「Colabo名誉毀損裁判」で385万円の“異例の高額賠償”命令…ネット空間で深刻化する「社会が壊れる危険」
9月24日、自身のニュースサイトと称するサイトやSNS上で、虐待や性暴力被害を受けた少女に対する支援活動を行う「一般社団法人Colabo」と団体代表の仁藤夢乃氏の名誉を毀損する投稿を繰り返した自称ジャーナリストの男性に対し、東京地方裁判所(片山健裁判長)は合計385万円の損害賠償と一連の投稿の削除を命じる判決を言い渡した(賠償額はColaboに165万円、仁藤氏に220万円)。
判決は、被告男性の主張を全面的に退け、厳しく断罪する内容となっている。また、賠償額も名誉毀損事件としては高額に設定された。他方で、被告はカンパにより2000万円以上の額を集めたとしており、敗訴判決を受けさらにカンパを呼び掛けている。損害賠償を命じる判決が、加害者に対する有効な制裁として十分に機能しないという深刻な問題が浮き彫りになった。
訴えられた被告男性の行為と、問題となった争点
本件で訴えられた被告男性の行為は多岐にわたるが、大きく分けて以下の2つである。
①自身のウェブサイト「エコーニュースR」とYouTubeチャンネル「えこーにゅーす・チャンネル」上で、原告らの名誉を毀損する記事・動画の投稿を行った
②ツイッター(現X)上で「音無ほむら(エコーニュース)」名義で、仁藤氏の名誉感情・肖像権を侵害する写真の投稿等を行った
なお、被告男性はインターネット上でColaboや仁藤氏らに対する誹謗中傷を繰り返す、いわゆる「暇アノン」とされる者の一人。その代表格である「暇空茜」と称する男性については、本件に先立ち、同じ東京地裁が7月18日に「いずれも真実であるとは認められないし、被告において(中略)真実であると信じたことについて相当な理由があるとも認められない」と断じ、220万円の損害賠償を命じる判決を行っている(被告は控訴)。
訴えられた行為について、被告男性がどのように正当性を主張し、裁判所がどのような認定を行ったのか、ポイントを紹介する。
名誉毀損についての被告の主張・証拠を「全面的に否定」
名誉毀損は、「事実を摘示し、他人の名誉を毀損した」場合に成立する。摘示された「事実」が真実か否かは関係ない。ただし、判例上、事実に公共性があり、かつ、公益目的があった場合には、一定の要件の下で例外的に不法行為責任が否定されることがある(最高裁昭和41年(1966年)6月23日判決等参照)。その例外は以下のようなものである。
まず、摘示した事実が真実だと証明すれば免責される(真実性)。また、真実性を証明できない場合でも、真実と誤信するにつき相当な理由があれば免責される(真実相当性)。
行為①で問題となった記事・動画の内容は、原告らが以下のような行為を行ったとするものである。
・非営利法人と偽っての「大量脱税」
・新宿区から3万6000円を騙し取った「詐欺行為」
・知的障害を持つ人を勧誘して巨額の利益を得る「貧困ビジネス」
・仁藤氏ら役員が1万円超の和牛コース料理を食べた「特別の利益供与」
これらの記事・動画について、被告男性は名誉毀損と認定されるのを避けるべく、「事実の摘示」ではなく「意見ないし論評の表明」「法的見解を示したにすぎない」などと主張した。
これに対し、裁判所は被告の主張をすべて退け、いずれも「事実の摘示」にあたるとしたうえで、原告らの社会的評価を低下させるとして名誉毀損を認定した。
また、免責事由となる真実性・真実相当性については、被告の主張、被告が提出した証拠の証拠価値をことごとく否定し、いずれの内容についても「真実であるか、または被告において真実であると信じたことについて相当な理由があるとは認められない」と断じている。
なお、「事実の公共性及び目的の公益性」については「検討するまでもない」とした。
「性的に揶揄(やゆ)する意図」「貶(おとし)める目的」を認定
行為②は、仁藤氏が過去に東日本大震災の被災地の高校の文化祭を訪問した際に撮影された、仁藤氏がフランクフルトソーセージを口元に近づけた構図の画像について、被告男性が「お下劣写真」等の文言を付して、口腔性交を想像させるツイートを行ったことなどである。
被告男性は「仁藤氏が破廉恥で卑猥な言動をとっていたという驚きを表現し、仁藤氏の言説に対して一石を投じるもの」「社会通念上許容される限度を超えて仁藤氏を侮辱するものではない」などと主張した。
これに対し、裁判所は「仁藤氏の言説に一石を投じる意図をうかがわせる記述は見当たらない」と断定した。
そのうえで、「被告は、敢えて仁藤氏を性的に揶揄する意図の下で、本件写真に卑猥な文言を加えて本件各ツイートをしたものとみるほかない」「性加害等に反対する立場から10代の若い女性を支援する社会活動を行っている仁藤氏の立場を貶める目的で投稿されたものであることが優に推認される」などと強い調子で断じた。さらに、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為として、違法である」とした。
原告側弁護士「ほぼ全面勝訴」
判決後の会見で、原告側弁護団の神原元(かんばら はじめ)弁護士は、今回の判決を高く評価するコメントを行った。
神原弁護士:「性的被害を受けている女性への支援活動を行っている団体に対し、2022年頃から大変なインターネット上での誹謗中傷というものが繰り返されている。被告男性の一連の行為は、この中のとりわけ悪質なもののひとつだ。
その違法性、悪質性というものが暴かれた判決ということで、我々は非常にこの判決を高く評価している。
もちろん金額についてはもっと高くないとおかしいと思うが、今の法制度にしては高額だ。 投稿の削除請求も認められていることからすれば、ほぼ全面勝訴と考えている」
損害賠償額ではカバーされない“深刻な損害”と“将来の損害”
他方で、仁藤氏は、判決内容を高く評価しながらも、それが加害者に対する抑止として機能しないおそれがあることに憂慮を示した。
仁藤氏:「被告は、『Colaboと裁判をする』『Colaboに関する調査をする』という名目で、カンパや寄付を募り、2000万円以上の収益があると投稿している。
今回支払いが命じられた385万円という額は、名誉毀損の裁判としては大変高額とのことだが、被告にとっては、それを支払ったところで痛くもかゆくもない。
女性支援を攻撃することで儲かってしまうという現状がある。他の加害者たちも、Colaboや少女たちを攻撃し、デマを拡散することによって カンパを集めて金儲けをしている。
一方で、私たちは、この裁判への対応や、デマを流されるたびに事実をお伝えするといったことに、多大なお金や労力を使わなければならず、本来の支援活動に多大な影響を及ぼしている」
Colaboの業務や、支援対象である少女たちにも、深刻な影響が生じているという。
仁藤氏:「Colaboに対する調査という名目で、少女たちのためのシェルターや私の自宅の場所を探ったり、訪れたりする人がいる。
Colaboのシンボルのピンクのバスなど、私や少女たちが出入りする場所がSNSでさらされている。少女たちもすごく気持ち悪がって、怖がっている。
すでにColaboとつながっている少女たちは、被害から脱して、人との信頼関係や自分の将来を考えられるようになってきたところで、『やっぱり社会ってこんななんだ』と絶望を感じてしまっている。
また、Colaboに助けを求めようと思った少女がネット検索した時に、『不正』とか『大量脱税』とかが関連ワードに出てきたり、被告の投稿が目に入ったりすると『そういうところなんだ、怖いな』と思って躊躇(ちゅうちょ)した少女もいる。
あるいは、Colaboに助けを求めたくても、『今助けを求めると自分もこのように晒されるのではないか』と不安を感じてSOSを出せなかったりした少女たちがいる。
私は、これらの事実があることを把握しているが、実際には、把握できていないケースの方が多いと思う」
名誉毀損の加害者が、加害行為に乗じて収益を得る。裁判所が明確にデマだと認定しても、それに対する法的な制裁と、被害者の救済の制度が十分に機能しないという事態が生じている。
インターネット空間での「デマ」が社会を壊すリスクにどう対処するか
特に、インターネットという空間では、デマがあっという間に拡散され、被害者が自力でそれを払しょくすることがきわめて困難という問題がある。
デマを軽信、あるいは虚偽と知りつつ、そのデマに乗じた発信をする人があとを絶たない。しかも、その中にはインフルエンサーや、知識人と目されていた人、「選良」であるはずの国会議員、地方議員、首長やその経験者さえいる。表現の自由についての従来の「思想の自由市場」「対抗言論」の考え方では十分な対処ができなくなってきているという現実がある。
神原弁護士:「控訴審では、請求額の満額の660万円を目指したいと思っている。そのためには裁判官に発想を変えてもらわなければならない。
SNS上のデマの被害は、すでに世界的な重大な問題になっている。アメリカではデマを信じて連邦議会の議事堂まで突入してしまう人もいる。イギリスで起きたイスラム排斥の暴動も発端はSNSだった。
デマによる名誉毀損の被害者が、200万円、300万円程度の損害賠償額で満足しなければならないというのでは、社会が壊れていくのを放置することになる」
意図的に虚偽の情報を発信・拡散して他者の名誉等の法益を著しく毀損し、かつ訴訟を起こされたら「カンパ」等の名目で利益を得ようとする行為が横行すれば、法的な救済手段が無意味になるおそれがある。
これを抑止するために、裁判所での損害賠償額の認定基準の見直し、あるいは、懲罰的損害賠償の制度の導入等も視野に入れた、被害者救済のための有効な対抗策が早急に求められている。
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