を作るだけでは解決しない若者支援の現状。改善していくために、より多角的な方策が求められている。

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