自衛隊「特別防衛監察」から1年…相次ぐ不祥事に現役自衛官、弁護士らが“ハラスメント根絶”を訴えるシンポジウム開催

榎園 哲哉

榎園 哲哉

自衛隊「特別防衛監察」から1年…相次ぐ不祥事に現役自衛官、弁護士らが“ハラスメント根絶”を訴えるシンポジウム開催
自衛隊のハラスメントの実態等を語る佐藤弁護士(右から2人目)ら(9月26日 都内/榎園哲哉)

国防を担う自衛隊のハラスメントを無くすことはできるのか。

ハラスメントの実態を調査するために防衛省が実施した特別防衛監察の結果公表(昨年8月)からおよそ1年となる9月26日、「自衛官の人権弁護団」は都内で「自衛隊は変われるか?―ハラスメント根絶のために―」と題したシンポジウムを開催。ハラスメントが起こる要因や解決策などについて討論した。

「内部通報=テロ」?新たに国賠訴訟提訴

自衛隊のハラスメント問題は、元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが隊内での性暴力を実名で告発したことを機に噴出した。防衛省は特別防衛監察を実施するとともに有識者会議を設置するなど、対策を進めている。

しかし、全省的な対策がとられる一方で、新たなハラスメントも露見している。

陸上自衛隊の部隊で隊員が隊長の行為について内部通報をしたところ、それが隊長らに知られ、「告発したのはお前だな、これは組織に対するテロ行為だ」と非難された。ハラスメント根絶のための告発がさらなる嫌がらせを生む悪循環だ。

この事案を受け「自衛官の人権弁護団」は6月20日、札幌地方裁判所で国家賠償請求訴訟を起こした。同弁護団による国賠訴訟は、現役女性自衛官が長年にわたり性的暴言を受け続けていたことについて、昨年2月東京地方裁判所に提起したのに続いて2件目。

9月9日には札幌地裁で第1回口頭弁論が開かれたが、証拠(声の録音)もあり、防衛省・自衛隊は事実関係を認めている。

内部通報自体を問題視し、「テロ」と捉え、ないものにしようとする自衛隊の姿勢に、弁護団団長の佐藤博文弁護士は「ハラスメントや不正行為に対して声を上げる隊員をつぶしにかかる。この体質を変えなければいけない」と強調した。

「声を上げようとする隊員は誰もいない」

また、同弁護団・事務局長の武井由紀子弁護士は、特別防衛監察が隊員に行ったアンケートでは本当の声は得られないとして弁護団が独自に行ったアンケート(昨年11~12月、WEB)結果を紹介した。

独自調査には143件(9割が現役・元自衛官)の回答があり、そのなかには「夜勤の仮眠時に(上司に)突然襲われ、レイプされた」という極めて悪質な事例があったことも報告された。

アンケートから明らかになったのは、隊内においてハラスメントを報告した隊員の6割が配置転換などの不利益を受けている一方で、加害者は全体の3%しか処分されていない、という実態だ。

「これでは声を上げようとする隊員は誰もいない。声を上げる隊員の安全は守られなければならない」(武井弁護士)

オンラインでシンポジウムに参加した元陸上自衛官の魚住真由美さんは、アンケート結果を受けて「(現役のころ)後ろから抱き付かれたり、胸をわしづかみにされたりした。いまだにそうしたことが行われていることに憤りを感じる」と怒りを隠さなかった。

一方、護衛艦「たちかぜ」でのいじめによる乗員自死の裁判に長年取り組んだ田渕大輔弁護士は、「(いじめを認めれば)艦長以下の責任が問われることになる。組織防衛がなにより優先されている」と指摘した。

亡くなった男性はいじめに遭ったことを遺書に残しているにもかかわらず、自衛隊側は借金苦が自死の原因であったかのように主張していた。こうしたことを踏まえ、田渕弁護士は、「(隊にとって)不都合なことであっても正面から見つめる。そうすることによって初めて再発防止はできる」と訴えた。

防衛省職員「任務遂行のためには規律維持が必須」

シンポジウムには現役の防衛省職員も出席した。

弁護団からの「特別防衛監察結果、有識者会議提言を受けこの1年で実施できたことは何か」という質問に対して、同職員は次のように回答した。

「ハラスメント防止月間(1月、7月)を設け、弁護士によるハラスメントの防止講演会を開いたほか、部外講師による教育の拡充、第三者による相談窓口の拡充など、実効性のある防止対策を進めている。加害者に対する態度の改善を促す再教育の実施、懲戒処分基準の適正化を図ることも予定している」

また、弁護団は自衛隊内の規律について定めた「服務ハンドブック」(幹部隊員用・服務参考資料)に「自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する」と記されていることに触れ、「憲法13条の個人主義・人権尊重主義に反しないか」「上官や先輩によるハラスメントの精神的な温床になっていないか」と質問した。

職員は、「防衛省・自衛隊の任務遂行のためには、部隊の規律維持が必須。職務に照らして、職務に適正な範囲内で時には厳しい指導が行われることもある。一方で、ハラスメントは職務の適正な範囲を超えたものである。正しい認識を自覚させることを目的として各種教育、研修等に力を入れている」と述べた。

「しつけではなく法律に基づいてほしい」

9月23日、ロシア軍機が北海道・礼文島付近で領空侵犯を行い、航空自衛隊機が対処した。航空自衛隊は24時間態勢で空からの脅威に目を光らせている。全国で昼夜を問わず、職務や訓練にあたる防衛省・自衛隊の隊員・職員たち。人的基盤を強化するためにもハラスメントは看過できない。

鉄拳制裁のような旧日本軍の悪しき“伝統”や“体質”などが引き継がれていないか。ハラスメントなど無縁の洗練された組織になるためにはどうしていけばいいのか。

佐藤弁護士は「防衛省・自衛隊が自ら実態を明らかにする。自らできないのであれば、第三者機関に調査してもらい公表する」と体質改善の必要性を改めて訴えた。

さらに、職員(国家公務員)からの苦情相談なども定める「人事院規則」を例に挙げ、「(自衛隊は)しつけ(指導)といった法律以外の論理やルールを用いるのではなく、法律主義に基づき、法律を順守してほしい」と力説した。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア