電動キックボード“子どもと二人乗り”で信号無視も「事故になったらクルマが不利?」 弁護士の回答は…

弁護士JP編集部

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電動キックボード“子どもと二人乗り”で信号無視も「事故になったらクルマが不利?」 弁護士の回答は…
「電動キックボード」の2人乗りは禁止されている(※写真はイメージです。ACworks/PhotoAC)

運転免許なしで電動キックボードなど「特定原動機付自転車」が運転できる“新たな交通ルール”が昨年7月に施行されて1年が経過した。警察庁のまとめによれば、新たなルール施行後1年間でキックボードが関連する事故は219件発生。このうち、レンタル車両による事故が9割超だった。

国内最大手「LUUP」の対策は?

電動キックボードなどのシェア(レンタル)サービス事業者も手をこまねいている訳ではない。国内最大手の「LUUP」は、今年6月から独自の違反制度を開始した。ユーザーが警察の摘発を受けるなどした場合、独自に違反点数を加算。一定の点数に達すると30日間車両の使用ができなくなり、利用停止期間が明けてから1年以内に再び違反した場合、無制限で乗車できなくなるというものだ。

また、飲酒運転やひき逃げ・当て逃げなど、一部の重大な違反については、「一度の取り締まりでアカウントの無期限凍結となる運用を実証実験時から続けている」(LUUP広報担当者)という。

しかし、こうした事業者側の対策の一方で、「悪質な電動キックボードユーザーがいた」という声はSNSなどで多く上がっている。

最近話題になったのは、親子と思われる男性と女の子が電動キックボードの「2人乗り」で車道を走行。車両用の信号を無視し、交差点内を進む動画だ。

当人たちの事故の心配をする声もあったが、こうした電動キックボード側の交通違反により事故が起こった時にも“クルマの方が悪い(過失責任が重い)”と判断されるのは理不尽だといったドライバーらの声も多かった。

クルマ側の過失割合が低くなるケースはあるが…

交通違反をしている電動キックボード側と、巻き込まれる形で事故を起こしてしまった自動車。実際には、どちらがより重い過失責任を負うことになるのだろうか。

交通事故に多く対応する鷲塚建弥弁護士は、まず「交通事故全般として、自動車側の責任が重い傾向」だとして、その理由を次のように話す。

「自動車の運転行為そのものの危険性が高いため、車の運転手はそれに応じた高い『注意義務』を負うことになります。一般に交通事故で自動車側の過失割合が高くなるのはこのためです。電動キックボードと比べても、自動車を運転するという行為は危険性が高く、責任も重いと判断されやすいのです」(鷲塚弁護士)

しかし、電動キックボード側に重大なルール違反があれば、自動車側の過失割合が低くなるケースもあると鷲塚弁護士は続ける。

「過失割合は、事故態様において基本の過失割合が決まるため、電動キックボード側が赤信号無視などの交通規制違反を行っていた場合は、電動キックボード側の過失割合が高くなります。

ただし、交通規制違反と一口に言っても、たとえば赤信号無視と一時停止無視では危険性の程度が異なります。違反の種類によっては、電動キックボードの過失の方が高くなるまでに至らないものもあるのが事実です」

電動キックボードとの事故「対策」は?

鷲塚弁護士は、電動キックボードが近くを走っている際にできる事故対策として、以下の2点を挙げる。

・万が一、近くを走る電動キックボードが転倒しても、十分に避けることのできる距離を保って走行する
・電動キックボードを追い抜くときは、距離に余裕をもつ

また、事故が起きてしまった場合は、ほかの事故と同様にドライブレコーダーのデータが重要になるという。

「自身の運転に問題がなく、電動キックボード側の問題で事故が生じた場合には、ドライブレコーダーが保存されているかもしっかりと確認し、消えてしまわないように証拠を確保するようにしてください」(鷲塚弁護士)

海外ではシェアサービス廃止、規制強化も…

電動キックボードなどのマイクロモビリティは、環境性能に優れ、地域内の手軽な移動手段として期待されているが、ルールを守らない一部ユーザーの影響は、当人たちが思っている以上に大きい。

オーストラリアのメルボルンでは今年8月、事故や苦情の増加を受けて電動キックボードのレンタル禁止が決定した。フランス・パリでも、危険運転や乗り捨てが社会問題となり、昨年シェアサービスが廃止。2018年の導入当初は免許不要で運転できた韓国でも、2021年からは免許とヘルメットが必須となった。

LUUPの広報担当者は、一部の利用者による悪質な違法走行が発生している現状について、編集部の取材に対し「大変残念に思うと共に、重く受け止めています」と回答。

正しく利用する人が肩身の狭い思いをすることは本意ではないとして、今後について「業界団体や地元警察、自治体とも連携し、オフライン・オンライン両軸の取り組みに力を入れ、より一層の啓発に取り組んでいく所存です。電動キックボード、そして自転車を含めた電動マイクロモビリティ全体の交通ルールの正しい理解が進み、交通事故や違反行為がゼロになることを目指して、努力を続けてまいります」と語った。

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