DAZN相手に一人で訴訟を提起“Jリーグサポーター”20歳の法学部生…「ユーザーの気持ちを無視した」サービス“改悪”の中身

弁護士JP編集部

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DAZN相手に一人で訴訟を提起“Jリーグサポーター”20歳の法学部生…「ユーザーの気持ちを無視した」サービス“改悪”の中身
「企業の対応に泣き寝入りでなく、立ち向かう姿勢を感じてもらえば」とDAZNを訴えたHさん

スポーツ専門のVODサービス、DAZN(ダゾーン)が訴えられた。原告は都内の法学部3年生Hさんだ。DAZNは2016年7月にJリーグと10年合計約2000億円の巨額の放映権契約を結んだことで一躍名が知られたオンラインスポーツ配信の巨人。そんな相手に、弁護士もつけずにひるむことなく立ち向かうHさん。11月の第一回口頭弁論へ向け、いまの率直な思いを聞いた。

「大きな企業だからといって、何でも許されるということがまかり通ってはならないと思います。今回のDAZNの行ったことは、多くのJリーグサポーター、ユーザーを困らせています。とうてい看過できないですし、誰も訴訟をやらないなら自分がやるしかないかなと」

Hさんはクールな口調で、大企業相手に訴訟を提起した理由を明かした。

突然変更された視聴環境にネット上で不満殺到

Hさんが問題視しているのは、同社が今年2月に行った突然の仕様変更だ。それまで「IPアドレスにかかわらず2台で同時視聴可能」だったものを、「同じIPアドレスに接続した2台の端末のみ同時視聴可能」と変更した。

この改変によって、あるユーザーは自宅のテレビと外出先のスマホでの同時視聴を試みると視聴がブロックされるようになったという。

X上でこの現象について同ユーザーが投げかけた質問に対し、DAZN側は「ご自宅等でご家族の方と、それぞれの端末で同時視聴されることがあるかと存じますが、その際は同一IPアドレスのインターネットに接続いただくようお願い申し上げます」とX上で公式回答している。

このピントを外したような回答に、ユーザーからは不満が殺到する。

「DAZNさん全然会話になってない(笑)」「出張中で出張先から見る夫と自宅で見る妻はどうしろと言うんですか?家族なのに追加料金支払えと?」「いやいや、それは無理やろ。夫婦同一生計の時、出先の夫と自宅の妻でみられなくなるよね?値上げしといて、家族で見れなくなってサービス悪くなるのか、どういうこと?」「まあ、家の中ならwi-fi繋いでも、外に出るアドレスは同じだから何とかなるか。。。夫婦別サポだから、複数台使うこともあるしな。問題は外出時だ。。。」

さらに、「値上げまでして、急にこれは酷い。それなら年パス買いませんでした。返金して欲しいです。」。挙げ句には、「本日解約させていただきました。ありがとう。さようなら。」とDAZNとの決別を宣言する投稿もあった。

X上の一部コメントにもあったように、これほど視聴環境に重大な影響を及ぼす仕様変更を、同社はJリーグ開幕9日前に突如実施。そのやり方が火に油を注ぎ、ユーザーからの大きな反感を買うことになった。

同社はさらに、異なるIPアドレスでの同時視聴には月額980円の追加料金が必要と、実質値上げとなる料金設定の変更も行っている。

訴訟提起を決断した理由

Hさんは、訴訟提起を決断した理由について、以下のように語った。

「今回の仕様変更は、ユーザーの気持ちを無視した改悪といわざるを得ません。私はまず消費生活センターに相談しました。しかし『弁護士に相談します』といってから音沙汰がありません。消費者だから泣き寝入りしなければいけないなんて、不条理だし許せません。そこで、DAZNを被告として、同時視聴可能台数変更は無効であり、同社は契約を一部履行しなかったものとして損害賠償を求める訴えを起こすことにしたのです」

Hさんはヴェルディサポーターでもあり、DAZNとは2023年7月に年間プラン3万円を契約している。その際、異なるIPでの「2台同時視聴可能」がうたわれており、Hさんはそこに魅力を感じていたという。

DAZNが正当性の根拠とする規約(DAZNウェブサイトより)

訴訟提起にあたっては、その点をほごにする今回の仕様変更について同社に問い合わせたというが、利用規約を盾に、正当性を主張されたという。

争点は利用規約に消費者契約法が該当するか

裁判では、同社が仕様変更の正当性の根拠とする「利用規約4.10」にある「当社は、適宜、当社のサービスプラン及び当サービスの価格を変更することができます」の文言の有効性が争点になるだろうとHさんはみている。つまり、この規約が、消費者契約法における「消費者の利益を一方的に害する契約条項は無効とする」と定められていることに該当するかだ。

なんともたくましいこれら一連の動きを、Hさんはアカウント名「おさしみ」でnote(https://note.com/verdys_juristic/n/nf1b638c68e69)上に公開している。同じように不満を抱いていたユーザーも多かったのだろう。その反響は大きく、たくさんの励ましやカンパしたいという声が届いたという。

もっとも、大胆にみえるこうした行動も、Hさんにとっては特別なことではないようだ。「理不尽なことやモヤモヤすることがあれば、ため込まず、すっきりさせたい性分なんです」。

高校時代には教育委員会相手に情報開示請求の「実績」

象徴的なエピソードがある。Hさんは高校時代、教育委員会に対し、小学校と中学校の指導要録(通信表の原簿となる内部文書)の個人情報開示請求をした。ところが、その中の「所見欄」が黒塗りになっていたという。

納得できなかったHさんは、審査請求(不服申立て)し、結果、全面開示に至ったという。一高校生のこの行動は当時、地元紙でも取り上げられ、Hさんは「特に変わったことは書かれておらず、開示しないのはばかげている。閉ざされがちな行政を打開するきっかけになってほしい」と紙上でコメントしている。

なにか違和感を覚えたり、疑問に思ったことは放置せず、とことん追求する――。ピュアで正義感にあふれ、圧倒的な行動力があるHさん。それだけに、今回の「DAZN訴訟」に対しても、あくまで平常心だ。

「Jリーグファンの一人である私にとって、巨額の放映権契約に加え、Jリーグ全試合を放映してくれているDAZNにはとても感謝をしています。しかし、DAZNによる今回のサービス変更は、Jリーグに限った話ではなく、DAZNユーザー全体に関わる問題です。このままなにもしなければ、このような改悪が当たり前になる可能性があります。それはやっぱり見過ごすわけにはいかないんです」

理不尽を感じながらもあくまでクールに語ったHさんは、高校時代から法律に触れ、現在も都内法律事務所でアルバイトをしている。「将来は、大きな相手の理不尽やごう慢に苦しめられている小さな個人を救える弁護士になりたいですね」と法曹界での活躍が目標だ。

身に降りかかった理不尽に立ち向かう20歳の法学生は、「今回は大きなお金が動くような裁判ではないですが、大企業による理不尽なことでも泣き寝入りするんじゃなく、自力で活路を見いだすこともできるんだということを感じてもらえばうれしいです」と、控えめにこぶしを握り締めた。

なお、第一回口頭弁論の期日は2024年11月13日(東京地裁)に決まっている。

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