「もう耐えられない」 訪問介護の報酬引き下げで“約7割”の事業者「経営悪化」 “サービス提供できなくなる” 医労連が危機感

弁護士JP編集部

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「もう耐えられない」 訪問介護の報酬引き下げで“約7割”の事業者「経営悪化」 “サービス提供できなくなる” 医労連が危機感
訪問介護報酬の引き上げを訴える、東京医労連の松﨑美和書記次長(中央)ら(9月12日 霞が関/弁護士JP編集部)

日本医療労働組合連合会(医労連)は9月12日、東京・霞が関で会見を開き、国の制度改定による訪問介護の介護報酬引き下げについて、事業者の経営悪化や新規職員の採用控えなどの影響が出ているとする独自の調査結果を公表した。

業界全体では報酬引き上げも、訪問介護は2〜3%程度“引き下げ”

政府は2024年度の介護報酬改訂で、介護業界全体で1.59%の報酬引き上げを実現した。

しかし、訪問介護の分野では、厚労省による「介護事業経営実態調査」の2022年度決算が7.8%の黒字であったことなどを理由に、2〜3%程度の基礎報酬の引き下げが行われていた。

これを受け、医労連は訪問介護事業所を対象にしたアンケートを実施。基本報酬の引き下げによって、訪問介護の現場では何が起きているのか、労働者にはどのような影響が出ているのかを取りまとめ、公表した。

現場では94%が報酬引き下げに反対、76%が今後の経営悪化を懸念

アンケートには複数の都道府県の訪問介護事業所(182事業所)が回答。報酬引き下げへの賛否について「賛成」「反対」「どちらでもない」と選択式で尋ねたところ、94%にあたる171の事業者が「反対」と答えた。

残りの6%の事業者も「現状影響が確認されていない」「引き上げれば利用者負担につながる」といった理由で「どちらでもない」を選択。「賛成」と回答した事業者は0%であったという。

報酬引き下げによって、「(現時点で)事業所や職員にどのような影響が出ているのか」を複数回答可で問うた質問では、「経営の悪化」が68%、「新規職員の採用困難」が38%、「一時金(夏のボーナス)の減額」が27%だった。

また、報酬引き下げによって、「今後どのような影響が出ると考えられるか」と今後の不安を問う質問でも、「経営の悪化」「新規職員の採用困難」「一時金の減額」の項目がそれぞれ、76%、45%、36%という結果になった。

報酬引き上げ訴え…「実際の現場の様子を見て」

これらのアンケート結果を踏まえ、医労連の介護対策委員会事務局長を務める寺田雄氏は会見で「介護を必要とする“国民の生活”が本当に壊れてしまうかもしれない」と訴えた。

「このままの状態を放っておくと、地域から訪問介護がなくなったり、必要なサービスを、利用者に提供できない時間が増加したりするかもしれません。早急に訪問介護事業所の基本報酬引き上げを実現しなければならないと思っています」(寺田事務局長)

オンラインで会見に参加した出席者からも「過疎地域などでは訪問介護(事業者)のない自治体が増えていて、利用者がサービスを選べないどころか、そこにないという状況だ。こうした実際の現場の様子を見たうえで、報酬改定の見直しをしてほしい」といった意見があがった。

「一生懸命働いているが、もう耐えられない」

東京医労連の松﨑美和書記次長は、国に介護報酬引き下げの即時撤回を求め次のように訴えた。

「現場では、80代の方が働いているような事業所もあります。80代の人がなぜ働き続けているのかというと、ほかに人がいないからです。

訪問介護で働く人の中には、『自分が辞めてしまったら、目の前にいる利用者さんの訪問介護に来てくれる人が居なくなる。だから辞めたくても辞められないんだ』と言っている人もいます。

人手が足りない、働く人が定着しない、若い人が働けないといった環境の中で、報酬を引き下げた結果、さらに人員の削減が行われるといった影響も出ています」

また、医労連の原英彦副執行委員長は「今回の介護報酬改訂の影響で、事業者は『訪問介護を望む人に今後も提供し続けることができるのか』を悩むというところまで来ている」と、改めて厳しい現状についてコメントした。

「訪問介護で働いている人は、利用者のため、踏ん張って歯を食いしばって、一生懸命働いていますが、もう耐えられないというところまで、追い詰められている。今後も政府への要請や、アンケート調査などの運動を続けていきたい」(原副執行委員長)

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