防衛省と外務省の職員は「マイナ保険証」が“嫌い”?…自治体でもほとんど活用されず、会計検査院にも「ムダ」と烙印を押された理由とは
現行の保険証を廃止してマイナンバーカードに保険証の機能を統合する「マイナ保険証への一本化」が12月2日に迫っている。他方で、マイナ保険証の利用率は低調に推移しており、厚労省の発表によれば、8月時点で12.43%にとどまっている。
「哲学系ゆーちゅーばーじゅんちゃん」こと北畑淳也氏は、早くからマイナ保険証への一本化に関するさまざまな問題に着目し、YouTube等を通じた情報発信を行ってきた。
北畑氏は、マイナ保険証への一本化の背景にある「デジタル化」が本質からずれたイデオロギーに堕していること、税金を無駄遣いして既存の有用なしくみを壊すものであること、何の価値も生まない無駄な業務により膨大な時間が浪費されていること等を指摘する。
本連載では、上記の点について、北畑氏に、政府自身が公表しているデータをはじめ、信頼性のある資料をもとに語ってもらう。
第2回は、国家公務員のマイナ保険証の利用率が低く、とりわけ情報漏えい等のリスクに敏感なはずの「防衛省」「外務省」が最低であるという実態、地方自治体でマイナンバーカードないしはマイナンバーシステムが役に立っていないという実情等を紹介する。(全4回)
※この記事は北畑淳也氏の著書「マイナ保険証 6つの嘘」(せせらぎ出版)から一部抜粋・構成しています。
※【第1回】マイナ保険証の「メリット」は“真っ赤なウソ”だった?…“政府資料”が物語る医療現場での「役立たずな実態」とは
「不便さ」を物語る、国家公務員の利用率わずか“5.73%”(3月実績)
マイナ保険証がいかに使いにくいか、あるいは、いかに問題が多いかを物語るデータが2024年5月に厚生労働省から発表されました。
マイナ保険証の制度を普及する側の国家公務員の利用率が、わずか5.73%だったのです(2024年3月実績)。管轄する厚生労働省でさえ10%に届いていませんでした(厚生労働省第一共済組合が8.4%、同第二共済組合が4.88%)。
一般の人のマイナ保険証の利用率は2023年4月の6.3%をピークに下がり続け、2024年に入って少し上向いたとはいえ、3月の時点で5.47%にとどまっていました。
このこともマイナ保険証が受け入れられていない証拠ですが、厚生労働省の「国家公務員のマイナ保険証利用率」(3月時点)の発表がより深刻なのは、マイナ保険証を「作った側」、「普及を推進している側」の利用率だということです。
実は、すでに2024年2月4日付の朝日新聞のニュースで、2023年11月時点の国家公務員の利用率が報道されており、そのときは4.36%でした。私はこのニュースを見て、ひっくりかえりそうになりました。
いくらなんでも、国家公務員の利用率がこんなに低いなんて。
便利だったら、率先して使うはずですよね。それが4か月後の2024年3月になっても5.73%とほとんど使われていなかった。いかに必要とされていないかという証拠です。
その一方で、マイナ保険証をどんどん使ってくださいと呼びかけるのは無責任です。
いわば、自社の車に絶対乗らないという社員からその車を買いたくないのと同じ話です。
なお、その後、5月~7月に「マイナ保険証利用促進集中取組月間」が行われました。医療機関等に対して、マイナ保険証利用人数の増加量に応じ、最大10万円(病院は20万円)を一時金として支給するなど、大々的なキャンペーンが行われたのです。
しかし、それにもかかわらず、一般の人の利用率は8月の時点で12.43%にとどまっています。公務員の利用率がどこまで上がったのか。興味があります。
最もリスクに敏感なはずの「防衛省」が3.54%で最低…“イデオロギー”なんて関係ない
河野太郎デジタル担当大臣は以前、「健康保険証の廃止にイデオロギー的に反対する人は、いつまで経っても反対する」といった主旨の発言をしました。そのとき私は「イデオロギーは関係のない話だ」と思いましたが、この国家公務員の利用率からも、イデオロギーなんて関係ないことは明白です。「だからこそ深刻」なのです。
ちなみに、2024年3月時点の各省庁の利用率は次のようになっています。
・総務省:10.31%
・厚生労働省第一共済組合:8.4%
・厚生労働省第二共済組合:4.88%
・農林水産省:7.66%
・経済産業省:7.15%
・文部科学省:5.74%
・外務省:4.5%
・防衛省:3.54%
外交や防衛に精通している人は、特にマイナ保険証が「危険だ」と判断しているのでしょうか。
マイナンバーカードは国家公務員の「社員証代わり」なのに…
聞くところによると、国家公務員はマイナンバーカードを社員証のように使っているそうです。したがって、全員が常に携帯していることになります。それでもマイナ保険証としては使わないと判断しているのですから、もう終わっていますよね。
健康保険証の廃止まで1年を切った段階で、国家公務員の利用率が10%にも満たないと判明したことは、社会全体に大きな衝撃を与えたと思います。
しかし、それ以上に衝撃を受けたのは、きっとマイナ保険証推進側の当事者である厚生労働省とデジタル庁だったはずです。にもかかわらず、何とか広めようとシステム改修や広報活動に税金を湯水のようにつぎ込んでいるのですから、無能な人が行政の長に就くといかに深刻な事態になるか、おわかりいただけると思います。
全国の「自治体」でもほとんど活用されていないことが判明
マイナンバーカードがいかに使い勝手が悪く、不便であるかを別の角度から見てみましょう。
第一に挙げるのが、マイナンバーカードを図書館カードとして利用するのをやめる図書館が出はじめていることです。
徳島新聞の記事によると、徳島市立図書館ではマイナンバーカードを図書館カード代わりに使って本を貸し出すサービスを2024年5月26日に終了したとのことです。
河野デジタル担当大臣が「保険証をはじめ診察券や図書館カードなどあらゆるものがマイナンバーカード1枚で済む」、「マイナンバーカードはこれからのDXの基盤だ」と旗を振っている裏で、徳島市立図書館のサービスはひっそりと幕を閉じたのです。
徳島市立図書館は2019年にマイナンバーカードの利用を始めているので、積極的な図書館でした。それをなんで取り止めたかというと、一つ目の理由は「ほとんど利用されていなかったから」です。
2019年から2023年の5年間でマイナンバーカードを使った貸し出しが、たったの255件。図書館カードの登録者が13万4600人に対して、マイナンバーカードの利用者は78人しかいなかったそうです。そら止めるでしょうね。
もう一つの理由は、「法改正によりマイナンバーに対応するためのシステムを更新することが必要になり、費用がかかるから」です。ほとんど使われていないわけですから、取り止めたのは当然の判断です。
図書館カードを運用する程度のシステムなら、なにも大規模なマイナンバーシステムに連動せずとも、簡単な単独アプリで済ませたほうが合理的だということです。
なんでもかんでも大規模なマイナンバーシステムと連動することが不合理であることの証拠です。
「徳島市立図書館だけじゃないのでは」と思って調べてみると、すぐに複数の図書館でも同じようにサービスを停止しているのが見つかりました。これからもマイナンバーカードの利用を取り止める図書館は続くと思います。
会計検査院が「マイナンバー関連の情報システム」の“ムダ”を認定
第二に挙げるのが、会計検査院が2024年5月15日に発表した非常に興味深い調査結果です。それによると、全国の自治体ではマイナンバー関連の情報システムがほとんど使われていないことが判明しました。
会計検査院とは、国や地方自治体などの予算が適切に執行されているかを検査する政府の独立機関ですので、湯水のように税金を投入してさまざまな機能を開発したのに、ほとんど使われずに無駄に終わっていると公式に示したことになります。
以下に、調査結果を具体的に紹介しましょう。
この調査は460の自治体などに対し、マイナンバー関連の情報システムの1258機能の利用度を調べたものです。
結果、調査対象の自治体などの半数以上が活用している機能は、1258機能のうち、わずか33機能(比率にして2.6%)でした。
逆に、利用率が10%未満の機能は1134機能(90.1%)もあり、利用が「ゼロ」の機能に絞っても285機能(38.6%)と、ほとんど使われていません(【図表】参照)。
活用しない理由として「業務フローの見直しやマニュアル作成が未了」「添付書類を出してもらったほうが効率的」「かえって余計な作業が増える」という声があがっています。
現場の事情に配慮しない、間違った「デジタル化」
2024年5月15日付の朝日新聞の記事に現場の事情のよくわかる声が載っています。以下、引用します(2024年5月15日付 朝日新聞デジタル)。
「指定難病患者への医療費支給の手続きを担う同課には年間約1万3700件の申請がある。しかし、業務でマイナシステムを使わず、申請者には医師の診断書や住民票、課税証明書などの書類を提出してもらっている。
設計上、マイナシステムで入手できるのは必要書類の情報の一部だけで、システムを使ったとしても紙で書類を受ける窓口業務はなくならない。そのため、
従来の窓口業務に加えシステム対応の作業が純増することになってしまう。
また、システムによる照会では必要情報が届くのに数時間から1日以上かかり、作業効率が下がるという。先行導入した他県からは、エラーが出て情報入手できず、申請者に紙提出を求め直すなど業務量が増加したとの情報も入っており、導入すれば人員が足りなくなる可能性があるという」
業務を見直さず、従来の業務のまま、その上にマイナシステムを入れただけなので、このような問題が生じています。
マイナシステムを使うためだけに、何の価値も生まない業務が大量に発生し、多発するトラブルの対応に追われて膨大な時間が浪費される。まさに、間違った「デジタル化」の典型的な事例です。
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